バズりの功罪!? 二階宗徹密着取材
第26話 このごろ流行りのおっさ、男の子
粟根と
『9月ってカレンダーの柄だと秋っぽいのに気温は夏だよねー』
なんて話をする時期の昼下がり。
「ただいま戻りましたー」
「放せコンニャロウ!」
コンビニのレジで暴れ出した男を検挙し署へ戻ってくると、
「あぁ、二階くん。やっと帰ってきたのね」
「そうですが、オレに何か?」
「その男の聴取代わったげるから急いで」
係長はオレの背中を応接室へ向けて押す。
「急ぐって何を」
「二階くんにお客さん来てるのよ」
「客?」
「テレビ局よ」
「はぁ?」
「『フガク・テレビジョン』の三浦と申します!」
「は、はぁ」
テーブル越しに差し出される名刺。
しかしこちとらずっと警察官。あんまり受け渡しのマナーが分からない。
「ワタクシ二階のマネージャーを務めております、粟根です」
代わりに受け取ったのは粟根。
よく分からないなりに、絶対間違っていると確信できる所作だ。
コイツには交換する名刺もないし。
「おや、もうマネージャーさんが?」
「嘘ついてややこしくするな。というか、なんでおまえがいるんだ」
「おもしろそうですし」
「あのなぁ」
だが、急に現れた業界人と二人きりも嫌なもんだ。正直助かる。
革張りのソファも、慣れてないと座り心地が悪いものだ。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか」
「えぇ、本日は弊社の番組に出ていただきたくて、出演交渉の方に」
「は?」
リアクションで察したのだろう。
脳の処理がイカレかかっているオレの代わりに、粟根が少し低い声を出す。
「あの、アポとかちゃんと取っていただいてます?」
すると三浦とかいうのは、一瞬露骨に目を逸らした。おい。
「あー、それがーですねぇ。警視庁広報の方にご連絡したところ、あまり色よい返事は……」
「じゃあダメじゃないですか。お引き取りください」
「あぁ! 待ってください!」
ソファから立ち上がると、向こうは必死に手を伸ばしてくる。
さすがに服をつかんではこないが。
「ウチのプロデューサーがぜひ『熱血
「知らん知らん知らん! 何一つ知らん!」
「私たち、ギャルは補導することの方が多いから印象よくないんですよね」
「そんなぁ!」
「そもそも我々刑事課の人間は、顔が知られていいことはないんです! テレビなど!」
悪いがこれが現実なのである。
警察24時みたいなのでも映さないじゃないか。
「それは今更じゃないですか?」
「なにっ」
今のは聞き捨てならない。
「確かに今更ですね」
「なっ」
まさかの粟根にも背後から刺される。
「粟根! どういう意味だ」
「あー、二階さん、ウチに来て最初の事件覚えてます?」
その目は言外に『覚えてないだろ』と語っている。失礼な。
「あれだろ、配信者同士のケンカの仲裁だ」
「はい。そのとき二階さんが映って、バズちゃったっていうのは?」
「んー? あ、あぁ」
そうだ。それでいつだったか、大麻モドキのヤンキー二人組に絡まれたのだった。
というか『ミミッくん』のときに交通整理クビになったのもそれ絡みだった。
我ながら間抜けな声を出すと、粟根はやれやれと首を左右へ。
「もう結構な国民が二階さんの顔見てるんですよ?」
「……嘘だろ?」
「特に若者のあいだでは、『死んだ目をしてるのに熱い正義感を語るおっさん』としてアイコニックな存在に……」
「待て待て待て。情報量が多いしなんか失礼じゃなかったか?」
「『若者のテレビ離れ』って言いますからね。『ちゃそ』と対談させて興味を引こうってことでしょう。ギャルとおっさんで絵面もいい。パパ活みたい」
「それはよくないだろ」
知らないところで刑事生命の危機に陥ってたとか冗談じゃない。
どころか下手すりゃ日常生活に支障が出かねない。
こんなおっさんのストーカーをしたいヤツはいるまいが、愉快犯ならあり得る。
下手なダンジョンの現場より絶望的な気分になっているところに、
「あのー」
三浦氏がドアを少し開けて顔を覗かせる。
「それで、当番組に出ていただくことは……」
「お引き取りください!!」
「あの日はちょっとおもしろかったですね〜!」
「おもしろいもんか」
あれから数日後。
昼休憩まえのダンジョン課。
「『ドレイン・ドラセナ』にも立ち向かう二階さんが、顔バレにビビっちゃって」
「現代社会で顔が割れることの恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるんだ。あとオレは陰からチマチマ拳銃撃っただけだ」
それこそオレは、社会の陰とは言わんが目立たんところで仕事していたいのだ。
というか目立っちゃいかんのだ。
『ホメラレモセズ クニモサレズ』である。
「とにかく! もうあんなのはごめんだ! 小田嶋! 12時なったらタバコ行くぞ!」
「うふふ、二階さん相当キてる」
ペンでデスクを叩きつつ、壁に架けられた時計を睨んでいると、
「二階くーん」
「はい」
日置係長がこちらへ近付いてくる。
笑っているが眉は八の字。何より物理的に腰が低い。
嫌な予感が……
「なんでしょう」
「お客さん、がー、来てるわよ?」
「まさか……」
「二階さん! 広告代理店『エレクトロニカ』の
「公務員は副業禁止なので!!」
こいつらはオレを松岡修造にでもするつもりか。
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