第16話 強者に媚び、弱者を虐げる


吾郎はスマホを片手に、花子をからかうため、あえて挑発的な一言を送った。

「林内さん、大島さんと井下さんも呼んで、雪かきでもさせてみたらどうでしょう?」

と、誰の顔色も気にせず堂々と名指しで書き込んだ。


大島蒼梧──その名前を聞くだけで緊張が走る、血の匂いを漂わせる本物のヤクザ。前世では、吾郎の家に押し入った際、大きな斧を手に容赦なく襲いかかってきた人物だ。


井下哲明──富豪の子に生まれ、傲慢な性格。吾郎の愛猫「ミキ」に暴力を加えた男。その横暴さと残忍さは、吾郎の心に深い傷を残していた。


マンション・パレオハウスに住む「隣人たち」は、ほんの一握りの善人を除けば、過去に吾郎を襲い、略奪に加わった面々だった。彼は冷ややかな笑みを浮かべ、過去の自分を捨てて、彼らの本性を暴き出す決意を固めた。


花子は、吾郎のメッセージを目にした瞬間、顔色を曇らせた。引くに引けない状況に追い詰められ、もしここで尻込みすれば、間違いなく周りの住民に笑われるのは目に見えている。


仕方なく、意を決して大島蒼梧と井下哲明を名指しし、

「若い人たちに工具を持ってきてもらい、一緒に雪かきをしてほしい」

と、ついには呼びかけた。


数分後、25#602のグループ名を持つ大島から返信が届いた。


その内容は短い一言、「???」だった。そして続けて、彼から音声メッセージが送信される。


「おい、頭がおかしくなってんのか?外の雪の山が見えてねえのか?」

鋭い低音が響き、続けて、

「ばか野郎、脳みそ腐ってんじゃねえか?病院行って診てもらえ、この吠え面がよ。俺をまた名指ししてみろ、ぶっ殺してやるぞ!」

と、激しい言葉が続いた。


その荒々しい声に、グループチャットの住民たちは腹を抱えて笑い出し、林内花子がすっかり面目を失っていく様子を楽しんだ。彼女は自分を自治会では顔の効く「大物」のつもりでいたようだが、相手から見れば所詮小物に過ぎなかったのだ。


井下も音声メッセージを送ってきた、

「お前らが外で雪かきしようが、俺には全く関係ねえよ。上流階級の人間は、家から一歩も出なくても快適に過ごせるんだ」


そして、厚い布団に包まり、女性を抱いている写真がグループチャットに投稿された。部屋は、井下が女性を囲うためだけに購入した贅沢な空間であり、偶然にも雪に閉じ込められていたが、彼にとって雪かきなど話にもならなかった。


花子が自分を呼びつけているのを見て、井下は内心「頭がイカれてる」と思った。


しかし、彼女も引けずに態度を崩さず、

「井上さん、あなたもこの団地の一員なんだから、雪かきはあなたの責任でもあるわ!」

と返してきた。


それに井下は冷笑しながら答えた、

「は?俺が毎月払ってる管理費は何のためなんだ?俺の金がなけりゃ、お前ら自治会なんて餓死してるだろうに。」


さらに冷たく続ける、

「まったく、俺たちから金を搾り取って偉そうにしやがって、いつから主人面をできると勘違いするようになったんだ?」


この井下の言葉に、グループの住民たちは思わず息を呑んだ。その鋭い指摘に、花子は怒りと屈辱で言い返すこともできず、ただ黙り込むしかなかった。


花子が権威を振りかざそうとすればするほど、井下の言葉がその虚勢を打ち砕いていった。もともと富豪というのは、そんな簡単に屈する相手ではなかった。


井下は無職であれど、世の中の裏表を熟知しており、自治会など小物にすぎないとばかりに、まるで眼中にない様子だった。


井上はさらに得意げに言い放った、

「俺がこんな生活を送れてるのは、親や家族の力があるからだ。お前ら無能な連中とは違うんだよ!」


「雪かきでも何でも、さっさとやっとけよ。どうせお前らは飯のために働かなきゃならねえんだろ?終わったら、俺もここから出ていくさ。」


この傲慢な発言に、住民たちは内心憤りを感じながらも、反論することができなかった。井下が裕福であるのは事実であり、彼の言葉は重く響き、で誰も口を挟む隙を見つけられなかった。


一方で、大島と井下の一連の暴言とも言える言葉によって、住民たちの心は完全に冷え込み、花子の指示はもはや聞き流されるだけだった。


花子は怒りに震えていた、しかしその怒りの矛先は井下や大島ではなく、すべて吾郎に向けられていた。


「なんてこと、あの憎ったらしい加藤が余計な口を挟まなければ、皆が雪かきを始めていたはずなのに!」

と心中で毒づきながら、彼女は怒りを込めて吾郎に個別でメッセージを送りつけた、

「加藤さん、意図的に私の言うことに反発しているんですか?」


「一体何がしたいのよ?みんなに雪かきを頼むのがそんなに悪いこと?」


「このままだと、私たちは一生この家に閉じ込められたままなのよ!」


吾郎はそのメッセージを見て、ふと眉を上げ、興味深そうな笑みを浮かべた。


わざわざ文句を言いに来るとは、なかなか面白い展開だと思った。


「あなたが弱い者を侮って調子に乗ったからでしょう。吠えるなら、その程度の覚悟はあるんだろうな?」


「他人には何も言えないくせに、俺にだけ噛みついてくるとは、少しでも存在感を示したいのか?」

吾郎は冷ややかに言い放った。


「教えてやるよ、俺はそう簡単に舐められる男じゃない。もう一度やってみろ、痛い目に遭わせてやるからな。」

予想外の吾郎の冷酷な言葉に、花子は一瞬にして震え上がった。


彼女は自治会の肩書きに頼り、孫と共に生活する中で、威圧感がある相手に歯向かうことはできなかった。他人がその肩書きを無視すれば、彼女にはどうする力も残されていなかったのだ。


「この阿呆、完全にイカれてるわ!」

と心の中で毒づきながらも、林内花子はすぐに吾郎を刺激するのは危険だと悟った。


「でも今は黙っておきましょう……だが、いずれ報いを受けさせてやる!」


彼女は後日、自治会の権限を使って吾郎を困らせる計画を思い描き始めた。


生活物資の配給の際、わざと吾郎を後回しにしたり、団地のイベント情報を彼だけ知らせなかったりするつもりだった。その時、吾郎が自分に許しを乞い、頭を下げる姿を想像すると、花子は勝ち誇ったように微笑んだ。


「必ず私に泣きつく日が来るわ!」



「今は見逃しておくけど、そのうち思い知らせてやるからね!」


そんな妄想で心を満たすと、再びグループチャットに戻り、住民たちに雪かきの協力を促し始めた。住民たちは彼女のやり方に冷笑を浮かべたものの、外出するためには道を確保しなければならず、数人の誠実な住民たちは工具を手に氷点下25度の寒さの中へと立ち向かっていった。


一方、吾郎は花子を黙らせたばかりだったが、新たな厄介ごとが近づいていた。彼はスマホの通知音に目をやり、表示されたアイコンに驚いた。


なんと、グループチャットにいた大島からのメッセージだった。どうやら先ほど吾郎が彼の名前を挙げたことが、大島には侮辱と映ったらしい。脅しをかけてくる気のようだった。


吾郎は、前世で自分の家に押し入ってきたときの大島を頭に浮かべ、冷ややかな笑みを浮かべた。


今の吾郎にとって、大島のような厄介な男がどう出てこようと、脅威は微塵も感じなかった。むしろ、そんな相手が「目の前に現れる」ことは、彼にとって歓迎すべき事態だった。


大島からの音声メッセージが再生され、スマホから重く低い怒りのこもった声が響き渡る。

「おい、加藤……俺の名前を勝手に出して面白いと思ってんのか?どう落とし前つけてくれんだ?」


「一度だけ忠告してやる。今すぐ、俺を怒らせたことを謝罪しろ。でなけりゃ、俺がどういう人間か思い知らせてやる!」

吾郎はその脅しを鼻で笑い、まるで意に介さない様子で冷ややかに言い返した、


「へぇ、そんなにムカついたか?お前みたいな雑魚が俺に何をできるって言うんだ?口先ばかりで、実に哀れだな」


その挑発に怒りが頂点に達した大島は、さらに威圧的な声を低く響かせて言い放った、

「いいだろう。覚えておけ、加藤吾郎……その減らず口を二度と叩けなくしてやる!」


外界と隔絶されたこの安全なセーフハウスで、吾郎は余裕の笑みを浮かべたまま冷静に待ち構える。


大島が行動を起こしてくるのなら、それを迎え撃つのも一興だ。


「やれるものならやってみろよ、大島蒼梧。この雪の壁と俺の結界を突破できるもんならな……」

と吾郎は心の中で冷酷に呟いた。


誰かがこのセーフハウスに侵入しようとするのなら、その相手を排除するための準備は整っていた。


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終末の世界で命を散らした俺、異能と共にリベンジ!最強シェルターで快適な終末ライフ、ここに開幕! カフェオレ @cafeaulait77

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