第一章 前代未聞、開校以来初の落第生⑨

    ***


「王子」

 コレットが部屋を出て行った後、ジルが自分のデスクにもどりながら声をかけてきた。

「何だ?」

「王子にしては初対面の女性に対して、ずいぶん地を出していませんでしたか? いくら平民とはいえ、女の子相手にるのはどうかと思いますよ」

 ジルのもっともなてきに、アルベールは顔をおおってため息をついた。

 王族に生まれて、女性に対するていねいな接し方はしっかり身についている。内心どう思っているのかはともかく、がおの仮面くらいり付けておけるはずだった。

 どうやら初っぱなでコレットが血をいてたおれるところを見て、仮面を吹っ飛ばされてしまったらしい。加えて、血を見て失神までしてしまった後では、王族のげんなどあったものではない。カッコつけるだけムダだと思ったのは確かだ。

 しかし、ジルの言う通り、くだけた口調をえて怒鳴りつけてしまったのは、アルベールも自分になつとくがいかない。

「俺にもよくわからねえ。あいつと話していると、調子がくるうんだ」

「それはまあ……わからないでもありませんね」

 ジルは思い出すように遠い目をした後、プッと笑った。

「しかし、意外でした」と、ジルが続ける。

「彼女も王子のおきらいな回復ほうですよ。ずいぶんすんなり信用しているように見受けられましたが」

「あいつは回復魔法士として、俺の嫌いな部分を持っていないからな」

「消失魔法ですか? でも、使えないわけではありませんよ。現に自分の体内の毒を消せるのですから」

「わかっている。この先、消失魔法きようしようこくふくするようなことがあったら、その時はもう用はない」

「かわいそうですねぇ。その時は追い出すのですか」

「アホ。あいつが消失魔法を使いこなせるようになったら、魔力量から見ても充分かせげる魔法士になる。一級を受け直させれば、いくらでも職はあるだろう」

「さすが王子。ちゃんと先のことまでこうりよしたおやさしい計らいではないですか」

 ジルは本気で感心しているのか、しているのか。どちらでもいいと、アルベールはフンと鼻を鳴らした。

「ちなみに王子、通いでもいいのにわざわざ住み込みを提案したのは、それほど彼女をお気にしたということなのですか?」

「バカ言え。あいつを雇う以上、俺の身近にいることになる。目の届くところに置いておいた方がいいと思っただけだ」

「やはりそちらでしたか」

 ジルも四年前の事件を忘れていない。雇ったばかりの若いメイドが、買い物に出かけた先でしんげたことがあったのだ。

「二度と同じあやまちはり返したくないからな」

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落ちこぼれ回復魔法士ですが、訳アリ王子の毒見役になりました。 糀野アオ/角川ビーンズ文庫 @beans

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