彩食祭

彩食祭-1

 テーラウムという町は、大陸全体が寒くなる水の季節の中、特に寒くなる南部側では避寒地として、旅人がよく集まる町である。


 テーラウムから北方面へ進めば、大都市レッハルトを中心に経済的にも栄えた大都市圏へ。南方面へ進めば、大都市から離れて自然豊かな田舎町へ。


 大陸南部は北部に比べると、少し貧しいイメージがある。テーラウムは大都市圏に匹敵、とまでは行かないものの、南部の中ではかなり栄えている町だ。


 リルレからは少し距離がある。風の97日にリルレを旅立ったゼナイドとエクトルは、赤い太陽が落ちてからの長い夜の時以外を使って5日は歩き続けていた。そんな日々を過ごして6度目に起きた日。


 ゼナイドもエクトルもテーラウムへは行ったことはない。



「意外だな」

「私も北上している最中だよ。迷いながら来ているから…」

「ああ…」



 ふたりともテーラウムを楽しみにしながら、足を進めていく。



「おーい、そこのおふたりさん。テーラウムですか。よかったら乗って行きませんか」



 馬車をひく青年に親切に声をかけられ、目的地が同じことを確認し、その言葉に甘えてふたりは馬車に乗せてもらった。


 馬車の操縦者は、火の魔法が得意なラマンダ族の特徴が強い。


 ラマンダ特有の蜥蜴を二足歩行させた姿で、尻尾を慎ましく腰に巻いて座っている。服装は随分厚着で、暖かそうだが機動性がなさそうだった。


 馬車の荷台に2人は乗せてもらう。荷台には、操縦者が使うのであろう、少し古びた槍と数冊のノート、茸や草といった植物が載せられている。


 ノバと名乗ったラマンダの青年との馬車での道中でもいくらか獣と遭遇した。ゼナイドとエクトルのふたりに、ノバも加わっての退治は楽だった。


 槍と火の魔法をうまく使いこなすノバ。エクトルは氷柱を作り出して投げつけるというだけの戦法を悲しく思った。とはいえ、エクトルは武芸には一切触れたことがないので、たちまち武器を渡されても困る。魔法を磨くしかない。


 それから3日ほどかかった頃、テーラウムが見えてきた。リルレ以上に高い壁で町を囲っている。パッと見える壁面でリルレの町より大きいことがわかった。



「懐かしいなあ。変わってないや」



 ノバは5年前に一度、テーラウムに来たことがあるようだった。入る前に門兵に簡単に荷物や出自、滞在目的を確認されて、許可を得て町に入る。


 青い太陽が頂点を過ぎた頃、3人はテーラウムへ到着した。

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