第21話 ローカルルール


闇の回廊を開こうと思ったが、

丘の邸宅は人目につきすぎる。


辺りは、夜の部のプログラムが飛び交い、

興奮した感想が飛び交っていた。


…。


俺は悪目立ちしないように。

なるべく、

こそこそと、

町外れの森にある俺の店「南十字星」へ向かった。


そして、気がついた。

「あっ、」

シオルのことをすっかり忘れてた…。


しかし、

紫のちび竜アトラスがいるし、

みんなもいる。

まあいいや。


待てよ。


喧騒の中で、

閉館中の森の皇国神殿から、

呪い紙をいただいてしまおう、と


大変、よろしくないことを考えた。



森の皇国神殿は忙しかった。


俺は、

びっくりした。

またしても毒気を抜かれてしまった。


だって、

町外れの小さな皇国神殿すらも、

お祭り騒ぎだったからだ。

みんな、屋上に出て、

望遠鏡の呪いをかけて、

竜で飛んでいた。


そして、

「活躍だったねー!!!」と、

嬉しそうに、

ふとっちょの神父が俺を、むぎゅうっとしてくれたのだ。

ぷぷっと、みんなが笑った。

俺は、ぎくりとした。



今の顔は、どれだ?



「あっ、またよくないこと考えたでしょ?」

「ミルダちゃん、嫌がってたでしょー。

あ、そういうの好きな系?」

「お前さ。まーた自分だけ美味しくなろうとしただろ?」

「お前だけ衣装、微妙に豪華だったよな?

打ち合わせとかしたの?」


と、

神父長だけじゃなくて、

神父たちも巫女たちも、

俺の真意を、

するすると言うから、

ぎくり、ぎくりとした。


そ、

そんなに、

ばればれ?


俺は、たまげた。


「風呂入ってけよ。

歯みがけよ。よーーくな。」

彼らが言ったので、


子どもか!

と、突っ込もうとしたら、

大真面目だった。


彼らの目が鋭くなった。

静かな青い光。


「後で俺たちも行くから、お前も行くだけにしとけ。」


そういって、売店から俺にぽいぽいと、

タオルと歯ブラシをくれた。


◆ 


ふとっちょの神父は、俺の肩を抱いて言った。


いいか?

俺たちのところのルールだ。

よそとは、違うかもしれないけど。


一、風呂に入れ、歯を磨け

一、真名をつかうな

一、ラト毛の外套を着ていく

一、いんちきしない


な、なんかゆるいな。


そして、

兄貴分の神父が、

呪い紙をたっぷりくれた。


「うちは、後払い制だ。」

と、売店の神父が言った。

へえー。


ヒルザや、

老巫女(ばーさん)たちの居る、

島一番の皇国神殿とは、

ぜんぜん違う。


ローカルルール、だそうだ。


へえ。


そして、

さっきやめてしまった、

ご祈祷の部屋に、

戻るように指示を受けた。

俺はうなづいた。


巫女(シスター)が、

俺を案内してくれた。

みんなは魔法映写機(シアター)の、

シリウスのプログラムに夢中だった。


小窓には、

赤い月が輝いている。



俺は、

風呂に入り、

歯を磨き、

彼らのくれる、

温かい豆茶を頂きながら、

待っていた。


再び服を着替え、

外套をドアに掛けた。

中にラト毛をたっぷり縫い付けてあり、

外は薄い生地のマント。

二重構造だ。

大きなフード。


季節は、

夏である。

熱いよなあ。


だから、

俺は竜鎧屋らしく、

少し細工して、

括り方を変え、

見た目は同じだが、

いつでも外せるようにした。


そして、

ミルダとアトラスあてに、

魔法封書も出した。

内容は同じだ。


 シオルをたのむ。


そして、魔法封書の鷹の腹に、

ブーッと息を吹いて、二匹に変えてから、

一度図書館へ行って、大窓から放った。


たくさんの魔法封書に紛れて、

俺の封書も飛んでいった。



そして、

さっきのご祈祷の続きをした。


神父長のシラカバアが、

俺たちを叩く。


俺は、疲れていたから、

落ち着いてできた。

二回目だしな。

そして外套を来た。

しずしずと裏口から、


神父長と俺たち。

四人並んで、

闇の回廊を開き、

中へ入っていった。


そして、

彼女たちのもとへ向かった。

闇の竜の女王のひとりドーラの付き人であり、

友人である二人だ。

ドーラほどの圧倒的な美しさではないにしても、どちも美しい闇の竜だ。


彼女たちは、

ドラゴンゾンビだ。

リフォームと言っては、わりと気軽に見た目をかえる。


今日は人型?

それとも竜?


そして、

先日の事件を思い出していた。

俺の店頭への、アポ無し訪問。

あれは、

怖かったな。


うーん。

くらくらする。

すごすごく、

頭が痛くなってきた。


しかし、だ。

今日こそは、うまくやってみせる。

しかも、今回は単身ではない。

神父長、兄貴分の神父、俺、ふとっちょの神父。

その道の、プロが付いていた。

大丈夫だ。


俺は、

胸をとんとんと叩いた。

これは、

俺の、

南の島のスローライフ計画の一環なのだ。

よし。


俺は、

金色のコンタクトレンズの下で、

再び瞳を燃やした。


そして俺たちは、

闇の回廊へ向かった。


(続)

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