第三話 ご縁とお金はまわりもの?

「占い?」

 仕事が終わり、スマートフォンを見ると着信が入っていた。

「そう!その人をみて、手相かタロット占い選んでくれんるんやって!」

 電話を折り返すと夜勤明けの日なのか、少々テンションの高い牧野頼子がすぐに出た。

「恋愛運と仕事運みてもらいたんよ、一人同伴オッケーなんやて。静も行こや!」

 頼子が言うには、なかなか予約が取りづらい占い師らしい。

「あ、でも、頼ちゃん。彼氏おったんちゃうん?」

「んなの、とっくに別れたよ」

「ええ、まじで?」

 こないだ、SNSで投稿してたはずなのに。

「静も別れて、半年くらいやん?ちょうどええやん、見てもらお!静の良さがわかる男を捕まえるために!」

 だいぶ、何かあったんだなと思ったが口には出せない。

 約半年前、イメージと違うと言って別れを告げられた静だったが、そこまでダメージがなかった。

 相手のことがそんなに好きではなかったんだろう。それよりも怒りのほうが強かった。

 出会いは職場で常連客ではないが、よく見かける顔だった。

 勝手にあっちから告ってきて、イメージ?知るか。勝手に幻滅して去る。自分勝手やしないか。

 まず、イメージって何さ。妄想は二次元でしろ。

 よくある日本顔だぞ。

 どこにでもある顔だぞ。

 今までも何人かと付き合ったが、浮気されていたり、何股でも許してくれと泣きつかれたりと男運は悪い。

 頼子の同じように恋愛運も見てもらおうか。

 いや、恋愛に振り回されるのは懲り懲りだ。

 金運と人間関係でも見てもらおうかな。

「んで、いつなん?」

「今度の水曜日、静の誕生日。ほら、言ってたやん?ゴールデンウィークの代休は飛び石にしたって」

 そっか、忘れてた、誕生日だ。

「うん、土日はあかんから。代わりに月水金にした」

 勤務形態はなかなかにブラックな所はあるが、閑散期になると代休が貰えるだけでも良しとしよう。

「お昼の二時で予約してんねん、その前に家まで迎えに行くわ!また詳しいことはメールする!」

 ハイテンションぎみな頼子が電話を切った。

 頼子とは高校の補講で出会った。

 一年時の数学で最低点を叩き出し、学年の赤点組は夏休み期間は補講に出席をしないといけなくなった。

 その時の隣に座っていたのが頼子だ。

 別のクラスだし、科も違うので面識はなかった。

 補講だからと別に仲良くなる訳もなく、その時は喋りすらしなかった。

 しかし、期末テストもギリギリの点数で冬休みの補講も決定。

 また、隣に頼子がいて、

「夏休みもおったよね?なんやー、仲間やん!眼鏡しとるから賢いんかとおもた!」

 その頃の頼子は、今でいうギャルというやつだった。

 髪をくるくるにして、アイシャドウは濃いめ、茶髪でピアスも着けていた。

 一方の静は地味眼鏡だった。今はコンタクトと眼鏡を併用している。

「眼鏡しとる連中が皆賢いとは限らへんよ」

 そこから校内で会えば、軽く話すようになった。卒業したら、そういうことも無くなり、再会は成人式の時だった。

「「こっちにおったん?!」」

 お互い県外に出ているものだ思っていた。

 そのことがきっかけに連絡先を交換し、合う頻度が月一から、今では週2になっている。

 なんだかんだでメールは毎日するようになっていき、旅行もよく行くようになった。


 代休一日目の月曜日。

 昨日の夕方、早朝勤務の人が体調不良でこれなくなり、休日返上して四時間だけ出てくれないかと、店長から電話があった。

 五時半出勤から四時間。

 十時までには終わるので了承した。

 体調不良なら仕方ない。

 ヘルプに入ることによって、店長には恩を売っておこう作戦とお金を稼ぐ、一石二鳥である。

 退勤したついでに、コーヒーを買う。今日の気分はカフェラテの砂糖要りだ。

 飲み口をあけて、ぐびっと一口飲む。

「ふぁあああ」

 五月の暑さは年々増している気がする。

 もう六月になるが、温かい飲み物を飲むと心が癒やされる。気の抜けた声が出た。駄目だ、車の中で飲まないと力が抜けそうだ。

 むわっとした車内の空気を追い出すように全部の窓を下まで下げる。

 それと同時に空調をつけ、冷たい空気を車内に流れるように風量を中くらいに合わせた。

 誰かが言ってた、風の流れを作ってあげるのが早く冷える方法なのだと。

 そこそこ冷えた風が車内に流れ出したのを確認して窓を閉める。

 運転席から見える景色は山と川。見渡す限りの山の木々は青々としている。

 昔は木の国、紀伊国と呼ばれていただけあってか、この県は山が脈々と連なっていて木が豊富だ。

 まだ梅雨入りしていない川はあまり雨が降らないため、なんだか元気がなさそうに流れている。

チリチリリーン チリチリリーン

 カバンの中で黒電話の音がする。静のスマートフォンの着信音だ。

 画面に表示された名前を見ると溜め息が思わず出た。

「あ、静。今大丈夫?」

 電話の相手は従姉妹の三姉妹、その真ん中の花陽だ。

「今、仕事終わった所。かよ姉、取りは終わったん?」

「そう!お願い来てや、頼む!」

「わかったー、行くわ」

 のんびりした時間が終わってしまった。

 この県の名産品は梅とみかん。

 今は梅の最盛期だ。

 今年は例年より少し早いスタートだった。どこの梅農家も人手は猫の手も借りたいくらいに忙しい。

 一応、野良着を持ってきて正解だった。

「いくかーー」

 カフェラテをドリンクホルダーに突っ込んで、キーを回す。ドライブにレバーを押し込むとゆっくりアクセルを踏む。

 ここから花陽の家、もとい祖父の家までは二十分ほど。田舎は移動時間がかかって仕方がない。

 祖父の家に着くと、待ってましたと花陽が走って来た。

「ごめんやで、静。皆腰が限界なんよ」

 花陽は源よりも一つ上、今年二十九になる。 

 服の上から痛々しい腰椎コルセットがお腹の辺りを締め付けていた。

「任せて。コンテナと積み下ろしは筋トレや」

 中に入って、仕事着から野良着に着替える。

 無理するなよと祖父が言うけれど、稼ぎ時は今なのだと静はやる気をアピールする。

 それに今日の賄いはコロッケだと聞いている。がんばろう。


 約束の水曜日。天気は晴れ。

 頼子は十一時に家に迎えに来てくれた。

「誕生日おめでとう!人生二周目ならぬ干支二周目やね!」

 車のドアを開けた途端、頼子が言った。

「ありがとう。こないだ頼ちゃんが言うまで自分の誕生日忘れとったわ」

 これが小野の言う、二十代は十代の二倍の速度、三十代なら三倍、四十代なら四倍。時間の速度が年々と加速していくと静に力説していた話か。

「あは、私も静に言われるまで忘れてたよ。もう、なんか仕事に追われるって砂に埋もれてく感じやわ。走っても走っても仕事で埋もれてく」

 頼子は看護師だ。この辺では結構大きな総合病院で勤めている。

「あの頼ちゃんがナースやもんなー。びっくりしたわ」

「看護師って高給取りっておもてた自分を殴りたい。職場は女同士の戦いやし」

 げんなりとした顔つきだった。

「あははは、休みの日まで仕事の話はしたくないねー。仕事とは趣味のために稼いでるものやし」

 静の言う趣味は本屋巡り、寺社仏閣巡りだ。

「せやな、推しのために稼がないと」

 頼子は舞台俳優さんが好きだ。よく円盤が届いた、尊い、尊い大賞受賞とかなんとかメールで送られてくる。

 二人が共通するものとしたらアニメやマンガの話、あと声優さんの話題が多い。

「あれから実家からは?なんもないの?」

「もう無視無視!結婚結婚うるさいねん。自分の人生やねんから好きに生きたいわ!それにまだ二十四やで、添い遂げる人とかの選び方なんてわからんし、まだ早いわ!人生長いんやし」

 頼子の母親は娘を心配して、結婚の話を持って来たことがあった。

 それに苛立った頼子は家を飛び出し、ひとり暮らし用の部屋を見つけ、引っ越した。

 行動力がすごい。

 引っ越しの時は微力ながら手伝いに行った。

 生き生きとした頼子の横顔が綺麗だったのを覚えている。

 推しのグッズをどう飾るかを百均で買ったコルクボードや突っ張り棒を上手く組み合わせていた。

 やはり人間は夢中になるものがあると細胞活性化するんだと確信した。

「かるーくご飯食べて、お土産買いに行こ。その占い師さんの家、普通の家やねん」

 だいたい頼子と静のランチというよりか、ブランチに近い。

 休日の朝は目覚ましなど掛けたくない。

 遊びにいくというあやふやな予定の時もある。

 今回のメインは占い、明確な予定なんて久しぶりなのだ。

「何がええかな?ブッセ?おまんじゅうとか?」

「駅前の酉宮でみてみよ!いろんなのあるし」

 地元では有名な和菓子店である。

 名物はみたらし団子で、もちもちパイという新発売の商品が静のお気に入りだ。

 サクサクとしたパイ生地の中に求肥で包んだこし餡が相性抜群なのだ。

 

 本当に住宅街の中にある普通の家だった。

 占いをやっていると聞いていたので、古民家で趣きある家を頭の中に想像していた。家の前に三台ほど、詰めれば四台、車が駐車できそうなスペースがある。すでに、端の方にワゴン車が一台停まっている。

 玄関に近い方に頼子の車を停めた。シートベルトを外していると、中から眼鏡を掛けた癖毛一つに束ねたおばさんが出てきた。

「よぅいらっしゃい、迷わんかったですか?」

 ハキハキとしてて、人当たりの良さそうな笑顔をしている。

「あ、はい。ナビに案内してもらいました。私は牧野と申します、こっちは矢内です」

「矢内です、よろしくお願いします」

 二人して頭を下げた。

「白川です。いやや、そんなせんくてええんよ。さぁさ、中に入って入って」

 にこやかに手を添えながら玄関へと誘う。

「ごめんよー、ちょっと散らかってて」

「いえ!お気になさらず!」

 少し緊張ぎみの頼子が答えた。

 案内された部屋は居間のようで、テレビとローテーブル、それに黒電話が置かれていた。

 居間から台所も見えるが、他所様の家の台所をじっくり見るなんて失礼極まりない。

 さっと静は居間に視線を戻した。

 テレビが置かれている台座には、小さな十二支のデフォルメされた陶器の置物が並んでいる。

 神社やお寺におみくじが中に入れられているものによく似ている。

 こうゆうのって自分の生まれ年のものがほしくなるよなぁなんて心に思いながら、可愛らしい置物にほっこりした。

 居間のローテーブルの向かい側に座っている白髪が目立つ丸刈りのおっちゃんは清潔感のある風貌をしている。

「こんにちは、白川のおっちゃんです。河合さんから聞いてます」

 河合とは頼子の職場の先輩だそうだ。

「本日はよろしくお願いいたします。牧野とこっちが矢内です。あの、これ宜しければどうぞお召し上がりください」

 酉宮の人気ナンバーワン詰め合わせセットを割り勘で購入した。

 二人でいろいろ悩んだが、好みがわからず、人気ナンバーワンなら無難ではないかという結論に達した。

「あらー!ご丁寧ありがとうございます。おばちゃん、そこのお菓子好きなんよ!餡子がほんまに美味しくて!」

 ちょうどお茶を持ってきてくれた白川のおばちゃんが歓喜の声をあげた。

「おっちゃんも好きなんよ。甘いもの食べると幸せになりますよなー、皆で食べましょ」

 ご夫婦揃って包装紙をあけ、

「あらあらあら!めっちゃええのやん!」

「さぁさぁ、お嬢さん方も選んで食べてな」

 ご夫婦がなかなかのはしゃぎようで、こちらの緊張が解れてゆく。

 食べながら話を聞いていくと、ご夫婦は定食屋を営んでいて片手間に悩みや愚痴を聞いてるうちに趣味であった占いをしたらよく当たるという噂が立ってしまった。

 それが人づてに広がり、あそこの占いはよく当たる、占ってもらったら気持ちが楽になったなど。評判が評判を呼び、尾ひれが付いて予約しないとしてもらえないと伝言ゲームのように付け足されたようだ。

 だから、占いではお金を取っていない。

「ちょっと体調悪くてな、休業しててんよ。お店ももうすぐ再開するんよ。定休日は火曜と水曜。もしよかったら来てね!あ、お店では他のお客さんの迷惑になるから占いはせんようにしたの」

「人気なのは唐揚げ定食と生姜焼き定食、あと日替わりもあるで」

 あ、めっちゃ好きなメニューだ。頼子も目をキラキラさせている。

 食べることは幸せだ。

「ぜひ行きます!」

 場所を聞けば、静と頼子の通っていた高校の近くだ。お互いの生活圏内にあるのでこれは行きやすい。

「牧野さんはおばちゃんのタロット占い、矢内さんのウチとこのおっちゃんの手相でええかな?相性よさそうやなって」

 白川のおばちゃんが頼子と静の顔や話し方をお茶タイムの時にみて、そう思ったという。

 二人には違いがわからないため、ご夫婦の言う事に頷いた。


 白川のおばちゃんと頼子は隣の台所のテーブル。白川のおっちゃんと静はそのまま居間のローテーブルで占ってもらうことになった。

「じゃあ、観させてもらおかな。利き手は?」

「右です」

「じゃあ、まず左手から行こか」

 両の手のひらを広げ、白川のおっちゃんが見えやすいように差し出す。

 おっちゃんの手には万年筆が握られており、書く方とは反対の細い方を手のひらをさぞっていく。

 くすぐったくて、手がもにもにしてしまいそう。

「線、はっきりしとるから性格もはっきりしとるな、顔に似合わずビシッと言う事ある。生命線も長いから八十は超えるかな」

 顔に似合わずって元カレが言ってたこと?

 イメージと違うって。

 まじでかー、寿命はもう少し短くてもいいのに。

「あ、神秘十字線もくっきり。御先祖様に護られてるね。ええこっちゃ。仏眼もよぅ開いとる、両手ぱっちりやな」

「あの、神秘十字線は聞いたことあるんですが、仏眼?ってなんですか?」

「うーん、直感が鋭かったり、強運だったり、霊感が強いって人もおるな。人とは違う何かを感じたりとか、人それぞれやな。でも、矢内さんは観えとるお人やろ?」

「え、霊感ゼロです。幽霊なんて見たことないんですけど」

 静は幽霊など見たことはない。黒いのや赤いのならよく見かけるが。

 そういえば、この間の本屋の時に五時を過ぎてないのに赤いのが見えていた。

 今も、それは継続してて、前よりかだんだんと早くなってきている。

 見え始める時間帯だってばらばらだ。

 急に綺麗な音楽が流れてきた。静の肩がビクッと上にあがる。

 何だっけ?聞いたことある。

「びっくりしたやろ、ごめんな。ほんまは三時になるんやけど、ちょっとづれてきてて、変な時になるんよ」

 時計を見ると三時四分。銀色の縁の中に色とりどりの数字が並んでいる時計だ。

 そうだ、イッツ ア スモールワールドだ。

「あ、いえ、大丈夫です」

 目線を元に戻した。

 自分の手のひらを見ているおっちゃんの肩に赤い鎌が見えた。さっきまでなかったのに。

 赤いものを見ても、さほど驚かない自分に嫌気が差した。見えることが当たり前になりすぎて。

「お年頃やから結婚線もみとく?」

 こそっとおっちゃんがボリュームを下げた声で囁く。

 台所の方から、それはセクハラやでお父さん!とおばちゃんの声が飛んできた。

「一応見といてください」

 多少は気になる。お年頃だし。

 変なものが見えている静も寄り添ってくれるパートナーはできたら欲しい。

 でも、そのパートナーにアレらが見えた場合、自分は精神的に耐えられるのか。

 もし、自分の子どもに見えたら?

 もし、自分の子どもにも見えることが遺伝してしまったら?

 そうゆうことを考え出すと、家族を持つということは夢物語に思えてしまう。

 占いだから。当たるも八卦、当たらぬも八卦だ。夢を与えてほしい。

 手相も気になるが、今はそれよりも肩にある鎌。鎖鎌とも云われるものだ。

 鎌から伸びている鎖は中を漂っていたが、見ているのがバレたのか。おっちゃんの腕を、手を蔦って伸びてくる。

 冷静にならなきゃ、周りは見えていないんだ。気取られないように慎重にしないと変な人だと思われてしまう。

 おっちゃんが静の小指側の線を見だした。

 赤い大きなものが視界を遮った。

 大きな鎌だ。

(鎖やないんかい!!)

 どうしよう。今は両手とも白川のおっちゃんに差し出している状態だ。

 いきなり手を振り払えない。失礼な態度を取ってしまう。

 音も無く、青白い光が赤い鎌を射抜いた。

 まるで銃弾のような速さで、一瞬の出来事だった。

 青白い光が飛んできた方向を見るとテレビ台の上のデフォルメされた十二支がある。

 その一つの犬だ。それは青白い光を炎のように帯びてテレビ台の上に鎮座している。

 光の銃弾を打たれた鎌は、ひび割れて崩れていく。ばらばらと破片が崩れて、手相を見ている白川のおっちゃんと静の手の上に落ちる前に消えた。

「やっぱり観えとるね、矢内さん」

 突然の出来事にぽかんと口があいてしまった静に目を細めて見ている。

 白川のおっちゃんが小さな声で静に言った。


「ありがとうございました!今は仕事頑張って時期を見て、行動してみます!」

 目をキラキラさせた頼子がご夫婦に頭を下げた。

 何かいい事を占いで見てもらったようだ。

 あれから静は、なんと誤魔化したらいいか、分からずに呆然と白川のおっちゃんを見つめていた。

 タイミングよくタロット占い組が居間に入って来てくれたおかげでなんとかなった。

「次はお店のほうに寄らせていただきますね」

 静がそう言って玄関のドアを開けて、出ようとした。

「んぶっ」

 何か硬い黒い壁が現れた。

 違う、これは人だ。

「うぉっ。びっくりした。大丈夫?」

 静の頭の少し上から声がする。

 訛りがあんまりないイントネーション、どこかで最近聞いたっけ。

「こら、松利。お客さんやで」

 ゆっくり顔を上げると銀縁の眼鏡を掛けた男性がいた。

「すみません」

「あ、いえいえ、こちらこそすいません。前みてなかったです」

 ん?こんなやりとりしたような気がする。

 人の顔を覚えるのが苦手すぎる。

 玄関を出て、車に乗り込むまでご夫婦が見送ってくれた。駐車スペースには来たときには無かった軽トラが置かれていた。

「気ぃつけてお帰りよー」

 白川のおっちゃんが開けた窓から車内にいる静に声を掛けた。

 頼子も白川のおばちゃんと運転席側で話している。何やら、すごい話が弾んでいる。

「今日はありがとうございました。手相見てもらったの初めてで」

「そうかそうか。近いうちにお店おいでな、聞きたいことがあるねん。矢内さんも知りたいことあるやろ?お店にはおばちゃんもおるようにするから安心しておいで」

 きっと、さっきの事だ。

 真剣な顔で穏やかな声がすっと耳に吸い込まれるように聞こえた。

「知りたいです。今週、金曜日のお昼、お店に伺ってもいいですか?」

 知りたい。自分の目のことを。

「待っとるよ、その日は唐揚げ定食食べるか?」

「ぜひ!」

 直感に近い。この人は、このご夫婦は安心できる人たちだと。

 





 

  

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アオの調和模様 紀井ゆう馬 @tukue

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