星の砂-8

 青い太陽が昇り始めた頃に目を覚ますと、寝台の上にいることに気づく。きちんとしたところで寝るのは久々だった。


 ムクリと起き上がり、近くに剣があることを確認する。それから、床に布団を敷いて寝る女性。彼女を見て、これまでの経緯が記憶で結び付く。


 酒場の店員の家に来た。その家は、探し人ディリガの家で、彼女はその娘。ディリガは今、研究のために旅へ出ていて、戻って来るまではリルレにいようと決めた。



「うん…おはよう、ゼナイド」

「おはようございます…ええと、ベッドを占領してしまって申し訳ない」

「私、トウナ。いいのいいの…」



 少し背中を痛そうにしながら、トウナも起き上がる。それから案内されるようにして、部屋を出て行く。


 顔を洗うとトウナがシャワーへ案内した。「あるもの、好きに使っていいよ」トウナの趣味か、実はエクトルかはわからないが、揃いの良い風呂用品が綺麗に並んでいた。


 やはり久々に浴びるシャワーは心地が良い。リルレが近いと思い、ならば寝ずに行けるだろうと、着くまでの数日間はひたすら歩いていた。思ったより遠かったのである。


 途中現れる獣退治などで見えない疲労はあったようで、お陰でぐっすり眠ることができた。念願の風呂では、肌や髪の感覚が気持ち悪かったのがさっぱりだ。



「服、置いておくね」

「ありがとう」



 トウナは優しい。改めて、リルレの町民の優しさを再確認する。


 なんとなく伸ばしているギシギシとした髪を2回ほどしっかり洗い、ひとまず汚れはあらかた片付いたことに満足して、用意してくれた湯船に浸かる。



 ―――銀の幻獣になったから?



 昨日エクトルから言われた言葉を思い出す。エクトルの黒髪、緑の瞳という風貌は、11年前に起きた大嵐で、集落が消えた一族に一致している。


 大陸で魔法が使えないヒュマノや、魔法が使える四種族、ヒュマノと四種族とのハーフ、アイテルマノが繁栄していった結果が今だった。


 そんな大陸が発展していく前からいたという、神のお告げを受ける者達。彼らからすべてを奪った大嵐の日、大陸の至る所で、空に銀色の龍達の姿を見たという声が多かった。


 故にあの大嵐は、銀の幻獣の仕業とされている。


 夢を思い出す。


 母がいなくなって、数年経った時。父から剣を渡された。



「お前に渡せと言われていた。彼女がいなくなる前に」



 母の形見と思って大事にしよう。大変細く、美しくすらりと刀身がのびる銀色の剣を手に入れた。


 その日に眠った時に見た夢。


 ゼナイドの中の母の記憶は随分薄れていたが、夢に出てきた女性が母親だとすぐに分かったのは、やはり血縁だろうか。



 ―――紫の空の時、剣を空へ掲げなさい。



 紫の空。それはきっと稀に訪れる、青い太陽が沈みきる前に赤い太陽が昇った時。短い星の時が、消えてしまう時。


 そんな空の時は、いつ来るかわからないが、母がそう言った。ならばそれをしなければならないのだろう。


 あの夢を見て、ゼナイドは旅に出ることにした。父は反対しなかった。そうなるだろうと知っていたような様子で「行って来るといい」とぼやいた。

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