第5話 地獄Ⅰ ユリカ編

 チュイーンとかすかに鋭い刃が回っている音が聞こえてユリカはぞっとした。

向こうには、鉄の貴婦人や、梨の花など拷問道具がいっぱい保管されている部屋だ。

そこには、ギロチンを真似た電動首切り機械もある。

天才が過去の作品を見て、更に改良したものは多くある。余計な真似をしおって。

思わずその天才がそこにいたら怒りで怒鳴っているところだが、あいにく夭折しているので怒鳴ることもできない。チイと舌打ちして、嫌な部屋を乱暴に開けたら、案の定、爛々と目を光らせながら手足首が黒い皮によって固定化されて横たわっている犯罪者、死刑者と思われる囚人をよだれがでそうな歓喜の顔で首が切断されるのを眺めている狂人がいた。

ユリカはそこまで観察して、思わず息を呑んだ。

狂人のスボンが大きく膨らんでいた。こいつ。人殺しで興奮して勃起しているんだ。

そこまで異常になれるとは・・ユリカは男性の何かに恐れそうになった。

拷問人は得てして精神に異常をきたすのが多い。戦時中に、兵士は獣となって女たちを犯し殺したという。この拷問人もその精神状態になっているのではないか。

ユリカはもうまとめて頭を切り開いて、その異常性を調べたい欲に駆られた。

ここは貴族の廃墟当然だった城跡をユリカ達の主人が買い取って新たに住めるようにした屋敷だ。

恐らくユリカの主人は貴族だろう。

数十年前、貴族同士、内戦が起きて数年は領土や畑は焦土と化したらしい。

貴族の中には、勝つためなら何を犠牲にしても厭わぬという苛烈な理解できぬ狂人が

邪悪な行為を行って、ほとんどの民や貴族さえも巻き込んで全滅寸前になったようだ。

ユリカにとっては余りにも愚かすぎると眉をよせたが、当時はそれが正しい選択だったのかもしれない。とも思っていた。

なにはともあれ、ユリカのような使用人は主人のためなら汚い仕事や、家の厭な面もみなければならない立場だった。

ユリカは既に刻印されている。

使用人といえとも家の極秘秘密を知る可能性が高い。そのため、特別に呪詛印と呼ばれる刻印をユリカは手の甲に刻まれている。

あまりの激痛に逃げだす女達もいたが、家の扉の前で彼女らは崩れ落ちた。

なにかの刃を受けたように首が切断されたのだ。

ユリカの目と鼻の先に何かが血しぶきとともに落ちた。

なんだろう。ユリカは目を下ろした。それを認識するとユリカは眩暈がした。

首だった。綺麗な断面図がみえた。白い脂肪と赤い筋肉 グロデスクな人形みたいな首・・。ユリカは嘔吐し、しばらくその悪夢に魘された。

しかしこの苛酷な家でユリカは何でも適応してしまった。

彼女らはユリカの友人であったこともユリカはしばし記憶を封印した。

逃亡しようとすると、頭に激痛が走る。これが隷従の刻印か・・ユリカは奇妙に納得した。なるほど、これなら秘密も暴かれないし、とるに足らない者も簡単に処分できる。上手いやり方だ。しかしそこには人としての心はないし、畜生にも悖る行為だろうと思った。

しかし、もはやユリカには弾劾する勇気も気力もなかった。

ユリカは拷問した後の清掃員に命じられた。

そこには、拷問された死刑囚の髪、服、靴や鞄など夥しいほど山積みになっていた。

そこには冤罪や無罪で殺された人も居るかもしれない。

ユリカは漠然と思ったが、唯自分の命を守るために不自然にあるいは自然に淡々と仕事を行った。

点々と散らばる血を消毒し綺麗にしても染みはあった。

しかしユリカはあえて意識を遮断した。ユリカはもはや奴隷なのだ。

もしかしたらみんな地獄ではないのかとも薄々感づいていたが、ユリカのようなちっぽけな女にはなす術もなかった。

仕事に逃避し、思考停止した結果ユリカはいつの間にか出世して管理職にまでなっていた。皮肉な運命にユリカは思わず口の端を歪めた。

これがあたしの運命か・・自殺した奴もいた。可哀相に。あいつは未来が分かっていたのかもしれない。あたしだってどんな恐ろしいことをしているのか不意に解ることがあるんだ。

ユリカはこの醜悪な拷問人を冷ややかに見据え、それは仕事なのかと静かにいった。

そうすると気まずそうに拷問人は俯いた。

これは仕事ではない。遊びだとユリカは悟った。

ユリカは憤怒し、仕事でないなら止めろと険しい顔でいった。

こんな醜悪な幼稚性にみちた同僚とともに仕事をしなければならない。ユリカは呻きそうになった。

ユリカはずっと刻印を刻まれてから地獄へいるようだった。





































































































































































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