第3話

「え、ここどこ?」


「それ私に聞かないで下さいよ…。私も今起きたんですから」


「あ、そっか。拉致られたんだっけ」


「なんでそんなに余裕なんですか…。大体、瀬尾先生が弱いからですよ。ワンパンでやられてて幻滅しましたよ」


「え、いや、拉致られる時めっちゃ藍原くん興奮してたじゃん」


「いや、大金手に入るかなって思っただけです。でもよく考えたら違いますよね…。もしかしたらただの誘拐事件かもですし」


「最近の若者は金、金ばっかりだねぇ。」


「金曜日に生まれたので」


「それ関係ある…?」


すると、急に外野から声がした。

「ちょっと、そこの人たち!周りも少しは見なさいよ!」


あたりを見回すと、周りには女性が数人いた。


今怒鳴ってきた女性は、ショートカットでキツそうな顔をしていた。真面目な雰囲気だが、一緒にいると面倒臭い気がする。


その5メートルほど先には、高いポニーテールの、いかにも体育会系なタイプの会社員と見られる女性がいた。スーツには「泉」と書かれた名札がかかっていて、会社にいる時に拉致られたと分かる。はつらつとしている感じで、先程の女性と比べればまだ話しやすそうである。


そして、そのまた数十メートル先の部屋のすみっこにたもう1人の女性かどうかもあやふやな多分女性の方は、黒いカーディガンを羽織って壁に向かってなにかブツブツと何かを呟いていた。…絶対関わっちゃいけない人だ。


でもどこか美人な雰囲気が隠しきれていないと言うか、目を惹く何かがある。


それを感じ取っていたのは、私だけでは無いようだった。

みんなして、彼女を見る。


すると、視線を感じたのか、女性が振り返った。



やはり美人であったというか、なんと言うか…。

整った顔のパーツ。

美しい唇。



ひと目見て分かった。



沢城花奈月9のひとだ。



「え、あ、ゎ、ゎぁ、ぁぅっ。」

美しい唇が意味不明な言葉を発する。


私の隣には、首をかしげる藍原くんの姿があった。

「嘘、コミュ障…?」


「え、名前お聞きしてもいいですか?」

キツい人が咄嗟に聞く。確認のためだろう。


「え、さ、沢城…ですぅっ…。」


途端に、体育会系の人が黄色い悲鳴をあげる。

「えー?!嘘っ?!ファンです!え、あ、握手して下さい!さ、サイン…あ、すみません、ペン持ってる方います?!」


「え、ぇっ、うぅ?」

明らかに困惑しているが、顔は心なしか明るい。まるで、はじめてファンに会ったかのような対応である。


「落ち着いて!」

キツい人が叫んだ。


「うーわ、仕切りたがるタイプだ…。小学生かよ、引くぅ〜〜…」

藍原くんが引きまくる。


会場が謎の熱気のようなものを帯び、一種の興奮状態のようなものに瀕している。やばい、おじさん、ついてけないです。


すると、それこそ鶴の一声のようなタイミングで「ゲームマスター」の声がコンクリートの空間に響いた。


「やぁ、諸君。元気かね?」

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瀬川広晴とデスゲーム こより @hayase1234

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