第九集:過去
「まずはどこへ調査に向かいましょうか」
東宮へ着いた三人は、さっそく円になるよう腰かけた。
「
「何らかの事件が起こればそこへ向かえばいいだけだけれど、次の犠牲者が出るのを待つのは不本意だもんね」
「
ううん、と唸る三人。
その時、「ちょっと関係ないことなんだけれど」と
「私、実はずっと思っていたんだけれど、
友人の言葉に、
「居たとすれば
親友の鋭い指摘に、
「
「知ってるぅ」
笑顔の
「もし、
「
「あの
三人は解決の兆しが見えてきたことを喜んだ。
「では、まず皇宮の書庫へ行って
「なんでしょう」
「
「時に毒草が薬になるように、
「必要悪?」
「悪霊や悪鬼、妖魔、
「なるほど」
「
「その決まりを悪鬼たちは守っているのか」
「はい。王の命令は絶対ですから。そういった人間への干渉を禁ずる決まりを立てているのは、大体がかつて人間だった鬼神や、堕ちた天つ神、人間に育てられ好意的な感情を持っている
「かつて人間だった鬼はわかるが、人間に育てられた鬼もいるのか……」
考えたことも無かった事柄に、
「珍しいですが、存在します。人間に害をなさない王が統治する
「
「
「そうだ。
「わかりません。ですが、警戒するに越したことはありません」
「
三人は東宮を出発し、皇宮内にある大きな書庫へと向かった。
「……視線を感じる。それも、いっぱい。私が可愛いから?」
三人は視線に気付かないふりをしながら歩き続けた。
「ふふ。それもあるだろうが、官僚共が盗み見ているのだ。
「私達が
「奴らの耳目となる者はどこにでも潜んでいる。この皇宮で安全なのは東宮だけだ。兄上が選んでくださった
「もしかして、
「そうだ。奴らは抜け目ない。
「正一品の貴妃の死も、
その時、
「
「ご、ごめん。ちょっと、
氷河を削る凍てついた突風のように肺を痛めつける
「は、早く、書庫へ、行きましょう」
「だが……」
「大丈夫だよ、殿下。
「こ、皇太子殿下!」
これには
「ちょ、殿下、さすがにこれは駄目だと思うの」
動揺する
「誰に何と思われようと、私は構わない。皇太子と言えど、私はまだ皇子なのだ。
書庫に着くまで
「さぁ、行くぞ」
困った表情の
「う、うん」
幸いだったのは、書庫までの道のりが短かったこと。
ただ、衛兵も
それも、市井にまで届くほどの。
「こ、皇太子殿下……」
この国で最も高貴な皇子が見知らぬ青年を背負っている事実に、司書は目を丸くした。
「数時間、場を空けて欲しい。誰も中へ入れないでくれ」
「か、か、かしこまりました」
そしてようやく、
「もう咳は大丈夫か」
「は、はい。あの、ありがとうございました」
「
「私達が言うと怒るだろうけど、
「
「まあ、失礼しちゃう」
二人は
「私達も手掛かりを探しに行こう」
「うん。じゃぁ、私は……」
「私が歴代
「気を遣わせちゃってごめん」
「いいのいいの。
「えっと……、大いなる力の呼び出し方とか?
二人は「何か見つけたら集合ね」と、それぞれ書架に向かった。
書かれていることの多くは
それらを読んでわかるのは、
これではまるで、
「生贄か……」
「思ったよりも多い」
そこは邪術や呪術に関する書物や竹簡が集められている書架。
「生贄を必要とするような術……」
いくつもの資料を手に取り、目を通していく。
「これも違う」
残る棚は僅か。
「閃いたと思ったんだけどなぁ……」
紙をめくる音。
綺麗に整列する文字を凝視する。
呼吸が荒くなる。
「そんな……」
文字の中に、見知った者の名を見つけてしまった。
それも、身近な者の名を。
「……やお、
「どうしたの? 大声出すなんて珍しい……」
「二人とも、固まってどうしたというのだ」
「ここに書かれているのは、生贄を捧げることで願いを叶えてくれる神の名です。誰が書き込んだのかはわかりませんが、神の名の横に注釈が書いてあります」
「『
友人二人を見て、驚愕した。
「以前、私に話してくれた……、二人の祖父の……」
三人は言葉を失くした。
父、
黙り込む
「たしか、交流は希薄だと言っていたな」
放心したように顔色を失くした
「うん……。私達孫は会ってすらもらえない。父上に何度も頼んだことはあるけれど、無理だったから……」
「
「行ってみましょう。その、
「お
三人は頷き合うと、何を調べていたか誰にも知られないよう書架を綺麗に元通りにし、扉を開けた。
何時間いたのだろうか。
すでに陽は落ちかけ、空は橙と紫が交じり合っている。
「もう書庫を解放していい。書生達を呼び戻し、仕事をさせてやってくれ」
「かしこまりました」
そして、皇宮を出ると、その足で
上空の風は冷たく、身も心も引き裂かれそうなほど。
それでも、行って確かめなくてはならない。
自分たちの過去と向き合うために。
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