星の砂-44

 風の季節も100日を超えた頃、ゼナイドとエクトルはリルレの町を旅立つことにした。


 二人の目的地は大都市レッハルト。


 ゼナイドは銀の民について研究を重ねている、ロイという人物を尋ねる。


 エクトルは魔法師団員養成のために、レッハルトをはじめいくつかの都市に建てられた魔法教育機関を目指すことにした。



「レッハルトに最短で行ける道があるらしいんだけど、キノが言ってて」

「急ぐ必要がないのなら、いろんなところをまわらないか? エクトルはそっちの方が好きそうだ」

「じゃあ…お言葉に甘えます」



 風の季節の終わる頃は肌寒くなっている。季節が変わって水の季節になると、リルレ周辺、大陸南部は雪が降る。積雪はそこそこにある地域で、年によっては豪雪がやまない時もある。雪解けを待っていれば年は越える。


 リルレの町から北進した先の、テーラウムの町で水の季節を過ごすことにした。テーラウムはリルレに比べて暖かい。年が変わる前、つまり1ヶ月以内にはテーラウムから動き出せる可能性がある。



「なんか今回は雪がしっかり降りそうなんだよなぁ」



 エクトルがなんとなくそうぼやいて、だったらとテーラウムへ行くことが決まった。「え、そんな、信憑性はないぞ、適当な勘だぞ?」


 町門には、ディリガとトウナ、それからローハ、リヤ一家、酒場の常連が数人とふたりを見送ってくれようとしていた。



「僕はしばらくリルレを離れる気はないから、安心してね」



 そう言うディリガに、本当かとトウナは視線を向ける。



「あのねエクトル。シャロが大きくなって、もしその気になったら、魔法師団を目指すわ。そうしたら、先輩風吹かせて頂戴」

「エクトルがシャロの先輩か。なんか悔しいけどなぁ」

「俺、まだ魔法師団に入るかわかんないけど?」



 青い太陽の時、くすぐる冷ややかな風は水の季節を導こうとしている。



「ふたりとも、帰って来てね」

「帰ってくる頃にはゼナイドも酒飲めるだろ、ごちそうと待ってるからな」

「私も帰って来ていいんだね」

「当たり前よ」



 トウナがゼナイドを抱きしめた。「絶対帰って来てね」



「なあその温度感、どっちかってと俺に向けるもんじゃない?」

「エクトルはどうせ帰ってくるでしょ」

「どうせ?!」



 それからゼナイドとエクトルは門をくぐった。星の砂を探している時以来だった。


 町門から見送りの声が聞こえてくる。その声たちに後押しされて、ふたりはリルレの外を歩き出した。

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