ポピーの花畑


 さらに一ヶ月後、国土の西側、繁華街のさらに華やかな区域。

 わいわいガヤガヤ。

 大通りに面した花屋で、通行人に紛れる形で聞き込みを始める。恰幅のよい中年女性は、喜々として応じた。

「この方に見覚えがありませんか?」

「あらずいぶんと写りがいいのね」

 婦人は手配書を素直に見つつ、感想を述べる。

「隣には清楚な美女がいたんですよね。気まずそうだったり、ぎくしゃくしていたりしたんでしょう」

 確信を持って問うと、相手は眉を寄せて首をひねった。

「全く。むしろ、仲睦まじく、数年振りに再会した親友同士にも見えたわ」

 平然と答える。

 そんな馬鹿な……。

 ペネロペは絶句する。


 絶対におかしい。

 だってクルーズは巫女の村の惨劇の犯人。村の女たちを殺して回った、悪人なのだから。


 狐につままれた気持ちになりながら、ひとまず婦人と別れる。

 骨董品やマジックアイテムを売る商店街を通り過ぎ、郊外へと足を滑らせる。

 ちょうどデートの経路と同じ道筋だ。

 目撃者らしく男がエスコートをする形で歩いていったらしい。


『さあ君を楽園まで導くよ。今日は君がお姫様だ』

『ならあなたは王子様。さあ私を世界の果てまで連れて行って』


 甘いやり取りが頭に浮かぶ。

 妄想を繰り広げる内に、花畑にたどり着いた。


「ずいぶんとセンスがいい……」


 ポピーの花びらは、最高級の生地で仕立てたドレスが咲いたようだった。

 なんて温かな景色。隣に愛しい人がいないことが、もったいないくらいだ。恋人いない歴=年齢である喪女を恨む。

 風にそよぐ赤い花の群れは、どこか切なげに映った。

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