第6話 地獄Ⅱ ソラン編

ソランは天の名前である。天のように高みにあってほしいという親の願いであった。その親に恥じぬようソランはいつも天を目指し、高みにしか興味がなかった。

ソランは多くの敵を屠った。生きるために、あるいは名誉のためにあるいは・・

その時、その時にソランは理由を見出しては、際限なく敵を屠り続けた。

ソランの腹心が奇妙な貧相な者を連れてきた。

なんだ。この貧民は?それがソランの感想だった。

骨と皮ばかりの黒いロープを被った老人。醜い。ソランは今すぐにでも斬り捨てたい思いに駆られた。しかし、なぜか気になるのもあった故思いとどまった。

キイキイとかすれ声なのに、地を這うような響きもあって不気味だった。

「わたしは魔術師です。お願いです。わたしを雇ってください。」

「なに!魔術師とな。もうそれは数十年前に滅んだのではないか?」

「いいえ。ほんの僅か生き残りはいます。ソラン様の大敵はアルノー大国 ライ皇帝であられると聞きました。お願いいたします。貴方様に一生仕えますのでわたしにも報復をさせてください。」

「アルノー・・その国にそなたの敵がいるのか。」

「はい・・わたしの同胞を告発して狩り殺戮しくした裏切り者たちがその国に仕えています。わたしはその者達を探しています。」

「そなたのことは未だ半信半疑だがよかろう。その身を一生尽くせ。」

アルノーはああ有り難き幸せと感謝の言葉を述べて頭を垂れたが、その顔は醜悪なあまりにも醜悪な憎悪の表情だった。


アルノーは力を持った魔術師だったが、少数派の一族だった。

嫉妬や恐怖、嫌悪 負の面を持つ醜い貴族や民の暗い感情によって、彼らは奸計にはまり、虐殺された。

なまじ異能の力を持つ者は尊敬と嫉妬、理不尽な侮蔑の対象にもなりやすい。


アルノーの一族はそれを夢にも思わないおめでたい一族だったのだろうか?

もっと早くそれを防衛する術を持てばよかったのに・・。

ソランは疑問に思って首を傾げた。

答えは呆気なくアルノー本人から聞いた。

「なかったんですよ。わたしたち。一族はもっとこの世界の自然と濃厚な絆をもって、森羅万象の力を行使できる代わり、人間のもつ負の面に気づかなかった。

いいえ。わかっていてもそれがわたし達を滅ぼすなど真には気づかなかった。

醜い人間の手にかかるよりは彼らはより深みの自然、混沌へと還っていきました。

もう人としては戻らないでしょう。それは人としての死を意味する。」


「わたしは人間との混血です。だからこそ余計裏切り者が許せないんです。人間の血がわたしを復讐へと駆り立てる。」

「珍しい。そなたの血がざわめいているのだな。よかろう。そなたの復讐思うがままにせよ。」


それからアルノーは数少ない生き残りを集めてソラン様に忠誠を立て、アルノー大国へ牙を剥いた。

アルノー大国は、軍事防衛も強大で隙が無い。才能あふれる戦略家や軍事に長けている怪物たちは数多といる。

アルノー、ソラン率いる軍はまだまだ劣勢状態にある。

また何かが欠けている。あと少し必要な存在がいる。この苦境を覆すためにはな・・ソランは世の流れを読む嗅覚に長けていた。

天よ・・もしこのソランを更なる高みへと上らさせたいのなら、その存在を出会わせたまえ。

ソランは深く祈った。名も知らぬなにか。自分以上の何かに祈った。

女はみんな地獄。男もまた地獄なのだ。


ソランは高みへの執着、アルノーは裏切り者への報復 ある者は金銭への執着、ある者は名誉への執着、ある者は色欲への執着、様々な欲と執着に憑かれた悪鬼亡者ともが共に修羅のように戦っていた。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冥府の花 栗菓子 @maron3213a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画