彩食祭-2

 噴水のある広場で馬車は停まる。ノバが振り向いて、荷台にいるふたりに声をかけた。



「この噴水がテーラウムの中心なんです。各通りの入口に通り案内がありますから、ぜひ観光の参考に! 多少変わっているかもしれませんが」



 そう教えてもらい、ノバと別れた。


 ノバの言う通り、各通りに案内板がある。パッと見た限りで宿屋と飲食店が随分多い。流石は旅人が多く立ち寄る町、といった具合だ。


 驚くことに、飲食店でひとつ、農場を隣接して持っている店があった。



「リルレじゃ考えられないぜ…広ぇや」



 それからふたりはいくつか覗いて安さと雰囲気を気に入った宿屋で2部屋を半月分借り、それぞれが今日は自由行動、ということにした。


 エクトルは唯一農場を持つ飲食店が気になっていて、真っ直ぐにそこを目指す。『モルガ食堂』という名前の店だった。


 人通りもリルレに比べて随分と多い。住宅と店が入り乱れていて、活気の良い声が通る人々を呼び止めている。


 モルガ食堂は第三通りの突き当りにあった。農場部分は住宅五軒分程のスペースがある。


 全段に太陽光が当たるようにか、植木スペースは階段状になっている。高さも利用した、随分と種類の豊富な菜園だ。


 柵で仕切られた先には鶏と山羊がいるようで鳴き声が聞こえてくる。


 モルガ食堂の建物自体はそれほど大きくない。町でよくある店の大きさだった。


「野菜売ってたりしないかなぁ」宿屋には言えば貸してくれる厨房があったので、せっかく使えるなら時々何かを作りたい気分になる。



「売りませんよ、取引先以外へは」

「うわぁ!」



 背後の声に驚かされる。振り向くと肉や米といった食品を大量に抱える女性がいた。



「ついでに。ここは見学施設ではありませんけれど」

「あ。すみません…」



 罪悪感に縮こまるエクトルを冷たい視線で一通り見てため息を付いた。



「別に。見世物ではありませんが、満足されるならどうぞ。減るものではありませんし」



 女性はそう言い切ると、店の中に入った。

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