なろう小説なんてクソくらえ

きらみあ

第1話

 おじいちゃん先生の繊細な声が響く四時間目。

 みなが黒板に集中して目を向けている中、俺の視線は宙を漂う。


 そして程無くして何となく見る黒板、そうか今日で一週間。

 コイツとの関係も一週間経ったのか……。


 コイツとの関係が日常化しているこの事態は悍ましいことだ。 

 確実に俺はおかしくなっている。


 コイツは何者でなぜ俺の前に現れたのか――。

 ぶっきらぼうなその顔を見ても分からない。


 それは空中を浮いていた。いや、泳いでいるのだろうか。ユニークな形状と、ゆったりとした泳ぎ。円盤のような独特のフィルムは……やはりマンボウだ。


 *


 いつからか俺の目の前には空を泳ぐマンボウが現れた。特に喋るわけでも、魔法の力を与えるわけでも無く――ただ空を漂っている。

 なぜ急に俺の日常に溶け込んで来たのか、当てがないのが一番怖い所だ。

田野たの~ご飯食いに行こうぜ~」

 そしてその姿は、俺以外誰にも見えていない。


 向かいで座る学食、俺はカレーを食べながらもそのことに頭を悩ませていた。そしてその疑問は、向かいの友達にまで投げかける。

「なぁ……マンボウの対処方法とか分かる?」

「マンボウかぁ……ストレスに弱いとか聞いたことあるけど……」

「へぇ~……窮屈な奴なんだな。広い海でストレスなんて感じるか?」

 匂う俺のセリフに向かいの友達は箸を突きつける。

「マンボウにまで文句言うなんてお前も対外だぞ? ……死ねよ」

「そんなに!?」

 激しめのボケとツッコミ、友達は含み笑いを浮かべる。これが俺の日常だ。

 何がどう間違っても、俺の周りをマンボウ泳ぐなんてあるはずない。

 改めて宙を漂うマンボウを眺めるが、やはり俺の前に現れる理由が分からない。

 幻覚? 薬も葉っぱも当てはないぞ……。やっぱ、なんで付いて来てんだろ……。



 放課後の昼とも夕方とも取れない時間。磯のような独特の匂いがする川を渡って駅に向かう。駅周辺の歓楽街に紛れる霞がたなびくような薄暗い裏路地を抜け、俺は壁に寄りかかる黒ずくめの男の前に立つ。

「ファンタジーは好きかい?」

 急に内容に入る男は世間話と洒落込む。

「物による。フィクションだろうと人生舐め腐った小説とかアニメは嫌いだ」

 俺は現実主義者であり冷めた人間だと思う。

「特に作者の妄想を押し付けられてる気がして気分が悪い」

 むしろ感受性のある人間として冷めた人間となってしまったのかもしれない。

「……小説なんてそういう物だろう」

「ならこの思いは生まれながらの純粋な嫌悪感故かな」

 突拍子の無い雑談が一段落付くと、男は俺の胸に何かを押し付ける。

 それは本がちょうどは入りそうな茶色の手提げ紙袋で――。

明王みょうおう高校、第二図書室に、これを」

「ちなみにこれは?」

「欲望の塊」

「……分かった」



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