第47話 緊急事態
■王城にて (国王アルス)
「緊急事態です!」
「急いで会議を開催する。大臣たちを集めてくれ!」
隣国との国境付近の街からの危急の知らせを聞いた僕は慌てて会議を招集する。
部下たちは大臣たちに通知するため、方々へ散っていく。
「大変なことになりましたな」
「えぇ」
僕と一緒に報告を聞いていたエルダーウィズ公爵の顔はこわばっている。
ようやく魔狼の被害から回復し、王城や貴族たちの体制が一新された今になってどうして、という思いはある。
これから我が国はさらに発展していくはずだったのにと。
だが、隣国には隣国なりの都合や考えがあるのだろう。
魔狼によって前国王や王子をはじめ宰相や主だった大臣たちが喰われてしまったことで、隣国とのつながりが薄れていて、意図をさぐることはできない。
だが、僕たちは慌てず、粛々と対応する必要がある。
国のトップが動揺すれば勝てるものも勝てなくなる。
「それでは会議を始めます。まずはじめに状況の整理を……」
軍務大臣であるルゴール侯爵の司会で会議が始まる。
状況としては、隣国が宣戦布告をして、国境付近にある砦を急襲してきた。
これまでも同盟を結び、魔石の売買をはじめとして様々な商売上の取引関係にあった国で、突然掌を返したように攻め込んできた。
理由として考えられるのは……
「前国王およびギード王子に便宜をはかっていた一部の貴族が内通しており、砦はほぼ無血開城され、むしろ物資を提供しているようです」
「なんということを……」
完全な謀反だった。
「ふん。心身悪辣な者どもを一網打尽にする良い機会ですな。ほとんどが魔狼に喰われた上に、酷かったものはクラム・エルダーウィズ殿の協力で捕えていたが、まだ膿が残っていたということか」
強硬な考えを表明したのは現騎士団長であるバロット伯爵だ。
彼は不正を嫌う硬い貴族であり、前騎士団長が魔狼に喰われた結果、左遷されていた先から戻って騎士団長になった。彼は魔狼騒ぎから僕の即位までの間に多大な貢献をしたクラム殿をとても高く評価している。
クラム殿は一貫して王城内でのエルダーウィズの勢力が増えすぎることを嫌っており、また、不正には厳格に対処していた。それに、魔狼を捕らえていた守護結界の魔道具を見事に粉砕した魔法の腕も合わせて、まるで信奉と表現した方がいいのではないかと思うほどの高評価だった。ちなみにその評価には僕も激しく同意している。
「証拠はそろっているのですかな? であれば問題ないが、推測が混じっているとしたら、国内に余計な混乱を生じさせるかもしれません。なにとぞ、慎重な議論をお願いしたいですな」
一方で、少し控え目な反応をしているのは、内務大臣であるギード侯爵だ。
彼は国内の貴族をまとめる立場にあるので、余計な火種を残したくないのだろう。
ただ、心配は不要だ。
すでに……
「ギード卿、ご心配なく。証拠は全て完璧に揃えに行っている。内通者、その協力者と言った関係性も含めてすべてな」
「おぉ……どうやって?」
「クラム殿が既に動いてくれている。彼の腕はみな知っての通りだ」
「……」
エルダーウィズ公爵が何も言わないのは、ご子息であるクラム殿が動いているのを知らなかったんだろう。
最近ようやくアリアの解説もあって、エルダーウィズ公爵家の力関係を理解した。
公爵は運がいい人、アリアは家の裏ボス、クラム殿は表ボス、エフィさんはお姫様で、ミトラ様は家の良心だ。
だが、懸念点はある。
それはそろそろエフィさんが出産するということだ。
もしこのままクラム殿が隣国との戦争の対応に当たることになれば、立ち会えないかもしれない。
そうしたら荒れるだろうなという確信が僕の中にはある。
「このままクラム殿ご自身にも戦地へ向かって頂く予定だ。騎士団100名とともにな」
「なっ、それはさすがに先行が過ぎるのでは?」
うん、僕の懸念通りになるから勘弁してほしい。
一方で、クラム殿が超有名な最大戦力なのは既にわかりきったこと。
彼が今現在の防衛線をひいている街に赴けば、士気は上がるだろう。
しかし戦争とは一人でするものではない。
多くの兵士が戦い、多くの支援部隊が働き、多くの物資が消費される場だ。
もしかしたら長引く可能性もある。
それはまずい……。
「クラム殿への説得は公爵にお任せするとして、兵站は数日後には整います」
他人事のように一番の課題を父親というだけの公爵に丸投げした財務大臣をつい睨んでしまったが、残念ながらこちらを見ていない。
ただ、ずるいとは思いつつも話を振られてきょとんとしている公爵に全てを任せるのだった……。
一応、失敗した時のために叔母に連絡はしておいたが、逆に怒られた。
もしクラム殿が断った場合は自分が行く……というか端から自分が行けばいいだろうと。
エフィの出産を心待ちにしているクラム殿に何をさせてるんだと。
だがもう決定がなされ、クラム殿への依頼はエルダーウィズ公爵に正式な指令として発せられた後のため、成り行きに任せるしかなかった。
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