第22話 ローカルルール2
◆
森の皇国神殿の裏手にある、
闇の回廊から、
一行はしずしずと、
ドーラのお付きである、闇の竜の下へ向かった。
俺は、
ひたすら、
彼らのやり方を学ぼうと、
神父たちの間にぎゅうむと、
挟まれながら、
ときどき、
ひょいっと、身を乗り出した。
すると、
いつもは陽気な兄貴分の神父が、
それは違う、と静かに手で俺を制した。
彼の目は、青白く輝いていた。
指先まで美しかった。
わかるな?、と静かに聞こえた気がした。
俺は、
ぞくぞくした。
もしかして、牙も舐めていたかもしれない。
しかしこれも、
とても良くなかったんだと思う。
そして彼は、
俺がこの緊張感に耐えられないことを、
早々に見越してたんだろう。
後ろ手で素早く俺に、呪い紙を貼った。
んが!!
俺は、
兄貴分と同じ動きをするようになり、
かつ、体の輪郭が少し消えた。
そして、
後ろにいるふとっちょの神父に隠され
ほぼ、
居ないかのような存在になった。
◆
俺は、
工房のリフォーム中には、
森の皇国神殿の図書館に足繁く通っていた。
彼らは優しいし、
俺が昼寝をしても、
そっとしておいてくれた。
閉館まで寝てたこともザラだ。
彼らの前だと、
よく眠れたんだ。
そして、
さんざん、
お世話になっておいて、
工房が出来てもろくに挨拶にも来ない、
新米のボケナス小僧のツケを払ってくれたうえに、
その尻拭いまでしてくれる、
気前の良い人たちである。
それなのに、
内心、
うるせーなー、
見せろよお、
ケチ!!ケチケチ!!
と、舌を出していた。
…
俺って、
と、
とにかく!
儀式は、
つつがなく進んだ、
と、思う。
彼らと一緒に、
ドーラの二人の付き人(人型だった)の扉へ行き、
深々とお辞儀をした。
手土産を渡し、
たぶん金も渡していたと思う。
お茶を頂き、
談笑をして、
感じよく微笑みかけた。
兄貴分の神父はいつも、
そんな柄じゃないけど、
たぶん、
俺から気をそらしてくれたんだろう。
まるで、
島の名士みたいな動きをした。
目をパッチリさせたり、
にっこりしたり、
目配せしたり、
にやりとしたり、
俺の目には、
うさんくさい、
気取り屋の、
いばりんぼに見えた。
でも、
そんな人柄じゃないのは、
俺はよく知ってる。
だから、
これが、
ローカルルール、
なんだな。
きっと。
メッキの呪いの下の、
彼の気持ちを思うと、
胸がぎゅっとした。
彼の手は、
汗でびしょびしょだったからだ。
それから、
今夜は、
ぜひシリウス劇場の話が聞きたいらしく、
例外的に、
ドーラとゴンゾー爺さんのところへ、
いますぐ向かって構わないとのことだった。
そのとき。
神父長の合図が見えた。
やれ。
俺は、
兄貴分のかけた、
呪いが切れるのがわかった。
なんなら、
シリウスのシ、の名前が出たときから。
ふとっちょの神父が、
少し俺から離れたからだ。
だから、
早めに動けた。
直感(インスピレーション)
俺は、素早く宙返りした。
そして、考えた。
きざな笑顔の裏で、
白い百合と、白い瑞花の紋様を、
ふわりと描いてみせた。
少しバランスを崩してみせる、
おっとっと、
でも、
紳士的ににっこりと近づいて、
二人に肩をかけて、
俺と彼女たち二人だけ、
雨よけの呪いですっぽり包んで、
俺と二人のためだけの、
白い百合と瑞花を一生懸命に描いた。
ありがとう、の気持ちを込めて。
そして、
別れを惜しむように、
ぱたんと傘を閉じた。
そして、また店に来てくださいと、
ぺこぺこと、
元の竜鎧屋のホークに、
戻ってみせた。
どうだ、
怖いだろ。
俺もだ。
◆
浜辺の神殿で、
ドーラとゴンゾー爺さんは、
俺たちを、大歓待してくれた。
ゴンゾー爺さんなんて、
ぎゅうぎゅうと、ハグしてくれたくらいだ。
そして、今日のドーラは竜型だった。
神父長たちは、
手土産と金を渡していた。
ここは、
先払いなんだな。
ごちそうがたっぷりでて、
食べて飲んで、森の窃盗事件について、
快く協力を誓ってくれた。
ゴンゾーじいさんと、
神父長は別の部屋へ行き、何やら話し込むそうだ。
大広間で、
シリウスの夜のプログラムを、
特大の魔法映写機(シアター)で観覧した。
闇の竜たちがたくさん居た。
幸せだった。
だけど、
緊張と疲れとで、
くらくらしてきて、
また強烈に、
頭痛がした。
きっと俺は、一人暮らしが長すぎたのだ。
広間を離れては、
お茶を飲みながら、
気分転換に、外に出たりした。
潮風が恋しかった。
だから、
ささっとここを抜けて、
烏、蜥蜴、蝙蝠婦人のところへ行った。
みんなシリウス劇場のことを笑ってくれ、
お土産を貰って帰った。
(続)
【不労所得】により脱サラした俺は、南の島のスローライフへと滑空した!とある元・皇国軍竜騎士青年の物語。 うきっち @ukky0307
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