第22話 ローカルルール2


森の皇国神殿の裏手にある、

闇の回廊から、

一行はしずしずと、

ドーラのお付きである、闇の竜の下へ向かった。


俺は、

ひたすら、

彼らのやり方を学ぼうと、

神父たちの間にぎゅうむと、

挟まれながら、

ときどき、

ひょいっと、身を乗り出した。


すると、

いつもは陽気な兄貴分の神父が、

それは違う、と静かに手で俺を制した。

彼の目は、青白く輝いていた。

指先まで美しかった。

わかるな?、と静かに聞こえた気がした。


俺は、


ぞくぞくした。

もしかして、牙も舐めていたかもしれない。


しかしこれも、

とても良くなかったんだと思う。

そして彼は、

俺がこの緊張感に耐えられないことを、

早々に見越してたんだろう。


後ろ手で素早く俺に、呪い紙を貼った。


んが!!

俺は、

兄貴分と同じ動きをするようになり、

かつ、体の輪郭が少し消えた。

そして、

後ろにいるふとっちょの神父に隠され

ほぼ、

居ないかのような存在になった。



俺は、

工房のリフォーム中には、

森の皇国神殿の図書館に足繁く通っていた。


彼らは優しいし、

俺が昼寝をしても、

そっとしておいてくれた。

閉館まで寝てたこともザラだ。


彼らの前だと、

よく眠れたんだ。


そして、

さんざん、

お世話になっておいて、

工房が出来てもろくに挨拶にも来ない、

新米のボケナス小僧のツケを払ってくれたうえに、


その尻拭いまでしてくれる、

気前の良い人たちである。


それなのに、

内心、


うるせーなー、

見せろよお、

ケチ!!ケチケチ!!

と、舌を出していた。


俺って、


と、

とにかく!


儀式は、

つつがなく進んだ、

と、思う。


彼らと一緒に、

ドーラの二人の付き人(人型だった)の扉へ行き、

深々とお辞儀をした。

手土産を渡し、

たぶん金も渡していたと思う。

お茶を頂き、

談笑をして、

感じよく微笑みかけた。


兄貴分の神父はいつも、

そんな柄じゃないけど、

たぶん、

俺から気をそらしてくれたんだろう。

まるで、

島の名士みたいな動きをした。

目をパッチリさせたり、

にっこりしたり、

目配せしたり、

にやりとしたり、


俺の目には、

うさんくさい、

気取り屋の、

いばりんぼに見えた。


でも、

そんな人柄じゃないのは、

俺はよく知ってる。


だから、

これが、

ローカルルール、

なんだな。

きっと。


メッキの呪いの下の、

彼の気持ちを思うと、

胸がぎゅっとした。

彼の手は、

汗でびしょびしょだったからだ。


それから、

今夜は、

ぜひシリウス劇場の話が聞きたいらしく、

例外的に、

ドーラとゴンゾー爺さんのところへ、

いますぐ向かって構わないとのことだった。


そのとき。

神父長の合図が見えた。


やれ。


俺は、

兄貴分のかけた、

呪いが切れるのがわかった。

なんなら、

シリウスのシ、の名前が出たときから。

ふとっちょの神父が、

少し俺から離れたからだ。

だから、

早めに動けた。


直感(インスピレーション)


俺は、素早く宙返りした。

そして、考えた。

きざな笑顔の裏で、

白い百合と、白い瑞花の紋様を、

ふわりと描いてみせた。

少しバランスを崩してみせる、

おっとっと、


でも、

紳士的ににっこりと近づいて、

二人に肩をかけて、

俺と彼女たち二人だけ、

雨よけの呪いですっぽり包んで、

俺と二人のためだけの、

白い百合と瑞花を一生懸命に描いた。

ありがとう、の気持ちを込めて。

そして、

別れを惜しむように、

ぱたんと傘を閉じた。

そして、また店に来てくださいと、

ぺこぺこと、

元の竜鎧屋のホークに、

戻ってみせた。


どうだ、

怖いだろ。


俺もだ。



浜辺の神殿で、

ドーラとゴンゾー爺さんは、

俺たちを、大歓待してくれた。


ゴンゾー爺さんなんて、

ぎゅうぎゅうと、ハグしてくれたくらいだ。

そして、今日のドーラは竜型だった。


神父長たちは、

手土産と金を渡していた。

ここは、

先払いなんだな。


ごちそうがたっぷりでて、

食べて飲んで、森の窃盗事件について、

快く協力を誓ってくれた。


ゴンゾーじいさんと、

神父長は別の部屋へ行き、何やら話し込むそうだ。


大広間で、

シリウスの夜のプログラムを、

特大の魔法映写機(シアター)で観覧した。

闇の竜たちがたくさん居た。

幸せだった。


だけど、

緊張と疲れとで、

くらくらしてきて、

また強烈に、

頭痛がした。


きっと俺は、一人暮らしが長すぎたのだ。


広間を離れては、

お茶を飲みながら、

気分転換に、外に出たりした。

潮風が恋しかった。


だから、

ささっとここを抜けて、

烏、蜥蜴、蝙蝠婦人のところへ行った。

みんなシリウス劇場のことを笑ってくれ、

お土産を貰って帰った。


(続)

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【不労所得】により脱サラした俺は、南の島のスローライフへと滑空した!とある元・皇国軍竜騎士青年の物語。 うきっち @ukky0307

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