マジカルハロウィン

音心みら🎄

マジカルハロウィン

 僕は不思議な人。

 僕も、僕の友達も、みんな僕が考えている事がわからない。


「ねぇ瓜果うりかちゃん!もう他のお友達はお菓子もらいに行ってるよ!私達も行こうよ!」

「分かった行く行く」


 今日は十月三十一日。ハロウィン。

 時間は午後六時。たそがれる空の下、場所は公民館。

 僕の町では毎年、仮装をして地域の家を廻ると、お菓子がもらえる。

 もちろん、すべての家が受け付けているわけではない。

 ほとんどは、私達と同じ小学校の人のお母さんお父さんの家。

 受け付けている家は張り紙が出ていたり、玄関前に装飾がしてある。

 小学生にしては現実的で可愛げが無い?まぁ、よく言われる。

 稀有でちょっと浮かれた存在くらいが一番心地いい。

 まぁ、そのせいで学校ではぼっちなんだけども。


「まずは瓜果ちゃんの家から行っても良い?」

「え、僕の家?別にいいけど・・・・・・」

「やったー!ありがとう!じゃあ、その次は私の家ね!一番近いし!」


 この子はるなちゃん。クラスで一番可愛くて人気者。もちろん男女から。

 明るい性格で話しかけやすいし、文武両道。まさにPerfect Humanというやつだ。

 なんで僕なんかと遊んでくれているのか、何度訊いても「なんとなく!」の一点張り。

 月ちゃんも僕と同じ不思議な人なのだろうか。


 今日はふたりともディスカウントストアで買った道具で仮装をしている。

 月ちゃんはエナン帽を被った魔女のような格好。

 僕は赤ずきんちゃんの仮装。

 お母さんと月には可愛いと言われたが、本当なんだろうか。


「ほらほら!見えてきたよ!瓜果ちゃんのお家!」

「ほんとだ。さっき見たばっかりのお家。」

「もぉ〜、もっと喜びなよ〜?感動のっ!我が家とのっ!再会っ!」


 ガチャリ。


「って瓜果ちゃんってば、ピンポン押さないと!」

「いやここ僕ん家だし。」

「あっ、そっかっ!」


 月はテヘペロっと可愛く舌を出す。

 こういうあざといところも、人気になれる秘訣なのだろう。

 僕には到底真似はできなさそうだ。


「お母さ〜ん、来て〜」


 僕が家の中で待機しているお母さんを呼ぶ。

 するとお母さんはすぐに出てきた。

「よく来てくれたねぇ〜。今日はどうしたのかな〜?」


 分かりきったような演技でお母さんは言った。

 お決まりのセリフを待っているようだ。

 僕は月と目を合わせる。


「「せーのっ、トリック・オア・トリート!」」

「は〜い、よくできました〜!はい、これお菓子!」

「わ〜い!ありがとうございます、瓜果のお母さん!」


 月は はしゃぎきっている。


「こちらこそ、いつも瓜果と遊んでくれてありがとうね〜」

「いえいえ!瓜果ちゃんといるといつも楽しいので!」


 楽しい・・・・・・。

 月は今、僕と居ると楽しいと言った。


「まぁ!しっかりとしてるわね〜!うちの子にも見習ってほしいわぁ。」


「えへへ」と照れている月を見ながら僕は思う。

 なんでこんなにも純粋な笑顔で、素直な笑顔で僕と居てくれるのか。

 とても不思議だ。

 僕達はお母さんに手を振りながら、オレンジが少なくなって、夜が更けてきた空の下を歩く。

 時々地域のおじちゃんたちが見張りで立っているのを見かける。

 犯罪防止策はばっちりのようだ。


「あ!あそこの家、門のところにジャックオーランタンが置いてある!行こ!」

「次は月ちゃんの家なんじゃ・・・・・・。」

「いいのいいの!近くから行った方が沢山お菓子集まるでしょ!」


 こういう自由奔放なところも月ちゃんの良いところな気がする。


 ♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰⋱


 僕の家の次は月ちゃんの家に行こうって言ったのに、意外と受け付けている家が多くて、月の家は最後になってしまった。


「「トリック・オア・トリート!」」

「よくできました〜!はいっどうぞ!」


 月のお母さんは、今日一番沢山お菓子をくれた。

 僕がお礼を言うと、月のお母さんはニッコリして僕に言う。


「本当にいつも月と遊んでくれてありがとうね〜。月ったら、学校から帰ってきたら一番に瓜果ちゃんが瓜果ちゃんがって私に縋ってくるんだから〜。」

「そうなんですか?」

「そうよ〜。瓜果ちゃんと遊んだ事を話している月の顔が一番楽しそうだもの。」


 月ちゃん、僕と遊んだ思い出を楽しそうに話してくれてるんだ。

 なんだか嬉しい。


 外を出歩いても良い時間はもうすぐ終わり。

 これから一旦公民館に戻ってから解散になる。


「今日はありがとうねっ、瓜果ちゃん!」

「こちらこそありがとう。楽しかったよ。」

「そうだね〜!また来年も一緒に行こうね!」

「・・・・・・・・・・・・」


 どうして月ちゃんはこんなにも僕を肯定してくれるのだろう。


「どうしたの、瓜果ちゃん?急に黙っちゃって。」

「いや、来年もって事は、来年も一緒に居てくれるって事?」

「そうだけど・・・・・・。え、いやだ?」


 月ちゃん本人は、僕と居ることに一切の抵抗が無いらしい。

 なんでなんだろう。直接訊いてみても答えてくれないし・・・・・・。

 ―――――良いこと思いついた。


「なんでクラスで孤立しているおませ陰キャぼっちブスアホクソやr・・・・・・」

「ストップストップ!どうしたの急に自分を卑下しまくっちゃってさぁ」

「だから、なんで僕なんかと一緒に居てくれるわけ?『なんとなく』以外で。どうぞ」


 月ちゃんは、なんの抵抗もなく僕の方を向いて言い放った。


「いつも言ってるじゃん!瓜果ちゃん、優しいし可愛いじゃん!」


 その言葉は、僕の胸に強く響いた。

 自分のネガティブな思考で、自己評価は最悪。

 それなのに、いつも僕の事を自然と肯定してくれる月ちゃん。


「何より、一緒に遊んでると楽しいんだもん!」


 なんでだろう。なんだか涙が・・・・・・。


「え、ちょっと瓜果ちゃん!?どうしたの!?私、何かした!?」

「いや、何でもない。ちょっと嬉しかっただけ」


 僕は涙を拭って月に言った。


「僕、学校だとぼっちだからさ。こうやって、友達って思える存在に肯定してもらえると嬉しくて・・・・・・。」

「な〜んだそんな事か。大丈夫!いつだって私は瓜果ちゃんの傍からいなくならないから!あと、そんなにネガティブにならなくても良いんだよ?瓜果ちゃん、可愛いんだから!」


「え、あ、ありがとう?」


 月ちゃんはフフっと笑って、僕と手を繋いでくれる。


 少しずつ夜が更けている。

 空に浮かぶつきはほぼ新月で、明るさはない。

 でもここに居るるなちゃんは、僕の心を照らしてくれる、魔法のような明るい光だった。

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