第22話 チェスト以上の大当たり

「……明らかに調整ミスだよな」

「ダンジョンがゲーム基準でできてるからね〜」

「あれってあらゆる環境に同じ服装で順応したりしますもんね」


 オレたちは『ミミッくん』を追ってBランク層へ。

 広がるのは雪景色である。

 もう一度言う。


 雪景色である。


 砂漠の次が雪景色である。

 こんなのまともにBランク層へ行こうとしたら、途中で行き倒れてしまう。


 それは探索者たちも思うようだ。

 Bランクへ降りる階段の直前に小屋が建ててあり、


『TAKE FREE』


 の看板とともに防寒具が用意してあった。

 そういえば盗犯係の水崎さんがよく『またコート泥棒が出た』とか言っていたか。



 そんなわけでオレたち3人、アラスカ先住民族みたいな格好にゴーグルで。

 冬枯れの森の中、『ミミッくん』を追っている。

 さっきより近くで見ると、ヒョロ長いヤツだ。


「しかしアイツ、何しにこんなところへ。次の宝箱でも仕込むのか?」

「それはないと思いますよ? 今までの投稿頻度的に。あまり早めに設置すると、SNSに載せるまえに誰かが見つけちゃうかも」


 一つ新たに分かったこととして。

 ヤツは見つけた宝箱にアイテムを入れているわけではなかった。


 あのあとBランク層へ向かうかに思われたアイツは引き返し、

 からの宝箱を回収したのだ。

 全て1からアイツの仕込みだったのだ。


 だからこれが、次のチェストを探しておく行為でないのは確かだ。


 なんにせよ、炎天下で張り込んでいたオレたちは結構消耗している。

 今はまだいいが吹雪にでもなろうものなら。


 後手になりがち相手の出方任せ、という警察の仕事の不運を呪っていると、


「おっ」


『ミミッくん』が洞窟の中へと入っていく。


「これで少しは寒さを凌げるかもしれんな」

「えー、でも、冬眠中のクマとかいそうじゃないですか?」

「この環境で冬眠したら、一生起きられないだろう。……だよな? 小田嶋」

「さぁてねぇ。定期的に原生生物のアプデ入りますからねぇ」


 ナンバーワンの専門家だと、『怖いこと言うなよ!』とすら茶化せない。


「ま、一つ言えることは。空調しっかりしてるから、酸欠とかはならないですよ」

「もっと違う配慮がいるんじゃないのか」


 ぼやいてもしょうがない。

 オレたちも続いて洞窟へ足を踏み入れた。






 洞窟での尾行というのは、思った以上に大変だった。


 まず暗くて対象がよく見えない。

 かといって灯りでも付けようものなら、即バレてしまうだろう。


 足音も大変だ。

 野外と違って小さな音もよく反響する。

 ダンジョン課では頑丈なブーツ推奨だが、硬い靴底はやや条件が悪い。

 石で蹴り転がそうものなら。


 凶悪なモンスターのたぐいは、先行する『ミミッくん』が倒してくれる。

 だが、その代わり。

 取るに足らないとスルーされたコウモリやサソリにヘビが出るたび


「!! ……! 〜!!」


 粟根が叫ばないよう、口元を抑えなければならない。

 オレが初めてダンジョンに来たときは、毒ヘビ毒ガエルも平気そうだったのに。

 暗い環境がそうさせるのだろうか。


 だが、なんのかんの気付かれない。

 おそらく、


「小田嶋、この洞窟の奥には何があるんだ?」

「たまにレアなクリスタルが掘れる、くらいですね」

「にしては」

「気が逸ってますね。Bランク探索者にしては、素人二人の尾行にすら気付く様子がない」


 尾行に関してはプロのはずなんだがな。粟根はさておき。

 ちょっとショックな評価はさておき、これは重要なことだ。

 何せ、



「それだけ、この先にヤツにとって重要なものが待っているってことだ」



 こちらも気が逸りそうになるのを抑え、ヤツに続いて角を曲がると


「おっ」


 通路から少し広いフロアに出る。

 とりあえず慌てて角に身を引っ込め、


「ふぎゅ」


 後ろの粟根とぶつかる。


「もう! なんですか!」

「しーっ!」


 尾行しているとは思えないやり取りをする足元で、しゃがんでいる小田嶋は


「ヤツの足が止まりました」


 冷静に中の様子を窺っている。

 はい。オレたちは素人かもしれません。


「中の様子はどうだ」

「行き止まりなので、ここが目的地には違いありません」

「よし」

「ん、あれは」

「どうした」


 淡々とはしているが、あの小田嶋が妙なリアクションをしたのだ。

 オレも双眼鏡で中を確認すると、


「なんだ、アレ。


 植物、か?」



 昔ホームセンターで見た覚えがあるような、ないような。

 明らかに場違いな、巨大観葉植物めいたものが生えている。


 だが、植物とまでは断言できない。

 なぜなら、


 放射状に伸びる葉っぱの中心点。

 そこから古代ギリシャみたいな服装の女性がのだから。


「そういうことか」


 小田嶋がボソッと呟く。


「何がだ」

「ヤツ、『ミミッくん』の目的ですよ」

「なに?」


 それは一大事だ。

 オレたちが今回苦労した張り込みにおける、最大目標でもある。


「どういうことなんだ」

「あれは、『ドレイン・ドラセナ』という上級モンスターです」

「あっ! それ図鑑で見ました!」


 粟根が手を挙げて割り込む。

 オレは覚えがない。短期間で知識を組み上げるべく、基本的にDランク層までしか勉強していないのだ。

 それ以上は小田嶋専門家が同伴するし。


 オレだけ知らないということは、結構な怪物なんじゃないだろうか。

 続く粟根の説明は、



「たしか水、地面の栄養、光合成の他に、周囲の生物からエナジーを吸い取るんですよ!」



 予想を裏付けるのにじゅうぶんな凶悪さを示していた。

 何より問題は、


「周囲の、生物」

「はい!」


 双眼鏡から目を離すと、振り返っている小田嶋と目が合った。

 彼女はゆっくり頷く。


「つまり」

「そう。



 おそらく彼は、アレのエサを集めるために一連の行動を行なっている」

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