題詠100首 2024

松本直哉

題詠100首2024

Facebookグループ「題詠100首」に参加して短歌を詠みました。主宰の五十嵐きよみさん、ありがとうございました。


2024-001:言 言ひかけたそのくちびるをくちびるでふさげば夜はすみれのにほひ

2024-002:置 置く露の消ぬべきものと思へどもなほなつかしき鬢のほつれ毛

2024-003:果 白鳥のゆくへ知らずもさびしさの果てなんくにへ飛び去りぬらむ

2024-004:吸 くちづけは甘き陶酔蜜を吸ふみつばちににて飽くことのなき

2024-005:大切 大切なものこそ目にはさやかなれこの目この肩このふくらはぎ

2024-006:差 差しみづするやうにして息をつぐ逢瀬のまへの胸の高鳴り

2024-007:拭 足拭ふそのくるぶしの白さゆゑねむれぬ夜をすぐしてけりな

2024-008:すっかり もうすっかり秋なのですね江ノ電に待ち合はすれば日影のながく

2024-009:可 不可分のふたりなりけりかんづめの鰯のやうに身を寄せあつて

2024-010:携 天の川白しと言ひて仰ぎみつ手を携へて川わたるとき

2024-011:記 ツンドクをツンドラと読みまちがへてガリア戦記に雪のふりつむ

2024-012:ショック あの夏の藤の木かげをおもひいづルドルフ・ショックのあまき歌ごゑ

2024-013:屈 身を屈め砂に字を書く主イエスは赦したまふやこのふかなさけ

2024-014:外国 マラケシュへ脱出したしサフランとなつめの香る外国(とつくに)の果て

2024-015:見 あひ見てののちのおもひはすみれいろ日の出のまへのひさかたの空

2024-016:叡  あさぼらけ比叡のやまにたつ霧のふかくぞひとを思ひそめてし

2024-017:いとこ 豆好きの子の記念日につくりおくかぼちやとあづきいとこ煮にして

2024-018:窮 窮鼠にも朝は来るらし鎧戸のすきまより洩るひかりひとすぢ

2024-019:高 抱きあげて高いたかいをするたびにはじけるやうにわらひたりけり

2024-020:夢中 青春は夢中のうちにすぎさりぬめざめていまは白き秋風

2024-021:腰 腰骨の上に手をおき抱きよせる サルサのリズム 波うつ体

2024-022:シェア イヤフォンをシェアしてバッハ聴きをりぬ予定日すぎて子を待ちながら

2024-023:曳 ひかり曳くものこそなべてかなしけれ流るる星もほたるのむれも

2024-024:裏側 いかにせんうかがひしれぬものありて人のこころは月の裏側

2024-025:散 知られじな夜もすがら吹く木枯らしに散るもみぢ葉のつもる思ひを

2024-026:頁 世界史の頁を閉ぢて夢見をり講義のをはりとこの世のをはり

2024-027:おでん 二日めのおでんのやうにしみてくるやさしく気づかふあなたのことば

2024-028:辞 言霊の幸ふ国に聞き飽きる 美辞も麗句も誹謗も揶揄も

2024-029:金曜 泣きぼくろつついておこすとなりの子金曜五限睡魔のきはみ

2024-030:丈 つり革にとどく背丈となりし子の腋窩の白く夏さりにけり

2024-031:けじめ ひるよるのけじめもつかぬ薄明かりいのちの果てのけしきとぞ見る

2024-032:織 経糸も緯糸もなき鳥たちの声の織りもの聞けども飽かぬ

2024-033:制 制限字数こえてあふるるわが思ひたぎつ早瀬となりにけるかも

2024-034:感想 「感想を十四字以内で述べなさい」「あいたいときにあなたはいない」

2024-035:台 灯台のやうに照らせよぬばたまの無明の闇におよぐこの身を

2024-036:拙 目をとぢてなにおもふらん古拙なる笑みをうかぶる半跏思惟像

2024-037:ゴジラ 清涼水ささげまつらん着ぐるみをぬいでくつろぐゴジラのひとに

2024-038:点 夕されば宵宮に灯の点されて稲穂をわたる風かぐはしき

2024-039:セブン 響きあふセブンスコードやはらかくスイスロマンドかんげんがくだん

2024-040:罪 罪深きものと知りつつやめられぬ午前零時のキッシュロレーヌ

2024-041:田畑 とり入れををへし田畑に雀らのさわぐを聞けば秋更けにけり

2024-042:耐 陣痛に耐ふるつまの手にぎりをり痛みを分かつすべあらなくに

2024-043:虫 別れきて秋の夜長をなきとほす虫の息にもなりにけるかな

2024-044:やきもち 黒い怒りもしづまるでせうやきもちにきなこまぶして頬張るならば

2024-045:桁 花ごろも衣桁にかけて待ち遠し色とりどりに咲きみつる春

2024-046:翻訳 ふさふさのしつぽを立ててあゆみ去るねこのことばの翻訳もがな

2024-047:接 おたがひの足音のみを聞いてをり話の接ぎ穂見つからぬまま

2024-048:紐 「結んでよ後ろの紐を」あらはなる背中見せつつ言ひたまひける

2024-049:コロナ かろやかに走り抜けたり太陽のコロナのやうに髪なびかせて

2024-050:倍 この仕打ち受けても七の七十倍赦しなさいと命ぜらるるや

2024-051:齢 少女らのもはや倦みたる遊具あり遊具にもまた適齢期あり

2024-052:圧力 ゆつくりと圧力かけて皺のばすアイロン台に湯気は立ちつつ

2024-053:柄 春の夢見させてください花柄のスカートのうへに膝まくらして

2024-054:朧 朧なる記憶の底にきこゆなり赤子のわれを呼ぶ祖母のこゑ

2024-055:データ データなぞ改竄するのが前提といふひとあれば美しくない国

2024-056:紋 わがうたにいまだ紋章なきことも恥ぢずこよひも豆腐が旨い

2024-057:抑 「好きといふきもちは抑へられなくて」読みかへす午後ひざしうつろに

2024-058:反対 環状線反対まはりに乗せられてはじまりしわが大阪時代

2024-059:稿 ブルックナー第八初稿で祝ひたり生誕二百周年の宵

2024-060:ユーロ ふらんすはあまりに遠し「赤と黒」原書にはがすユーロの値札

2024-061:老 生ましめしのちのよふけのしづもりに老助産師のたばこくゆらす

2024-062:嘘つき どうせならうつとりさせて狂はせる目覚ましい嘘つきなさいませ

2024-063:写 ちちははの結婚写真色あせてアルバム白く夏は来たりぬ

2024-064:素敵 はにかんでものいふときの片頬にゑくぼをきざむ笑顔が素敵

2024-065:家 家ひとつこぼちて三つ家を建つなんのふしぎもなしとはいへど

2024-066:しかし 焼き魚ほぐしつついふもしかしてわたし妊娠してゐるかしら

2024-067:許 胸許にきつつなれにしスカーフあり柩のひとの息あるごとく

2024-068:蓋 きみがため抜山蓋世のますらをも恋のとりことなりにけらしな

2024-069:ポテト ベークドポテトふたつにわればふうはりと湯気立ちのぼるバター落して

2024-070:乱 黒髪の乱れも知らずうちふして幾何証明にゆきなやむ吾子

2024-071:材料 材料はグラム単位ではかりませう恋の女神にささぐるお菓子

2024-072:没 ひそやかにゐなくなりたし没年齢しられぬままに墓標もなしに

2024-073:提 下駄ならしなつまつりよりかへりきぬゆかたの子らは金魚を提げて

2024-074:うかつ 「もうすこし一緒にゐたいな」うかつにもつぶやきしゆゑ底なしの沼

2024-075:埒 ひとり舞ふほかにすべなしもろびとの大縄跳びの埒外なれば

2024-076:第 しんしんと肺蒼きまでしみとほるかなしみふかき第二楽章

2024-077:オルガン オルガンの裏にひかへてふいご踏み風を送りし労苦を思ふ

2024-078:杯 願はくはおなじ杯よりのみほさん媚薬なりとも毒薬なりとも

2024-079:遺 「きらひなのさういふところ」といはれたり不貞寝して聞く遺愛寺の鐘

2024-080:なかば ランウェイに踏みだすやうなあひびきはのぞみとおそれ相なかばして

2024-081:蓮 さきゆきは見通さずともしろたへの酢蓮を食めばこころはなやぐ

2024-082:統一 姿見のまへでくるりとひとまはり「青で統一秋色コーデ」

2024-083:楼 春高楼の花のうたげはまぼろしか廃墟の城を照らす月かげ

2024-084:脱 管弦のとよもすホール脱けだせばしんとしづもる明きフォアイエ

2024-085:ブレーキ ブレーキのきかぬくるまかすこしづつあなたの方にかたむくこころ

2024-086:冥 冥府よりプロセルピナはもどりたり野の緑もえ春のおとづれ

2024-087:華やか 華やかに開幕ベルは鳴りしかどせりふおぼえずお化粧もまだ

2024-088:候 姸を競ふ花嫁候補に目もくれず選びたまふは桐壺の姫

2024-089:亀 わたつみの底の浄土の住みごこちいかにと問ひぬ青海亀に

2024-090:苗 十年後ジャスミンティーの再会は苗字かはりて人の子の母

2024-091:喪 青き花好みたまひしひとなれば青き旗もて喪章となしつ

2024-092:休日 窓ごしに別れを告げる新幹線休日なんてあつといふ間ね

2024-093:蜜 乳と蜜ながるるところといはれたるカナンの地いま血潮ながるる

2024-094:ニット 置きわすれられしニットのセーターに顔うづむればにほひなつかし

2024-095:祈 祈るやうに手をあはせたりめづらしき蝶見つけしと馳せきたりけり

2024-096:献 妻あての訳者の献辞見返しにあり「罪と罰」古書あがなへば

2024-097:たくさん ひとつぶのあかい木の実をかみしめるあしたまたたくさんとぶために

2024-098:格 格変化となへつつ夜ぞふけにけるロシヤ語講師の赤き唇

2024-099:注 ちらぬまま朽ち果ててゆくあぢさゐのはなのをはりにふり注ぐ雨

2024-100:思 さめやらぬ夢のほとりに置く露のかわくまもなくもの思ふころ

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