赤羽根

菜月 夕

第1話

『赤羽根』

気が付いたらバスに乗ったいた。

 良く知っているはずの所へ向かう筈のバスは知っているような見覚えのない風景の山道を走っていく。

 間違ったバスに乗ってしまったのだろうか。私は降りようと身もだえするが、焦るほどに身体は動かない。

 そこでこれが明晰夢だと気が付いた。

 そうだ、この夢は前にも見たことが有る。それこそ何回も。

 気が付いて見ると忘れていたことさえ疑問に感じる。

 そう心の奥で思いながらバスに乗っている私は迷い道を進んでいる焦燥感に蝕まれていく。

 バスが止まる気配がして後ろの席から田舎のバスに相応しくない赤い振り袖姿の女の子がバスの降り口に向かって行き、階段を降りる寸前に私の方を振り返る。

 確かに私と目が合った。私も降りねば。その焦慮に襲われるが身体は動かない。

 少女は諦めたようにため息をついてバスを降りていく。

 せめて彼女の行方を見ようとバスの窓を見ると窓にトンボが留まっている。

 そのトンボに目をやったせいか、バスの停留所には彼女の姿は無かった。

 目を戻すとさっきまで普通のトンボだったはずのソレは羽の両端が赤い赤とんぼになっていて、バスの動き初めとともに飛び立って夕焼けの空に溶けるように消えていった。


 そこで目が覚めた。そうだあの女の子は死んだ同級生だ。

 若くして死んだあの子の事なんて忘れてしまっていた筈なのに、なぜ今頃。

 こんな歳になるまで生きながらえているが、私のお迎えも近いのかも知れない。

 あの飛んで行ったトンボは彼女の魂を得て赤くなり、夕焼けの彼方に運んでいったのだろう。

 庭に眼をやると赤トンボがちょっと首をかしげて私を誘っていた。

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赤羽根 菜月 夕 @kaicho_oba

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