第21話 ローカルルール
◆
闇の回廊を開こうと思ったが、
丘の邸宅は人目につきすぎる。
辺りは、夜の部のプログラムが飛び交い、
興奮した感想が飛び交っていた。
…。
俺は悪目立ちしないように。
なるべく、
こそこそと、
町外れの森にある俺の店「南十字星」へ向かった。
そして、気がついた。
「あっ、」
シオルのことをすっかり忘れてた…。
しかし、
紫のちび竜アトラスがいるし、
みんなもいる。
まあいいや。
待てよ。
喧騒の中で、
閉館中の森の皇国神殿から、
呪い紙をいただいてしまおう、と
大変、よろしくないことを考えた。
◆
森の皇国神殿は忙しかった。
俺は、
びっくりした。
またしても毒気を抜かれてしまった。
だって、
町外れの小さな皇国神殿すらも、
お祭り騒ぎだったからだ。
みんな、屋上に出て、
望遠鏡の呪いをかけて、
竜で飛んでいた。
そして、
「活躍だったねー!!!」と、
嬉しそうに、
ふとっちょの神父が俺を、むぎゅうっとしてくれたのだ。
ぷぷっと、みんなが笑った。
俺は、ぎくりとした。
今の顔は、どれだ?
「あっ、またよくないこと考えたでしょ?」
「ミルダちゃん、嫌がってたでしょー。
あ、そういうの好きな系?」
「お前さ。まーた自分だけ美味しくなろうとしただろ?」
「お前だけ衣装、微妙に豪華だったよな?
打ち合わせとかしたの?」
と、
神父長だけじゃなくて、
神父たちも巫女たちも、
俺の真意を、
するすると言うから、
ぎくり、ぎくりとした。
そ、
そんなに、
ばればれ?
俺は、たまげた。
「風呂入ってけよ。
歯みがけよ。よーーくな。」
彼らが言ったので、
子どもか!
と、突っ込もうとしたら、
大真面目だった。
彼らの目が鋭くなった。
静かな青い光。
「後で俺たちも行くから、お前も行くだけにしとけ。」
そういって、売店から俺にぽいぽいと、
タオルと歯ブラシをくれた。
◆
ふとっちょの神父は、俺の肩を抱いて言った。
いいか?
俺たちのところのルールだ。
よそとは、違うかもしれないけど。
一、風呂に入れ、歯を磨け
一、真名をつかうな
一、ラト毛の外套を着ていく
一、いんちきしない
な、なんかゆるいな。
そして、
兄貴分の神父が、
呪い紙をたっぷりくれた。
「うちは、後払い制だ。」
と、売店の神父が言った。
へえー。
ヒルザや、
老巫女(ばーさん)たちの居る、
島一番の皇国神殿とは、
ぜんぜん違う。
ローカルルール、だそうだ。
へえ。
そして、
さっきやめてしまった、
ご祈祷の部屋に、
戻るように指示を受けた。
俺はうなづいた。
巫女(シスター)が、
俺を案内してくれた。
みんなは魔法映写機(シアター)の、
シリウスのプログラムに夢中だった。
小窓には、
赤い月が輝いている。
◆
俺は、
風呂に入り、
歯を磨き、
彼らのくれる、
温かい豆茶を頂きながら、
待っていた。
再び服を着替え、
外套をドアに掛けた。
中にラト毛をたっぷり縫い付けてあり、
外は薄い生地のマント。
二重構造だ。
大きなフード。
季節は、
夏である。
熱いよなあ。
だから、
俺は竜鎧屋らしく、
少し細工して、
括り方を変え、
見た目は同じだが、
いつでも外せるようにした。
そして、
ミルダとアトラスあてに、
魔法封書も出した。
内容は同じだ。
シオルをたのむ。
そして、魔法封書の鷹の腹に、
ブーッと息を吹いて、二匹に変えてから、
一度図書館へ行って、大窓から放った。
たくさんの魔法封書に紛れて、
俺の封書も飛んでいった。
◆
そして、
さっきのご祈祷の続きをした。
神父長のシラカバアが、
俺たちを叩く。
俺は、疲れていたから、
落ち着いてできた。
二回目だしな。
そして外套を来た。
しずしずと裏口から、
神父長と俺たち。
四人並んで、
闇の回廊を開き、
中へ入っていった。
そして、
彼女たちのもとへ向かった。
闇の竜の女王のひとりドーラの付き人であり、
友人である二人だ。
ドーラほどの圧倒的な美しさではないにしても、どちも美しい闇の竜だ。
彼女たちは、
ドラゴンゾンビだ。
リフォームと言っては、わりと気軽に見た目をかえる。
今日は人型?
それとも竜?
そして、
先日の事件を思い出していた。
俺の店頭への、アポ無し訪問。
あれは、
怖かったな。
うーん。
くらくらする。
すごすごく、
頭が痛くなってきた。
しかし、だ。
今日こそは、うまくやってみせる。
しかも、今回は単身ではない。
神父長、兄貴分の神父、俺、ふとっちょの神父。
その道の、プロが付いていた。
大丈夫だ。
俺は、
胸をとんとんと叩いた。
これは、
俺の、
南の島のスローライフ計画の一環なのだ。
よし。
俺は、
金色のコンタクトレンズの下で、
再び瞳を燃やした。
そして俺たちは、
闇の回廊へ向かった。
(続)
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