第48話 名前はまだない
「諜報はカーシャでなんとでもなるが、俺に戦場へ行けだと?」
「ぐぶぐぶぐぶぐぶ……」
「クラム様、ハミル様が死んでしまいます!」
「ん? あぁ、別に構わんが……」
「それはさすがにやめてください!」
とんでもない指令を持ち帰ってきて、自らの妻とハグしながら従軍しろとか言ってきたからつい首を絞めてしまった俺は絶対に悪くない。
なぜなら、あと1か月もしないうちにエフィが出産する。
おれはその介助をするんだ。
なのに戦争だと?
むしろお前が行けや!!!
と思ったものの、エフィとミトラ様に止められたので、しぶしぶ父さんの首を離した。
「しかし、ハミル様。さすがにエフィの出産間近になっての従軍を、本来その責務はないクラム殿に担わすのはどうかと私も思います」
「そうは言っても、これが王城の会議での決定事項で、アルス様からも頼まれたのだ……」
ふん……アルス……今日で協力関係は終わりのよ……
「クラム様、怖い顔をされていますよ? 私は大丈夫ですから行って差し上げてください」
「ダメだ」
エフィがしおらしいことを言うが、断固反対する。
俺は一番最初に赤ん坊を抱っこするんだ。
万が一ミトラ様に譲るのはいいが、もし俺が不在だった場合、先に父さんが抱き上げるのだけは許せない。ふざけんな、やっぱりお前が戦争に行け!
「クラム様……アルス様は困っていると思いますので……」
しかし当のエフィが折れてくれない。
くそう……どう説得するか……。
「クラム様、国境の町を始め、防衛線付近に住んでいる国民は皆不安を抱えているでしょう。どうか助けてあげてください」
「そうだぞ、クラム。そうすればお前の地盤はより強固になる」
「うるさい、ふざけんなボケ!」
「あっ、クラム様」
「ハミル殿はちょっと黙っていようか」
「うぅ……」
エフィの発言だからこそ真面目に聞いていたら、横から父さんが何か言ってきたから反射的に殴った俺は悪くない。
ミトラ様がずるずると引っ張って行ってくれたので、今はエフィと2人だ。
「しかしな、エフィ」
「ダメですか? お願いです」
「う~ん……」
心優しいエフィは戦争と聞いて既に国民への心配で頭がいっぱいになっていて、俺の個人的な言い訳を聞いてくれない。
「でも、出産は大事なんだ……やっぱり行きたくはない」
「むぅ……。では、私は1人で産みますので、行ってきてください。ここに残られていても、手伝いは不要です」
「えぇ?」
怒らせてしまったらしい。そのまま寝室を素通りして客間に行ってしまった。くそう……。
客間は喧嘩した時の避難用だ。今まで一度も使ったことはないが、長い人生で意見が合わないこともあるだろうから、顔を合わせたくないと思ったらそこで寝ようと話していた。
行くしかないか……。
俺は一瞬で戦争を終わらせる方法を考え始めた。
翌日、朝食の場でエフィになるべく早く戦争を終わらせて帰ってくると伝えると、機嫌を直していくつかの魔道具をくれた。
メテオ連射機とか、異空間跳躍機とか、ちょっとぶっ飛びすぎじゃないかこれ?
と思ったが有り難くいただいておく。
ものがどうというよりも、エフィが俺のために魔道具をくれたということが大事だ。
昨日ちょっとショックで寝れなかったために荒んでいた心があっさりと晴れていく。
やはりエフィは最高だ。
ぱっと行って、魔法ぶっ放して敵を退散させ、暗躍していた貴族をカーシャの調査に従って全員捕え、ついでに隣国に乗り込んで戦争を決定した大臣を国王や他の大臣の目の前でぶっ殺して帰って来た。
隣国の国王が玉座の上で失禁したようだが、ざまぁ!
あとのことは外務大臣と騎士団に任せた。
せいぜい慰謝料をふんだくってくれ。
そして帰宅すると、ちょうどエフィが産気づいたところだという。
間に合った!!!!!!
「エフィ、頑張れ!」
「ひっひっふぅ~お水下さい」
「あぁ」
「ひっひっふぅ~……風を……ふぅ~」
「あぁ」
エフィを手伝っていると、頭の先っちょが見えて来た。
「見えてきました、落ち着いて、次行きましょう!」
「ふぅ~~~~」
助産師さんの掛け声でエフィーがいきむ。
そして……
「おぎゃあぁぁああぁぁああああぁぁぁぁ!!!!」
産まれた!
やった。元気な子だ。俺は産まれたての我が子を取り上げる。
「おめでとうございます。クラム様、ここを切ってください」
「あぁ」
へその緒も切らせてもらった。
エフィもぐったりしながらもそれを眺めている。
なんて愛おしい。
「元気な男の子です」
助産師さんが処置をしてくれ、改めてエフィに子供を預ける。
「よしよし」
エフィは愛おしそうに子供を抱いている。
可愛すぎてヤバいな。
2人とも抱きしめたいけど、力加減間違えるとまずいし……。
出産後の経過は母子ともに順調だ。
名前はエフィが元気になったら一緒に考えることにしている。
俺はカッコいい名前が良いんだが、エフィは優しそうなのがいいらしく、子供に向けて読んでみてしっくりくるかどうかで決める予定だ。
幸せすぎるな。
なお、既にミトラ様や父さんとも面会している。
ミトラ様に抱かれたときはすやすやと寝たままだったが、父さんが抱いた瞬間泣き出した。
ざまぁと思っていたら、なんと赤ん坊を落っことしそうになったから父さんには永久に抱き上げ禁止を命じた。
こうして俺とエフィと産まれた子供の3人家族になったんだ。
***
ということで、子供の誕生エピソードでした!
お楽しみいただけましたでしょうか?
また考え付いたら子供の成長エピソードなんかも書こうと思います。
お読みいただきありがとうございました。
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義妹が婚約破棄された。その方が幸せになることを知っているので流したが、それ以上はさせないぜ!? 蒼井星空 @lordwind777
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