3人目
大人って大変ですよね。
毎日仕事に追われて、自由時間も満足につくれなくて、人間関係に悩まされて。こんな大変だとは思いませんでした。
子どもの頃は、自分で好きなだけお金を使えて、学校に行かなくてよくて、大嫌いな運動会も、晒し上げられる発表会も、クラスの独特な人間関係も無い大人が羨ましかったのに。みんなそうでしたよね?
でも実際はお金だって使う暇も無い。職場の人間関係を知ってみれば、同じ年齢の子どもが寄せ集められただけのクラスメイトとの確執なんて、どれほどくだらないものだったかって思いますよ。
私がそう思えるのは、ニュースになるような大きないじめに遭わなかったからなんでしょうか。だってその人達のほとんどは、もう既にこの世に居ませんものね。
こんな思いをするくらいなら、不謹慎ですけどいじめに遭って自殺に追いやられた方が幾らかマシだったんでしょうか。そんな訳ないって分かってますよ。分かってます、すみません。自ら命を絶つしかなかった時点で、私みたいな半端者よりもよっぽど辛くて勇敢ですよ。
だって私、犯罪者側ですし。
そうなんです、私って犯罪者なんですよ。人を殺しました。殺そうとした訳じゃないんです。でも確かに殺意はありました。
私はとあるオフィスの事務をしてまして。志望理由?ありませんよそんなの、大体皆、事務の仕事に就くって言うから、私もそれに倣っただけです。夢も何もありませんでしたから。いや、あるにはありました。アイドルになりたかったんですよ。まぁそれはどうでもいいんです。
元々要領の悪い方の人間だったんです。私。
だから仕事覚えられなくて、メモを取って見返しても理解できなかったんですよ。そんなだから、最初は優しかった先輩達もどんどん冷たくなっていって、最終的に孤立しました。
初めは陰口くらいだったんですよ。でも皆限界だったんですかね。何かある度に怒鳴られるようになりました。私はひたすら頭を下げて謝るしか出来ませんでした。だって言い訳の余地なく私の所為ですから。
その内、私、寝れなくなって。眠る度に先輩達の怒鳴り声で目を覚ますんです。だから寝れなくて。でも仕事には行かなきゃ駄目じゃないですか。だから毎日出勤だけはちゃんとしていました。仕事は全然出来ないですけど。
心身共に限界だったんでしょうね。何でそんな事したか覚えてないんです。無意識に屋上に立ってたんですよ。
どれくらいそうしていたんでしょうか。気付いたら先輩の一人が後ろに立っていました。
サボってると思われたかもって焦りました。言い訳を考えてる間に、先に先輩が口を開きました。なんて言ったと思います?
『なんだ、死んでくれるかと思ったのに』って言ったんですよ。
もう、私、頭が真っ白になって。気付いたら下の方で凄い音がしていました。我に返って下を見たら先輩が地面に落ちてたんですよ。私が落としたんですよね。覚えてなくて。
それからどうしたかも覚えてません。不思議な事に、私は捕まりませんでした。誰も私を疑いませんでした。先輩は飛び降り自殺として処理されたみたいです。
自首なんてしませんよ。そんなのしたって何も変わらないじゃないですか。罪を償ってどうなるんです?罪悪感もないです。不思議ですね、ふふふ。
相変わらず私は今の職場で働いてます。周りの対応も相変わらずです。きっとまたいつか、私は屋上に行くんでしょうね。今度は誰に見付かるんでしょうか。それとも今度こそ、私が落ちる番なんでしょうかね。ふふふ。
死に終われる 星 巡 @kuru_mmi
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