「サムゲッドターン~辛い料理苦手な僕がミーハー部長の指示で韓国料理記事を書く。」

アキブリー

EP.1 韓国ブーム


とある雑誌出版社に務める男性サラリーマン本出33歳。


今日も都内マンションの自宅でPCを使い8時のオンライン朝礼に参加する。


新型ウイルスの感染対策で一般的になったテレワーク。


部長が本出に昨今流行りの韓国をテーマとした記事を書く様に指示する。


部長はトレンドに敏感だが、ミーハーである。


韓国の事も詳しく無いだろう。


記事の内容は何にしよう。


日本ではK-POPアイドルや韓国ドラマ、韓国料理が人気だ。


韓国アイドルの動画配信やドラマのシーンで韓国料理が登場する。


出演者が食べているのを見ると、どんな味がするのか気になって食べてみたくなる。


そう言えば、我が社に料理雑誌の部署がある。


もしかすると、韓国料理に詳しい人もいるかもしれない。


とりあえず、社内メールを送る。




同じ頃、本出が務める雑誌出版社オフィスの会議室でミーティングが行われている。


大きなモニターにプレゼンテーションのスライドが映し出されている。


部長が席に座っている女性社員の方を見て投げ掛ける。




「飯田さん、韓国食品の動向について発表お願い。」




飯田が発言する。




「はい。韓国では健康志向がトレンドになっており、韓国風海苔巻きのキムパッは


 使う白米の量を少なく具の量を多くしたプレミアムキムパッや錦糸玉子を使った


 キトキンパッが流行っている様で、スンドゥブを使う海苔巻きのスンドゥブ


 キムマリもあるそうです。」


「進化系が流行っているのね。ヘルシーなメニューを中心に取り上げるのかしら。」


「いえ、ヘルシーなメニューに限らず家庭でも簡単に作れる料理を取り上げる事に


 より、おうちご飯するニーズに応えられると考えております。」




部長が問い掛ける。




「そう。具体的なメニューは浮かんでいるのかしら?」


「キムパッやチュモクパプ、チヂミ等の主食、ホットクやハッドグ、ヤックァ等の


 お菓子を考えております。」


「その様なメニューをチョイスした理由は何かしら?」


「はい。おうち時間が増え家族と過ごす時間が多くなっている状況を踏まえまして、


 家族で簡単に作れる様な料理やスイーツ等のレシピが必要とされ、小さなお子様


 などの辛い料理が苦手である方も食べられるメニューをピックアップしました。」




部長が業界の脅威について突っ込みを入れる。




「ただ、最近は飲食店のデリバリーやコンビニ等の調理済み商品で手軽に韓国料理


 が食べられるわよね。敢えて、手作り料理のレシピを提供する理由は何かしら?」




飯田は緊張しながらも、気丈に答える。




「はい。依然としてK-POPはZ世代を中心に、韓国ドラマは主婦を中心に日本でも


 人気があり、その様な韓国に興味がある親子を対象とする事で、韓国文化を学ぶ


 機会になると考えております。」


「ターゲットは韓国好きの親子がいる家庭で料理教室がコンセプトという事よね。」


「その通りです。」




ここで、部長が再び突っ込みを入れる。




「そうね。競合となるレシピ投稿サイトやSNSとの差別化も必要よ。」




飯田も負けじと返答する。




「差別化としましては、韓国出身の料理家から本場の味に近付けるコツや歴史、文化


   を教わり、最近のトレンド、アレンジレシピや関連コンテンツを提供する事で料理


 のレパートリーも増えて、日々の献立を考える手助けになると考えております。」


「そう。まぁ、ひとまず市場調査していらっしゃい。」


「ありがとうございます。」




部長の問い掛けは常に的確で気が張るので、許可が出て飯田は肩の力が抜ける。


飯田が自分のデスクで一息ついていると部長に声を掛けられる。




「今、社内メールを見たんだけど、別部署の本出さんって人が韓国料理について


 知りたいらしいの。飯田さん、韓国料理に詳しいでしょう。


 1回電話してみてもらえる?」


「あ、はい。」


「頼んだわよ。」




部長が離れると、飯田は社内メールを見て電話を掛ける。




一方、本出は東京で韓国と言えば有名な新大久保にある通称コリアンタウンの韓国


料理店をWeb検索していた。


韓国料理と言えば、参鶏湯(サムゲタン)だろう。


料理名をクリックすると、数店あり専門店の文字に惹かれ店舗情報を確認。


営業時間は12時~か。まだ3時間ある。


他に韓国と言えば、海苔巻きのキムパッもある。


これも数店あるが、キムパッが9種類ある専門店が目に留まる。


店舗情報を見ると24時間営業だ!


早速、地図を確認しているとスマホの着信音が鳴る。


本出は通話を始めた。




「もしもし。」


「あ、もしもし。本出さんの社内メール見ました飯田です。」




優しそうな声だ。




「お忙しい中、お電話下さり申し訳ないです。」


「いえいえ、私で良ければ韓国料理についてお教えしますよ。」




物腰も柔らかい。




「ありがとうございます。お願いします。」


「はい。」




本出は真面目なトーンで本題に入る。




「早速ですが、韓国料理と言えば参鶏湯やキムパッが思い浮かぶんですけど、


 最近は何が流行っているんでしょうか?」


「そうですね~。参鶏湯は薬膳スープで美容にも良いので、ポピュラーですよね。」


「僕も日本メーカーが製造している鶏肉を入れるだけで参鶏湯が出来る素を使って


 作って食べた事はあります。」


「生姜の味がして美味しいですよね。」


「そうですね。あ、初めて食べると薬膳らしい感じはしました。」


「確かに。その点、キムパッの方が日本食の海苔巻きと似ていて良いですよね。」


「僕はキムパッを食べた事がないので、これから新大久保にあるキムパッ専門店まで


 行こうと思っています。」


「どの店ですか?」


「えっと、24時間営業で大久保通り沿いにある店です。」


「良いですね。私も雑誌に韓国料理のレシピを取り上げるので、そちらのお店に行き


 ます。」


「あ、でしたら一緒に行きませんか?」


「え、良いんですか?」


「会社ですよね?僕の車で良ければ会社に寄りますよ。」


「そうです。じゃあ、お言葉に甘えて。」


「それでは。」




本出は通話を終えると、愛車に乗り込み会社へ向かう。




一方、飯田は部長に韓国料理の調査で新大久保まで行く事を伝え、会社の前で本出の


車を待っている。


10分後、会社の前に1台の車が停まる。


飯田は車に近付くと、助手席側の窓をノックした。


窓が開く。




「本出さんですか?」


「はい。飯田さんですね?」


「そうです。こんにちは。」


「こんにちは。お待たせしました。どうぞ乗って下さい。」


「ありがとうございます。」




飯田が助手席に乗り込み、シートベルトをする。




「出発しますね。」


「はい。」




本出は車のシフトレバーをDに入れると、アクセルペダルを優しく踏み発進させる。


新大久保へと車を走らせながら、飯田に話し掛ける。




「日本で韓国気分を味わえるのは、やはり新大久保ですよね。」


「そうですね。飲食店やカフェ、屋台、コスメやファッションのショップ、エステ


 もありますよ。」


「まるで、韓国の明洞(ミョンドン)みたいですね。」




大通りを東へと進む。


飯田がスマホの画面をスワイプしながら見ている。




「明洞には飲食店も多くキムパッやお粥、牛骨スープのソルロンタン、参鶏湯、


 麺料理のカルグクス、ジャージャー麺、蟹醤油漬けのカンジャンケジャン、焼肉


 などのお店がある様ですね。」


「なるほど。1度は行って調査したいです。」


「まずは、新大久保にある飲食店を探しましょう。」


「そうですね。」




新宿区に入り高架下を通過する。


続いて、新大久保駅の高架下を通過すると交差点がある。


赤信号で止まると、飯田が左側にある10円パンの店を発見。




「あ、ここに10円のお店がありますよ。」




本出が店の方を見る。




「え、1個500円!」


「見た目が10円硬貨なだけですね。」


「そっか。確か、韓国では10ウォン硬貨の形ですよね。」




信号が青に変わり、車を走らせる。


交差点を超えて、右側にある店の看板を見るとハングルが書かれている。


チキン店やコスメショップがある通りを通過すると、飯田がキムパッ専門店を発見。




「あ、ありました。」


「駐車場を探しますね。」




本出は新大久保をテレビで見た事はあるが、実際に来たのは初めてだ。


少し進むと左側にPの文字が書かれた標識を発見。




「あった。ここ、入りますね。」


「はい。」




本出はウインカーを出すとコインパーキングのエリアに入る。


バックで駐車すると車を降りスマートキーでロックする。


大通り沿いの歩道を西側に向かって来た道を戻る。


歩き出すと、店名がハングルで大きく書かれている。


まるで韓国に来た様だ。


看板の下には日本語で”コプチャン 韓国式ホルモン焼き”とある。


パチンコ店の前にある横断歩道を渡り、コンビニの前を右の方へ向かう。


チュクミとタッカルビの店、韓国食料品店の前を通り過ぎる。


更にコスメショップ、韓国料理店、チキン店と続く。




「あ、ここですね。」




キムパッ専門店に着いた。


店内は明るい雰囲気でテーブルに椅子とソファーがある。


席に座り写真付きのメニュー表で海苔巻き(キムパッ)類を見ると、店名でもある


看板メニューのキムパッや野菜、プルコギ、ツナ、チーズ、キムチ、ヌード、黒米、


玉子があり、数えると本当に9種類。


どこかのK-POPアイドルみたいなメンバー数だ。


どれにしようか考えながら、飯田に話し掛ける。




「キムパッの種類が豊富で悩みますね。」


「それなら、盛り合わせはどうですか?


 ただ、量が多いと思うので、シェアしましょう。」


「良いですね。」


「すみません。キムパッの盛り合わせを1つ下さい。」




飯田が店員に注文を伝えると、テーブルに透明なポットに入った飲み物とカクテキ


が置かれ、本出と飯田はコップに注いだお茶を飲みながら待つ。


しばらくすると、キムパッの盛り合わせが運ばれて来た。




木の寿司下駄に3種類のキムパッが5切れづつ並ぶ。


本出は銀色の箸を手に持つ。




「あ、ちょっと待って下さい!」




そう言うと、飯田はスマホで写真を撮る。




「どうぞ。」




本出はキムパッの事に気を取られ、写真を撮るのを忘れていた。




「いただきます。」




気を取り直し、まずはオーソドックスな見た目のキムパッを一口かじる。


お、ゴマ油の香りと味がする。


日本で馴染がある海苔巻きは酢飯を使うが、キムパッは白米を使う。


キムパッの具材は人参や法蓮草のナムル、ハム、玉子焼き、練り物、カニカマ、


沢庵も入っている。沢庵が食感の良いアクセントで美味しい。




次に、黒米のキムパッを一口かじる。


海苔が無く、黒米がダイレクトに感じられ白米とは印象が違う。


本出が飯田に話し掛ける。




「あ、ご飯がモッチリで香ばしいですね。」


「そうなんですよ~。黒米って栄養価が高く、アンチエイジングや美容に効果が


 あります。 ただ、良く噛んで食べて下さいね。」


「なるほど。」




続いて、白米で海苔が無い裏巻きのキムパッ?を一口かじる。


うん、海苔が無い事で白米の食感と具材が相まっている。


本出はキムパッを飲み込むと、お茶を一口。


飯田がメニュー表を手に取る。




「汁物も注文しませんか?」




本出も温かい汁物が欲しいと思っていた。




「良いですね。何がありますか?」




飯田がメニューを探す。




「私はラーメンにしようかなと思っています。」


「韓国のラーメンは辛いんですよね?」


「辛い味のスープが多いですね。メニューにも唐辛子マークがあります。


 韓国ではキムパッとラーメンをセットで食べる様ですよ。」




本出は辛いのが苦手なので、どうしようかと考えつつメニューを見ていると


他の席に座っている女性の元へ料理が運ばれ、店員の声が聞こえる。




「黒米海苔巻きとおでんです。」




本出が女性のテーブルを見ると、黒い石釜?でおでんがスープに浸かっている様だ。




飯田がメニューを確認する。




「あ、おでんも良いですよね。」


「え、おでんって韓国にもあるんですか?」


「ありますよ。」


「そうなんですね。僕はおでんにします。」




飯田が店員を呼び止め、ラーメンとおでんを追加で注文する。


少し待つと、白い器のラーメンと黒い石釜に入れられた熱々のおでんが


木皿の上に置かれ運ばれて来た。




「本出さん、私のラーメン少し味見します?」


「良いんですか?」




飯田が頷くと、本出はコップのお茶を飲み干す。




「このコップに入れて下さい。」




飯田は本出のコップに麺を入れると本出へ手渡す。




「はい。」


「ありがとうございます。」




本出が早速、麺を啜る。お、少しピリ辛で食感は普通のインスタント麺だ。




「どうですか?」


「美味しいけど、ピリ辛ですね。あ、お返しに僕のおでんもどうぞ。」


「はい。」




飯田も自分のコップに残っていたお茶を飲み干すと本出へ手渡す。


本出は銀色のスプーンでおでんのスープと具材の練り物を飯田のコップに入れる。


飯田は本出からコップを受け取るとおでんのスープを一口。




「あ、この味は牛骨出汁ですね。」




本出もおでんのスープを一口。




「なるほど。牛骨に鰹の風味で辛く無いけど、胡椒も効いていますね。」




一旦、本出はキムパッを食べる。


そして、おでんに入っている具材の練り物を食べると美味しい。


玉葱や人参は柔らかく出汁が染みて美味しい。キムパッとも合う。


ここで、カクテキ(サイコロ状の大根キムチ)を試しに食べると大根の食感が


シャキとみずみずしい。少し酸味と辛味があり、口直し的な存在だ。




おでんの煮卵を食べると美味しい。


順調に食べ進める。




「ごちそうさまでした。」




お茶をコップに注いで飲むと、飯田が本出に話し掛ける。




「キムパッ美味しかったですね。」


「はい。日本の太巻と見た目は似ているけど、酢飯では無く具材も違いました。」


「そうですね。日本の太巻に使われる具材はカンピョウやキュウリ、紅生姜、


 玉子焼き等だと思いますが、キムパッに使われる具材は人参や法蓮草のナムル、


 沢庵、練り物、ハム、玉子焼き等がある様です。」


「使う海苔も違いますよね。」


「キムパッはゴマ油で味付けされた海苔を使って巻くのが一般的だと思いますが、


 海苔が無い裏巻きタイプや黒米を使ったバージョン、薄い玉子焼きで巻いたタイプ


 もあってバリエーションも多いですね。」




飯田がスマホで情報サイトの画面を本出に見せる。




「基本的には白米ですが、酢が入った特製ソースで味付けするお店もある様です。」


「あ、本当ですね。」




飯田がメニュー表をタップする。




「キムパッの値段が4500ウォンですよ。」


「約500円ですね。何切れですか?」




飯田がキムパッの写真を探す。




「9切れだと思います。あと、テイクアウト用の容器もある様です。」


「1切れ500ウォン。約55円ですね。」


「韓国でキムパッは、主に小麦料理の事を粉食と書いてプンシクと読む


 お店で提供されているので、お手頃価格なファストフード感覚ですね。」


「なるほど。」


「手軽さから遠足や登山などのお弁当としてキムパッを持って行く様ですよ。」




お腹も落ち着き、レジで会計を済ませる。


キムパッ盛り合わせ15切れで¥1100とおでん¥600。


キムパッ専門店を出ると、不意に飯田が本出に話し掛ける。




「あ、目の前にカフェがありますよ。何か飲みません?」




本出が大通りの向かい側を見ると、コンビニの2階にCafeの文字を発見。




「そうですね。」




スマホで営業時間を調べると、11時~。




「間もなくOPENの様なので、行きましょう。」




横断歩道を渡り左側にある路地を進むと、そこに入口があり階段を上がる。




店内に入ると天井に液晶モニターが3台吊り下げられ、K-POPのMVが流れている。


壁には背景が紺色の星空で中央に店名、右横にソウルタワーらしきイラストがあり、


全体的に可愛いらしいデザインで描かれ、ソウルに来た様な気分になる。


ひとまず、本出がテーブルにショルダーバッグを置き席を確保する。


注文をするべく、MenuOrderと書いてあるキッチンカー風のカウンターへと向かう。


カウンターのポップアップに白猫の可愛いマスコット風のプリン¥600とある。




「あ、この白猫プリン可愛いですね。」


「韓国でバズっているんですよ。」


「そうなんですね。」




これに合う飲み物を手元にあるメニューから探す。


定番のコーヒーにコグマ(サツマイモ)ラテやヘーゼルナッツのコーヒー/ラテ、


バニララテがあり、アイスとホットを選べる。


面白いのは好きな写真を印刷してくれるプリントラテ。


タピオカティーにはミルクティーとジャスミンやほうじ茶のミルクティー、


マンゴーやアップル、オレンジのフルーツティーがある。


タピオカミルクには抹茶やいちご、マンゴーがあり、トッピングでアイスクリーム


の追加もある。


フローズンにはカフェモカやチョコミント、抹茶/コグマのラテ、オレオ、マンゴー。


ソフトドリンクにはオレンジやアップル、マンゴーのジュース、ココア、


ゆずみつ茶、紅茶がある。




韓国と言えば柚子蜂蜜茶だが、ヘーゼルナッツコーヒーも気になる。




「ヘーゼルナッツコーヒーにしようかな。」


「それも韓国で人気ですね。」


「僕は飲んだ事が無いので、これにします。」




注文を終えると店のロゴ入りブザーを手渡され、少し待つとブザーが鳴り


注文した白猫プリンとドリンクを受け取る。




テーブル席に戻り椅子に座ると、飯田はスマホのカメラで白猫プリンを撮影。




本出はヘーゼルナッツコーヒーを飲む。


あ、ナッツの香ばしい香りが美味しい。


続いて、本出はスプーンを手に取り白猫プリンを食べる。


プルンとした食感のミルクプリンで美味しい。




本出はショルダーバッグからノートPCを取り出すと、キーボードを打ち始める。




「飯田さん、日本で海苔巻きはスーパーやコンビニで見かけますよね?」


「そうですね。特に節分の時期は恵方巻きが思い浮かびます。」


「あ、韓国は節分ってあるんですかね?」




飯田がスマホで調べる。




「似た様な行事でテボルムと呼ばれる大満月の日はありますね。」


「どんな行事ですか?」


「えっと、意味は1年の中で月が1番大きく明るい日で満月を見ながら


 豊作と人々の健康や幸せを願う様です。」


「なるほど。」


「あ、テボルムの朝にはクルミや松の実、栗、落花生など硬い殻がある


 実を歯で噛む事で音を出すプロムと呼ばれる風習がある様です。」




飯田がスマホ画面で実を噛んでいる人の写真を見せる。




「え、日本は豆撒きの後に豆を食べる風習と似てますね。」


「そうですね。プロムの語源は腫れ物の意味で使われるプスロムから


 来ていて、身体に腫れ物が現れ無い様にする目的があり、噛む音が


 悪い鬼を退ける効果を持つとされている様ですよ。」


「日本だと魔を滅する豆を撒く時に鬼は外福は内で悪い鬼を退散させて


 豆を年齢の数だけ食べる事で健康長寿を願いますね。」


「韓国の冬は寒いので、殻の中にある実は肌に良くて栄養価が高く


 寒さで消耗された栄養と体力を補給する意味もあるそうです。」


「なるほど。」




飯田はスマホ画面をスワイプする。




「テボルムでは他に五穀飯と書いてオゴッパッを食べる様です。


 これは白米と麦、キビ、豆、餅米、小豆などの雑穀を5種類混ぜて


 炊く事で全ての穀物が熟して豊作となる様に祈願するそうですよ。」




飯田がスマホ画面でオゴッパッの写真を見せる。




「釜で炊くんですね。」


「石釜を使って作る石焼ビビンパは有名ですよね。」


「僕も中学生の時にショッピングモールのフードコートで食べました。」


「やっぱり、お焦げのご飯とナムルのシャキシャキした食感が美味しい。


 テボルムでも冬に保存しておいたムグンナムルを食べる様です。」




本出が飯田のスマホ画面を見ると、白いお皿に色とりどりのナムル。




「あ、盛り付けると綺麗ですね。」


「そうですね。ゼンマイやキキョウ、椎茸、岩茸、大根、モヤシ、豆モヤシ、


 干瓢、干し菜など9種類のナムルを食べると、夏バテしないと言われる。」


「ところで、ナムルってどうやって作るんですか?」


「えっと、定番は豆モヤシや法蓮草、ナスなどの野菜にニンニクや塩、


 すりゴマ、唐辛子などで味付け、仕上げでゴマ油を入れる様です。」


「なるほど。」




飯田がスマホでナムルのレシピを調べる。




「あ、キキョウの根やワラビなどの山菜、ひじきや青海苔などの海藻類も


 ナムルにする様で、海藻の味付けは酢をベースに甘酸っぱくするそう。」


「色々なナムルがあるんですね。」




本出は思い付きでアイデアを言う。




「ムグンナムルとオゴッパッでキムパッを作ったら面白いんじゃ無いかと


 思いました。」


「良いかもしれないですね。ただ、最初は伝統的な食べ方をするべきだと


 思います。」




飯田の意見を聞いて本出は確かにそうだと思った。




「そうですね。まずは韓国の文化を正しく理解する必要がありますね。」




本出はPCでテボルムについて書かれているWebサイトの内容を読み上げる。




「えっと、テボルムの朝には食前に冷えた清酒のキバルギスルを飲み、


 1年中良い知らせだけが耳に入る様に願う。


 韓国語でキガ、パルガジラゴ、マシヌン、スルの略。


 日本語で耳が、聞こえる様に、飲む、酒。


 耳明酒の漢字読みでイミョンジュとも呼ばれる。」


「面白いですね。日本だと冠婚葬祭で日本酒を飲むイメージ。」


「年明けに樽酒を枡で飲みますよね。」




飯田がスマホ画面を見ながら、本出に話し掛ける。




「酒樽の鏡開きですね。」


「鏡開きって鏡餅のイメージが強いです。」


「鏡餅は一般家庭でも飾りお供えしますよね。鏡開きで年神様を見送り、


 仕事始めをする意味があります。」


「韓国のお正月も何かお供えするんですかね?」


「韓国では新正月より旧正月のソルラルを盛大に祝う様で


 チャレと呼ばれるご先祖様の霊を迎え入れる祭礼があり、


 チャレサンに20種類以上の食べ物をお供えする様です。」




飯田がチャレサンの写真を本出に見せる。




「朱色の台に沢山の料理が並べられていて豪華ですね。」


「そうですね。配置は主催者側からご先祖様の霊を見て右東左西、


 中央奥側に位牌に相当するチバンを置き、すぐ手前の1列目に左側から


 朱色の箸や匙、器で汁物、ご飯、餅スープのトックッを並べる。」




飯田がトックッの写真を本出に見せる。


白い器に透明なスープで真っ白な餅と野菜が入っている様に見える。




「トックッは日本で言うお雑煮みたいですね。」


「お雑煮は地域によって使う具材や味付けが違いますよね。トックッのお餅は


 うるち米で作られ、白は純粋や始まりの象徴で長寿を願い、細長い餅を薄く


 切ったカレトッが使われる事が一般的に多い様です。」


「日本だと海老が長寿の象徴ですね。」


「あと、ヒョウタンみたいなジョレンイトッも使われる様です。」


「トックッはどんな味付けなのか気になります。」


「以前はお餅以外の具を入れ無かったそうですが、現在は野菜や鶏卵など様々な


 具を入れるそうで、スープは牛肉などを使う様です。」


「なるほど。」




飯田がテーブルに置いたスマホ画面を見ながら、チャレサンの話を続ける。




「2列目には左側から鶏肉や焼いた牛肉のユッジョッ、お肉のジョンや


 串焼きのコチジョン、お豆腐のジョン、緑豆のジョン、お魚のジョン、


 焼いた魚のオジョッを置く様です。」


「ジョンって確かチヂミの事ですよね?」


「そうですね。チヂミは方言で、標準語ではプチムゲやジョンと呼ばれます。


 お好み焼きっぽいのがプチムゲ。食材に小麦粉や卵液を付けて焼いたのが


 ジョンです。」


「なるほど。作り方に違いがあるんですね。」




飯田のスマホ画面に表示されている料理の写真を本出が見る。




「鶏肉が器に丸ごと、焼いた牛肉やジョン、器から溢れそうな程に入って、


 焼いた魚は1匹丸ごとで平たい器から頭と尾がはみ出ていて豪快ですね。」


「配置場所にはルールがあり、お魚を東側にお肉を西側に置くオドンユッソと


 お魚の頭は東側に尾を西側に置くトゥドンミソがあるそうです。」




飯田がスマホ画面をスワイプする。




「3列目にはお肉が入った汁物のユッタン、豆腐や野菜が入った汁物のソタン、


 干し魚が入った汁物のオタンを並べる様です。」


「干し魚のスープと言えば、プゴクッのイメージがあります。」


「干しスケトウダラのスープですね。プゴはスケトウダラを1ヶ月程干した状態


 の呼び方で加工方法が違うと呼び方も変わります。」


「え、覚えるの大変ですね。」




飯田がスマホ画面を見ながら、チャレサンの話を続ける。




「4列目は左側に干し魚、右側にシッケを置くルールのチャポウへがあり、


 中央にキキョウの根のナムルやシラヤマギクのナムル、ワラビのナムルと


 ナバッキムチを置く様です。」




スマホの画面に表示されている写真を本出が見る。


干し魚は平たい器に収まら無い大きさだ。




「あ、干し魚には干しタラのファンテポが使われるんですね。」


「ファンテはスケトウダラを真冬に凍らせ干す事を20回程繰り返して作り、


 柔らかく香ばしいそうです。」


「手間が掛かっているんですね。」


「主な食べ方は薬味焼き魚のファンテグイにする様ですよ。」


「なるほど。日本の西京焼きに近いんですかね?」


「コチュジャンを使った辛いタレを塗って焼くので、蒲焼き風ですね。」




スマホの画面に表示されているナバッキムチの写真を見る。


朱色の器に白い正方形の食材が透明な汁に浮かんでいる。




「キムチって見た目が赤いイメージですが、赤く無いキムチもあるんですね。」


「唐辛子を入れずに作る白菜のペッキムチや大きめの大根で汁が多いトンチミ、


 大根の薄切りで汁が多いナバッキムチがあります。」


「辛く無いのは良いですね。」


「チャレサンではご先祖様が刺激のある料理は好まないと考え、


 唐辛子やニンニク等を使わずに素朴な味付けにする様です。」




シッケの写真を見ると、朱色の器に茶色い液体が入っている様に見える。




「シッケは確か日本の甘酒に近い飲み物ですよね?」


「似た様なイメージですが、原料は違います。


 甘酒はお水とお米、麹で発酵させた物とお水と酒粕、砂糖を使った物の2種類、


 シッケはお水とお米、麦芽粉のヨッキルムで発酵、砂糖を加えた物ですよ。」


「甘酒は白く濁った色、シッケは麦芽のベージュ色をしているんですね。」




飯田がスマホ画面をスワイプする。




「5列目は果物やお菓子を置く様です。西側から順にナツメ、栗、梨、柿を並べる


 ルールのチュユルイシがあり、この4つは必ず用意する必要があります。」


「日本でも馴染みがある食材ですね。」


「その他に、紅い果物は東側、白い果物は西側に置くルールのホンドンベッソが


 あり、梨や林檎は上の部分を切り取る様です。」




本出がスマホ画面に表示されている梨と林檎の写真を見ると、


確かに上部がカットされて朱色の器に3つ載っている。




「端に韓国伝統菓子のヤックァや餅米の揚げ菓子のサンジャを置く様です。」


「ヤックァは茶色で花の様な形をしているんですね。」


「えっと、ヤックァは油で揚げ蜜に浸したお菓子だそうです。」


「ドーナツの様な感じですか?」


「食感はドーナツに近いかと思いますが、保存性と栄養価に優れる様ですよ。」


「食べてみたいです。」


「ヤックァはユミルクァと呼ばれるお菓子の代表で市販されていますよ。」


「なるほど。サンジャは白色で四角いんですね。」


「これはユクァと呼ばれる餅米粉を10日程発酵させて作った生地を蒸して裁断、


 乾燥後に油で揚げ餡を絡め、カラフルな粉や松の実を纏わせたお菓子です。」


「手間が掛かるんですね。」


「ユクァは歴史が古く作る工程が多く大変なので、真心が込められているとして


 古くは新婦から新郎の家へ結婚の贈り物にされていた様ですよ。」


「そうだったんですね。」


「現在も祭事には欠かせないお菓子ですが、伝統茶とセットのお茶菓子としても


 食べるそうですよ。さて、チャレサンにお供えする料理は以上ですが、儀式に


 必要なお酒や線香と米を入れた香炉も床に置く様です。」


「準備も一苦労ですね。」


「儀式も細かい手順があり、最初に主催者のチェジュが線香を立てます。


 お酒を補助役がチェジュの持つ朱色のおちょこに注ぎ、おちょこを線香の上で


 回す。おちょこを補助役が御膳にお供えし、チェジュが拝礼を2回半行なう。」


「拝礼って、もしかしてドラマで見かける床に膝を就いて頭を下げ、立ち上がる


 動作ですか?」


「そうだと思います。チャレでは次の参拝者に御膳のおちょこを渡し、大きめの


 器にお酒を空け再びお酒をおちょこに注ぎ、拝礼を行なう。最後にチェジュが


 おちょこのお酒を飲むと儀式は終わりなので、位牌の紙チバンは燃やす様です。」


「なるほど。儀式に使ったお供えの料理は食べるんですよね?」


「そうですよ。お供えの料理は参拝者の皆で頂くウムボッがある様です。」


「食べてみたいですね。」


「そうですね。料理や道具を一から用意すると大変なので、最近はチャレサンに


 必要な料理や道具の一式を配達してもらえるサービスもある様ですよ。」


「それは便利ですね。」


「そして、チャレを全て終えるとお墓参りに行く様です。」


「ご先祖様を敬う韓国らしい文化ですね。」


「韓国と言えば年功序列で目上の方に敬意を払いますよね。」


「目上の方に対する言葉遣いや飲食のマナーとか気を付けるポイントですね。」


「ソルラルでもセベと呼ばれる新年の挨拶があり、年配の方や目上の方へ順番に


 お辞儀とお祈りやお祝いの言葉トッタムを交わす様ですよ。挨拶が終わると、


 お年玉のセベットンをもらえる様です。」


「お年玉があるのは日本と同じですね。」


「お正月遊びも凧揚げのヨンナルリギやコマ回しのペンイチギ 、木製の棒ユッを


 4本投げるすごろくの様なユンノリ、小銭を紙で巻いて作った羽根チェギを蹴り


 続けるけまりの様なチェギチャギ、シーソーの様なノルティギがある様です。」


「日本と似た様な遊びがあって面白いですね。


 ところで、韓国はお正月に日本の様なおせち料理を食べるんですかね?」


「おせち料理は無いと思いますが、トックッやシッケ、茹でたお肉のピョンユッ、


 木の実を使った甘いおこわのヤッシッを食べる様です。」


「ヤッシッは艶のある飴色で美味しそうですね。」




飯田がソルラルに食べる料理をスマホで検索する。




「あった。


 その他にお肉やお魚、韓国南瓜、シイタケのジョンでチョニュオ、緑豆を使った


 ジョンでピンデットッ、大根や白菜のナバッキムチを食べる様です。」


「写真のピンデットッには緑や赤のピーマンみたいな具が載っていてチーズの無い


 ミニピザに見えますね。」




キムパッやおでん、トックッなどの韓国料理やソルラルとテボルムなどの行事には、


日本と似た様な文化がある事を本出は飯田と会話する中で知った。


両国の料理や文化を学び、違いを知る事は面白く相互理解に繋がると思う。


本出は日本と韓国の食事や行事に関する違いについて雑誌の記事にする事を考える。




EP.1 END

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「サムゲッドターン~辛い料理苦手な僕がミーハー部長の指示で韓国料理記事を書く。」 アキブリー @AKIVERY

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