冬の晴れた日に
彩霞
冬の晴れた日に
「振られたぁ……辛い……」
祐は情けない声で呟いた。公園に俺たち以外いないというのもあったのだろう。彼は本音を
「振られたっていっても、まだ告白もしてないじゃないか」
俺が白い息をはきながら言うと、
「でも、あれを見たら振られたのも同然だろ」
と、祐は言う。
祐は高校が休みである土曜日の今日、好きな人に告白するつもりでいたのだ。
クリスマスまであと一週間。告白してOKを
その現実が、祐から「告白する」という勇気さえも奪ってしまったようで、俺は宿題をしている最中に愚痴聞き要員としてここに呼び出され、今まさに話を聞かされていた。
「男の人と一緒に自分の部屋の中に入って行くところを見たからって、その人と付き合っているわけじゃないと思うけど」
落ち込んでいる祐を元気づけようと、恋愛経験ゼロの俺が精一杯の言葉を言う。すると彼は綺麗な顔をしかめっ面にし、俺をじろりと見て「お前は馬鹿か」と言った。
「独身の女性が、自分の部屋に何でもない男を入れるか? 防犯上普通入れないだろう。
「桜さん」とは祐の思い人であり、俺の
「節操のない女って……」
「いるだろ。とっかえひっかえ男と寝る奴」
「そう、なんだ……? 祐、詳しいな」
「詳しいんじゃなくて、社会の常識だろ」
社会の常識なのか、それ。
俺は祐の
「だから、桜さんが部屋に入れたのなら親しい仲なんだろう……。ああ……」
祐が薄手の手袋をはめた両手で顔を
「どうした?」
「自分で言って、さらに自信無くなった。あんなに
祐はそう言って腰を折ると、苦しそうに泣いた。黒い髪の間からは、緑色のタータンチェックのマフラーが見える。
「筋骨隆々ねぇ……」
俺は桜ちゃんがどういう人を部屋に招き入れたのかが分からないし、従姉とはいえ彼女の好みも知らないので、何と言ったらいいのか分からない。
「……」
言葉にできないなら、肩を抱いて
俺は祐のキャメルカラーのダッフルコートを着た背中を見たあと、どうしたもんかな、と薄い青い色をした冬の空を見上げて思う。
祐は男だ。だが、学校へ行くとき以外はいつも女の姿になる。今も黒いロングヘアーのウィッグを付け、顔には軽く化粧をしていた。コートの
彼が女の姿になるのはある事情があり、彼自身辞めようと思いつつも手放せない「自分」がいるせいで、中々それができないでいるのだ。
そんな祐を見て、「そのままの祐くんで良いと思うよ」と初めて言ってくれたのが、桜ちゃんだったらしい。それ以来、祐は桜ちゃんに恋をしている。
俺は、はあっ、と白い息を吐きだすと、努めて明るい声で言った。
「祐、とりあえず帰ろうぜ」
「……」
祐が反応しないので、彼の左肩をぽんと叩く。男にしては薄い肩だった。
「ほら、帰ろう。それともずっとここにいるつもりか?」
すると彼はゆっくりと顔を上げる。どこか
俺は祐の肩を叩いた手を、スカジャンのポケットに突っ込む。そこにはハンカチが入っていたが、俺はただそれを握りしめ祐の答えを待っていた。
彼は少し考えたあと、涙を指で
「……分かった。帰る」
祐はズビッ、と鼻をすする。そしてバッグと桜ちゃんにあげるはずだったお菓子の袋を持ってベンチから立ち上がると、俺の顔をじっと見た。
「うん? どうした?」
「いや。
俺は祐がお礼を言うと思っていなかったので、俺はちょっと驚いたように目を大きく開けたあと、すぐにいつも通りの笑顔を向けた。
「どういたしまして」
すると祐がつられて柔らかく笑う。まるで冬の中に差し込む暖かい日の光のようで、俺は「こう笑っていたほうが絶対にいいのにな」と思った。
「さ、帰ろう」
「うん」
俺はポケットに手を突っ込んだままではあったが、ハンカチから手を離すと、祐との間に人一人分の距離を空けて並び下宿屋へと帰るのだった。
(おしまい)
冬の晴れた日に 彩霞 @Pleiades_Yuri
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