彩食祭-4
モルガ食堂は酒場のような騒がしさのない、ゆったりとした雰囲気を流していた。青い太陽ももうすぐ落ちきって、星空が広がりそうな時間だからということもあるだろうが。
「どうぞ、ごゆっくり」
ほかほかと湯気がたつ野菜カレーとバゲットを持ってきてくれたのは、先程出会った女性だった。別の席の片付けをしている者が「ごゆっくりー」と続けた。
奥の方で少しふくよかな女性が動いていた。あの女性が料理人だろうか、厨房の様子はよく見えないが思ったよりは広そうだった。
「何か気に障ることがありましたか」
女性が不思議そうな表情を浮かべながら問う。「ああ、いや」
エクトルはローハの酒場で働いている自分を思い出す。店の種類はそもそも違うものの、食事を提供し、対価を得る仕事。なんとなく比べるように見てしまう。「リルレの酒場で働いてたから、なんかいろいろ見ちまってて…」
「ああ、旅のお方ですか。道理で見ない顔と思っていました。あまりソワソワされると不思議がられますよ。今後は気をつけたほうが良いかと」
「気をつけます…」
「ちょっとエルってば」
いつの間にか女性――エル、と呼ばれた――の後ろに奥にいたふくよかな女性が立っていた。「お母さん」
どうやら親子で経営しているようだ。エルの母が、エルの頭を軽く小突いた。
「ごめんねえ、お客さん。この子の言い方キツイだろう、悪気はないのだけれどね」
母は先程から冷たい雰囲気と表情が印象的なエルと対照的に、随分温かい様子だった。まさに『モルガ食堂の母』である。最早『おかあちゃん』と言うべきかもしれない。
「ゆっくりしてね」
そう言って母はエルを引き戻すようにしながら、2人は奥へ行ってしまう。
確かにエルは冷たいというか、キツイのだが、そこには不快な感情を抱くことはなかった。淡々としているだけで、エル自身も嫌々ながら、というわけではなかっただろうし。
などと考えながら早速カレーを口へ運ぶ。
サラリとしたルーは口当たりが軽かった。ピリリとした辛味があるが、エクトルにとっては程よい。そしてそのルーにアクセントをつけるように、複数の野菜の個々に異なる味、食感。「おお、うまい」と思わずこぼさずにはいられなかった。
バゲットにも合いそうだ、贅沢に野菜を乗せて食べてやろう。食べることへわくわくしながらエクトルは食事を進めた。
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