第3話 化け狐は恩返ししたい

「あなたのお嫁さんになるため参りました!」

たった今僕の目の前に現れたこの女性はそんなことを突如言った。驚いたと同時に思考回路が狂ったが、なんとか平穏を保つことに専念する。

どうやら彼女は、あの時助けた狐だと言う。

にわかには信じがたい話である。

「あの…人違いです。なのでお引き取り願います。」

「え、これはすいません。夜分遅くに失礼いたしました。」

「いえいえ、道中お気をつけて。」

僕はそういってドアを閉めようとする。

「はい。ありがとうございま…ってそうじゃなーーーーーーーい!!」

「!」

彼女は俺が閉めようとした扉に手をかけ、静止させる。思ったより力が強い。波の女性より力あるんじゃないか?

「私は…けっして間違っては…いませんよ。」

「いいや、君を見た覚えなんてない。だからは、な、せっ!」

「い、や、です!そもそも。私はあの時、狐だったんですから見た目がまるっきり違うに決まってるでしょうが!!!」

くっ…こいつ。

「と、り、あ、え、ず!家に入れてくださいっ!」

「断る!不審者は入れるなって親から学んでるからな!」

「誰が不審者ですか!私は善良な狐なんです!九尾の力を得て人の姿をしただけなんです!!」

九尾…。親父の言っていたことと同じ。

まさか、本当にこの女は。

「なら、親父をすぐに解放しろ!お前の力で何かしてるんだろ!」

そうだ。親父はチャイムの後すぐに倒れた。

こんな偶然があるはずがない。

「え!?な、何の話ですか!」

「とぼけるな!お前は今九尾と言った。九尾の狐は神にも等しい存在故、近づくだけで呼吸もできないと言われるくらいだ。何かしてもおかしくないだろ!」

そうだ。とてつもない存在だと言われたばかりだから冷静さを取り戻そうにも難しい。

「えーと…だとしたら何故あなたは私を前にして倒れてないのでしょうか?」

「は?」

た、たしかに…。おかしい。

本当にこいつは無害な存在なのか。

「おーそなたがあの狐か。」

「親父!?体の方は大丈夫なのか。」

後ろから声がして振り向くと腰に手を当てた親父がゆっくりとこちらに向かってきていた。

「当たり前だ。お前はワシがこんなことでやられるとおもっちょるんか?」

「....。」

そういうんじゃないんだよ。僕はただ、親父が心配なだけ。親父だって普通の人間と変わらない。

「…晴明。」

「ん?」

「その子をリビングへ連れて行きなさい。」

「お、おう。」

僕は親父の言うことに従い、玄関でぽかーんとしてる狐女に声をかけ、案内する。

彼女は鼻歌を歌いながら、我が家に帰ってきたかのようについてくる。

本当に陽気な奴だな。

親父の前を横切るときふと違和感を感じた。いつもとは違う表情、雰囲気。

「どうかしたんですか?」

「いいや、何でもない。台所に母さんがいるから、紹介するよ。」

「ふふ。私の姿みて驚きますかね~」

見えもしないがなんとなく彼女の尻尾がご機嫌に大きく振っているように感じた。

「あ、改めまして。金白こんぱく 玉萌たまもです!貴方のお嫁さんになる狐女です。」

彼女は急に振り返り、僕に目線を合わせていった。

なら、お返ししなければ。

「僕は土御門つちみかど 晴明はるあき。普通の何の変哲もない青春に憧れている男だ。」

そう、普通の…。僕は!こんな意味わからん出会いをしてリア充になりたいわけじゃなーーーーーーーい!!

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「晴明....。流石に誤魔化せないか。」

自分の息子がワシの前を横切った後、彼の背中を見つめながら独白する。

ワシに残された時間は少ないと医者に言われている。だが、まだやることがある…。

このことは誰にも伝えていない。最後の最後までいつもと変わらない家族の団らんでありたいから。さて、ワシも向かうとするかの。ゆっくりとした足取りで彼らの後を追う。だが…。

「ぐうっ!?げほっ、げほっ。」

く…。また吐血か。やはり体は言うことを聞かぬか。

....。すまぬ晴明。まだお前は未熟だ。たくさん怒られて嫌なことばかりだろうが、

教えられることは全部叩き込み、親としてお前の行く末を出来るだけ長く見守らせてくれ。

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嫁入り狐の金白さん 一ノ瀬詩音 @sion05

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