第10話 呼んだかのう?
「いってきまーす」
「うむ、いってらっしゃい」
瑞花さんが暗鬼を倒し、僕が大切なものを取り戻した後、目が覚めたら自分の部屋のベッドにいた。しかもそばには瑞花さんが。至近距離で寝顔を見ていたらしい。僕の寝顔なんて何の面白みもないのにね。それを瑞花さんに伝えたら、面白みはたくさんあるぞ、と力説されてしまった。正直何言ってたかは半分も覚えてないけど。
そして、僕と瑞花さんは一緒に暮らすことになった。それを提案したのは僕からだったりする。というのも、独りでいる必要はないと分かったら、無性に誰もいないこの家がさみしくなった。
ぽろっと口からこぼれでた「瑞花さんと一緒に暮らせたらいいのに」に「それは良いのう」と瑞花さんが答えたのが始まりだ。
今日は色々あったあの日ぶりに大学へ行く。大学に着いたら、まずは保健室に行って、できればあの日倒れた僕を保健室まで連れて行ってくれた人を探して……。藤さんとイセさんにも会えたらいいな。
あの二人は、やらなければならないことがあるとかで、僕が目覚める前に帰っていったらしい。結局、身代わりのふだを始め、助けてもらったお礼を言えなかったから、次会えたら絶対に言うと決めている。
時間は……まだ全然大丈夫だ。いつもより早く家を出て、いつも通り大学に着いたんだから、全然大丈夫なのは当たり前。それでも確認してしまうのは保健室へ行くという緊張のせいだろう。
目の前に保健室のドアがあるのだが、なかなか勇気が出ず、ノックすら出来てない。この状態になってからすでに5分が経った。大丈夫だから、ただコンコンコンってしてがらがらがらって開けるだけだからね、僕。
分かってる、それは分かってるよ? じゃあやろう、分かってるならやろう。……ええい! どうとでもなれ!
がらがらがら。
僕がノックをしようとした瞬間、保健室のドアは内から開けられた。
「「……あ」」
ど、どうしよ!? まさか先に中から開けられるなんて考えてなかったよ!? しかも目の前にいるのは謝りたかったあの保健室の先生だし。えっと、えーっと?
「……おはようございます、橘さん?」
「あ、えと、はい。おはようございます」
「体調は大丈夫ですか?」
「は、はい。……あの、この前は突然保健室から飛び出てしまい、すみませんでした。ずっと謝りたくて」
よし、言えた、言えたぞ……! 自然な感じに言えたぞ……! 僕は心の中でガッツポーズをきめた。保健室の先生は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐににこりと笑って言った。
「あの時はかなり驚きましたが、大丈夫ですよ。それに今日は、橘さんの体調が良いようで何よりです」
「あっ、ありがとうございます」
「また体調が悪くなったりしたら、気軽に来てくださいね」
気さくな感じの保健室の先生に、僕はありがとうございますと一礼してキャンパス内の広場へと向かう。どうなることかと思ったけど、結果的に謝るという目標達成できてよかったぁ……!
ふんふんと鼻歌を歌いながら歩いていたら、見知った後ろ姿を見つけた。僕はゆっくりと近づき、声をかける。
「藤さん、イセさん、おはようございます」
「お、葉鳥くん。元気しとった?」
「イセ、葉鳥くんは病み上がりなんですから、元気しとった? は違うと思いますよ」
それくらいええやん、よくないです、とノリツッコミのような会話をする二人。まだ知り合って数日しか経ってないけど、謎の懐かしさがある。なんなんだろうね、これ。まあ、嫌な感じではないし、むしろとっても良い感じなのでいいか。
あ、忘れないうちにお礼言わないと。
「あの、お二人とも……」
「なんですか?」
「なんや?」
「この前は助けてくださりありがとうございました」
「……! なんや、そんなことか。全然ええんやで」
「どういたしまして、ですね」
二人は驚いたように顔を見合わせた後、穏やかな表情になって言った。伝えられてよかったなぁ。それにしても、藤さんの頭に乗っているこのフクロウ妖怪? は何なんだろう。ずっと聞きそびれてたからなぁ。
「ああ、そういえばこのフクロウについて話していませんでしたね」
「え!? 僕、そんなに分かりやすくフクロウについて見てましたか?」
「それはもう、一瞬で分かるくらいには。ですよね、イセ」
イセさんはうんうんと同意する。そ、そんなに分かりやすかったかなぁ……? ま、まあいいか。今はこのフクロウの正体の方が気になる。
「このフクロウは私の式、
「つまりは、……味方の妖怪ってことですかね?」
「そうですね、その認識で合っていると思います」
なるほど、いやー、妖怪にも本当に色々なのがいるんだなぁ。暗鬼みたいな危害? を加えてくるような者、瑞花さんみたいな人間好きな者、桔梗のような味方の者。なかなか面白いかも。
「そういやぁ、今日は瑞花さんおらへんの?」
「瑞花さんなら——」
「呼んだかのう?」
「うわっ!? いつの間に来たんですか? というか家にいたはずじゃ……?」
どこからともなく突然現れた瑞花さんに、僕たちは驚く。確かに瑞花さんの名前を声に出したけど、呼んではないかも……?
「寂しかったし暇だったからこっそりついて来とったんじゃ」
「妖狐に言うのも変な感じやけど、神出鬼没やなぁ──」
雑談で笑い合うなんて、数日前には想像もしてなかった状況。これがとても嬉しくて幸せで、なんだか不思議な心地がした。
『さみしがりやの僕に、妖狐の友達ができました。 〜悪夢を視せる鬼は外! 頼れる妖狐と祓屋は内!〜』
【end.】
さみしがりやの僕に、妖狐の友達ができました。 〜悪夢を視せる鬼は外! 頼れる妖狐と祓屋は内!〜 色葉みと @mitohano
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