星の砂-9

 風呂から上がり、居間に戻るとトウナがご飯を用意していた。



「昨日からエクトルが作り置きしてた分。美味しいよ」

「ありがとう」



 芋と玉ねぎ、人参の入ったスープ。それから、柔らかそうなパン。



「パンもエクトルが?」

「あはは、流石に買ったやつ。ミレー通りに、パン屋さんあるから」



 でも頼んだら焼いてくれるかも、あの人料理好きだから、とぼやきながらトウナが自身の身支度を進める。



「そうだ。リルレの宿屋を教えてほしい」

「えっ」

「え?」



 トウナが目を丸くしてゼナイドの方を見た。「ココじゃだめ?」



「え、いや」

「だって。父さん帰って来るまでって、いつかわかんないし。ずーっと宿屋だと、お金無くなっちゃう」

「いや、それは働きながらなんとかするつもりだったし…その、申し訳ない」

「えー! 私、ゼナイドいてくれると嬉しいな。エクトルもそうだと思うよ。お家、賑やかになるの好きだし」



 そう言われると。


 ゼナイドはそのありがたい言葉に甘えるしかなかった。



「お金は、何か払わせてほしい。なんというか、お礼としてできることを」

「ええ〜、いいのに。待たせてるのこっちだし、うーん…じゃあ…食費? お願いしようかな」

「わかった、ありがとう。本当に助かる」



 トウナが嬉しそうな表情を見せて、お風呂場へ向かおうとした時、扉が叩かれる。「リヤです」


「リヤさん?」トウナが駆け足で扉を開けに行く。


 そこには昨日少し見覚えのある、飲み物を振る舞ってくれたリヤという青年が、疲れ切って、曇った表情を浮かべていた。



「あ、トウナ…えと、エクトルは」

「寝てる」

「そうだよな…じゃあ、伝えてほしいんだけど」



 今日、酒場へ働きに出ることができない、ということだった。どうにも子供の体調が悪いらしい。



「ここ数日、赤い太陽の時に高い熱を出してた。昨日からずっと具合悪そうで」

「わかった。イーリアさんとしっかり大事にしてあげて」

「ありがとう…一応俺から、ローハさんには伝えておいた。ローハさんの腰が治ってから、店は再開させると思う」

「じゃあエクトル、少しの間、お休みだね」

「ああ…流石にエクトルでも、ひとりじゃ難しいだろうし」



 エクトルが働きに行く酒場の人手不足が目に見えてわかる。子供の体調も心配だ。そんな中のリヤは、いろいろなことに打ちのめされているようだった。



「人手が、足りないのなら」



 ゼナイドは、おずおずと右手を挙げる。「私で良ければ、手伝わせてくれないか。昨日の恩返しと思って」

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