実績6『お前バズってんじゃん』
「ど、どうしたの? 具合悪い? もしかして、足捻っちゃったとか!?」
大野さんがふるふると首を揺する。
「そういうんじゃない」
「じゃあ、なんで……」
「……可愛くないじゃん」
「え?」
「あたし。全然可愛くない……。いや、元からだけど……。なんか動画で見たら、再認識して萎えちゃった……。ごめん小鳥遊。折角付き合って貰ったのに……」
なにそれ。
なんだよそれ。
意味わかんないじゃん。
「そんな事ないよ。大野さんは――」
「そういうのいいから。慰めないでよ……。余計に惨めになるから……。小鳥遊も見たでしょ? 他の動画の子、みんなちっちゃくって可愛いじゃん。キラキラしてさ。あたしなんかとは全然違うじゃん。あたしみたいなデカ女が真似しても、みっともないだけだって。やるだけ無駄、バズるはずないし」
「大野さん……」
なんでそんな事言うの?
なんでそんなになっちゃうの?
そんなの大野さんらしくない。
全然大野さんらしくない。
解釈不一致だよ!
でも、それも大野さんなのだ。
そういう一面も大野さんにはあるのだ。
自分の事をガサツな男勝りと言っておきながら、普通にヘラる女々しさだって持っているのだ。
そりゃあるだろう。
だって大野さんは普通に女の子なんだから。
そして僕は男の子だ。
大野さんの彼氏なのだ。
ヘラっている彼女を放っておく事なんか出来るわけがない。
大野さんが自分を見放しても、僕だけは味方でいなければいけない。
幸いな事に、それは全く難しくない。
さっきのお遊戯よりもずっと簡単な事だった。
「大野さんは可愛いよ」
「やめてって……。今はそう言うの、聞きたくないから……」
「だって可愛いもん! 大野さんは可愛い! 世界一可愛い! 宇宙一可愛い! 銀河一可愛い! この世で一番可愛い!」
「可愛くねーよ!」
「可愛い! 可愛い! 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!」
大野さんが怖い顔で叫んでも僕は気にしない。
バカみたいに可愛いを連呼して、大野さんに近づき、小さな体を精一杯広げて大野さんを抱きしめた。
「た、小鳥遊!?」
「大野さんは可愛い。誰がなんと言おうが可愛いよ」
「……そりゃ、小鳥遊にとってはそうかもしれないけど」
「誰にとっても可愛いよ。僕だけじゃない。みんなそう思う。だって可愛いもん」
「いや、気持ちは嬉しいけど……。マジで嬉しいけどさ、流石にそれは……」
「じゃあ試してよ。動画上げよう。可愛かったらバズるでしょ? そしたら大野さんのバカみたいな勘違いも間違いだって証明されるじゃん」
「バカみたいな勘違いって……」
苦笑いを浮かべると、大野さんは諦めるようにして言った。
「まぁ、いいか。そこまで言うなら動画上げるよ。……でも、バズんなくてもガッカリすんなよ? てか、絶対バズんねぇから……。ごめんだけど……」
「バズるって! 僕を信じて! ただ、その為に一つだけやって欲しい事があるけど」
「なんだよ……。言っとくけど、エッチなのはダメだぞ? そんなんでバズっても嬉しくねーから!」
「違うよ!」
ていうか、その手もあったか!
それならもっと簡単にバズれそうじゃん!
いや、ダメだけど。
僕以外の人に大野さんのエッチな姿なんか見せたくないし。
「大野さん、ヘアゴム持ってる?」
「持ってるけど……。何に使うんだ?」
大野さんがヘアゴムを取り出す。
「ヘアゴムの使い道なんか一つしかないでしょ。髪を結うんだよ。大野さん、ツインテールにしよう!」
「………………てめー小鳥遊、ふざけてんのか?」
「ふざけてないよ! マジのマジ! 百パーセント真剣だから!」
「どこがだよ! あたしがツインテールとか、似合うわけねーだろ!?」
「似合うよ! 絶対似合う! 花京院の魂を賭けたっていい!」
「え、誰? そいつ」
「知らないなら忘れて! とにかく自信あるって事!」
「イヤだって! キャラじゃねーし! 恥ずかしいだろ!」
「違うね! 大野さんはビビってるんだ! ツインテールで自分が可愛くなっちゃう事に!」
「はぁ? ビビってねーし!」
大野さんがムッとする。
「じゃあツインテールにしてよ!」
「だぁ! わかったよ! すりゃいいんだろすりゃ! どーなっても知らないからな!」
半ばヤケになりながら大野さんが長い金髪を結ぶ。
「ほら! これで文句ねぇだろ!」
「ぎゃあああああああああ!?」
僕は両目を押さえて悶絶した。
「可愛すぎて目が焼かれるぅうううう!?」
「なわけねーだろ!?」
「あるよ! ほら!」
僕のスマホの内カメラで大野さんの姿を映す。
「うぎゃあああああああ!?」
大野さんは両目を押さえて悶絶した。
「キツ過ぎて目が腐るぅううううう!?」
「それがいいんじゃん!?」
「てめぇ小鳥遊! やっぱキツいんじゃねぇか!」
「キツいけど可愛いの! キツいのが可愛いんだよ! わかんない!?」
「わかるわけねーだろ!? どんな特殊性癖だよ!?」
「一般性癖だよ! ちょっとマイナー寄りだけど。マイナーの中ではドメジャーだから!」
僕だって伊達にエクスでエチチな画像を漁っているわけじゃない。
大野さんが感覚で踊れるように。
僕だって感覚で可愛いを理解している。
目つきの悪い180オーバーのHカップ癖つよムチムチ金髪黒ギャルJKの時点で属性のフルコースなのに、そこにツインテールを加えたら鬼に金棒、ゴルゴにライフル、マリオにスターで勝ち確間違いなしだ。
戦略的にも、量産型美少女にはない確固たる個性を放っているし。
「これでバズらなかったら校庭に埋めてくれて構わないよ!」
「いや埋めねぇよ! 罰が重すぎるだろ!」
ともあれ大野さんも分かってくれたようで、顔を真っ赤にしながらツインテールで踊ってくれた。
果たして動画の出来栄えは。
「ぎゃああああああああ!? がわいいいいいいいい!?」
あまりの可愛さに僕は身体がねじ切れそうな程悶えた。
「どこがだよ!?」
「なにもかもだよ! 恥ずかしそうにしている所が特にいいよね!」
「そんな事言って実はあたしをハメようとしてるんじゃねぇだろうな!?」
「僕の目を見て! 嘘言ってるように見える!?」
「見えねぇから怖いんだよ……」
ガックリと大野さんがうな垂れる。
「ねぇ小鳥遊……。やっぱあげないとだめ?」
「だめ! 大野さん自信なくしちゃってるもん! バズって自信取り戻さなくちゃ!」
「余計に傷が深くなるだけだと思うんだけど……」
ブツブツぼやくと、大野さんは悩まし気にスマホを睨んだ。
そして不意に覚悟を決め。
「あーもう! どーにでもなれ~!」
勢いに任せて動画をチクタクにアップする。
「うむ。これで世界中に大野さんの可愛さが伝わるね!」
僕の言葉に大野さんが青ざめる。
「やっぱり消しちゃダメ?」
「ダメ!」
「だってぇ~! こんなのぜってーバズんねぇよ!」
ピロリン。
大野さんの携帯が鳴った。
「ほら! 早速『ええやん』ついてる!」
「た、たまたまだろ」
大野さんはそう言うけれど。
ピロリン。
ピロリン。
ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ――
「ちょ、通知、止まんない!?」
「ほら! ほらぁ! これはもうバズでしょ! 確実にバズってるでしょ!」
「わ、わかったから、もういいでしょ!? 勘弁して!?」
涙目になって叫ぶと、大野さんはスマホを弄り……。
「あぁ!? なんで消しちゃうの! 折角バズってたのに!」
「だってなんか怖いじゃん!?」
「今更ぁ!?」
「そうだけどぉ……。やっぱツインテールは恥ずかしすぎ! こんな姿、小鳥遊以外に見せられないよ!?」
むぅ。
そういう話ならまぁ、許してあげない事もないけど。
「じゃあ、認める? 大野さんは可愛いって」
大野さんはサッと視線を逸らした。
「小鳥遊以外にも変な趣味の奴は結構いるって事は認めるけど……」
「ズル! 負け惜しみじゃん! ちゃんと認めてよ! 大野さんは可愛いって!」
「どーでもいいだろそんな事!?」
「良くないよ! 大事な事!」
「あたしはいいよ……。みんなが可愛いって言ってくれなくても……。小鳥遊が百万人分可愛いって言ってくれるから……」
そんな事を言われたら、僕は何も言い返せない。
「……じゃあ、とりあえず、『チクタクでバズる』実績はクリアって事で……」
「う、うん……」
「感想は?」
「恥ずかしすぎ! 二度としねー!」
「あははは……」
まぁ、僕としてはみだりにネットに個人情報を載せるのはどうかと思うし。
変に拡散されてもイヤだから、すぐに動画を消したのは英断だったとも思う。
貴重な大野さんのツインテ動画も手に入ったし。
僕としては文句なし。
めでたしめでたしという感じだろう。
と、言いたいのだけど……。
ネットに上げた物は消したら増えるという言葉もある通り、数分だけの公開だったにも関わらず、僕らの動画はなんやかんやで拡散され、後日エクスで僕らを題材にしたエッチな二次創作が大量に出回る事になってしまった。
まぁ、エクスのブームなんか数日で終わるのだけど。
なんにせよ、大野さんがエクスをやっていなくて幸いだった。
僕が言いたい事はただ一つだ。
神絵師の皆さん、ありがとうございます!
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色々デカいクラスの癖つよギャルに告られて、二人で一緒に色んな実績を解除する話。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA
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