【短編】燃え上がる恋心が冷める時
のんびりした緑
第1話
「好きです!付き合ってください!」
僕が好きになった相手は、同じ部活で学年が一つ上の先輩、
「えっと……時間をください」
この時なぜか、僕は振られたと察した。答えをこの場で返さなかった事で、そういう対象として見られてなかったと認識させられたのかもしれない。
後日、手紙が来た。内容は察し通りにお断りの内容だった。なんだったら、あの場で断ったら何するか分からなくて怖かったと書かれてた事に落胆した。
一目惚れとかじゃなく、交流を図って1年の歳月を掛けたにも関わらず、自分の事を見ていなかったのが分かった事が悲しかった。
でも、それなら意識させてみたいと意気込んだ。良い所を見せて、次こそ告白を成功させたいと思った。
そんなある日、ふと大山先輩は友達と会話している所を目撃して思わず隠れた。どんな会話してるんだろうか気になって。だが、聞かなければ良かったと思った。
いや、聞いてよかったのかもしれない。
「大山、アンタ好きな人いるの?」
「えー……、うん。いるよ。
「……え」
僕の嫌いな男の名前だ。はっきり言って嫌悪してる。容姿はちょっと丸っこく、普段の様子はイキった不良に見えるもの。
だが、だから嫌いと言ったのは見た目の判断じゃなく、関わった上で嫌いと判断した奴だ。男らしいと言えばらしいが優しさがあると思えない奴だ。
あんな奴の何が良いのか分からない。関われば碌な事が無い奴と判断出来る存在だと言うのに、大山先輩はそんな小林を好きになったそうだ。
僕は思わず呟いた。
「趣味悪」
あれだけ振り向かせようとした気持ちがいつの間にか消えた。恋心が行方不明になった。先輩の何が良いのか分からなくなった。
はて、僕は何の努力をしてたのだろうか。
「ここにいても仕方ないし教室にもーどろ」
そう独り言を呟いて自身の2年の教室に戻った。
「よう西野、調子どうだ?」
「何が?」
「つれねーなー。大山先輩だよ」
友達の浦田が僕にそうちょっかいをかけてきた。だが行動としては分からなくもない。何せ大山先輩と恋仲になれるように協力してくれた友達だからだ。
だが、もう協力を終わらせても良いな。ここまで付き合わせて悪いけども、望む結果にはならなかったよ。
「あー、もう冷めた。追いかける気にならない」
「……え、冗談……だよな?」
「僕が今まで冗談言ったことある?」
「ねえけど……何があった?」
「大山先輩の好きな人が趣味悪いと思ったら冷めた」
「相手誰だよ」
「小林」
あー……っと思わず浦田も納得した様子だった。そりゃそうだろうなと思う。関わった人は皆もれなく彼から逃げるから。碌な事にならないと感じて。
「協力してくれた浦田には悪いけど、今までありがとうな」
「お、おう・・・まあなんだ?次があるって」
浦田はそう言って下手くそな慰めを僕にした。別に傷ついてないっていうのに。
だが感謝はする。自分の時間を削ってまで協力してくれたから。
・・・浦田が無理やり僕を部活に強制加入させた負い目ってのもあるんだろうけど
大山先輩と僕の関係を知ってる人で、振られたのを知って部活で一緒になると気まずい空気が流れるのではと思う人もいたらしいが、表面上は特に変化を見せない仲の良い先輩後輩をしていた。もっとも僕は冷めきってて異性として好きは無関心に変わってるが。それはそれ、これはこれだ。
とあるお昼休み。浦田と一緒に弁当を食べてる途中、そういえばと語りだしてきた。
「西野、知ってるか?大山先輩、小林と付き合ったらしいぜ」
「へー」
「ホントに興味失せてるな・・・」
「どうでもいい」
あの熱情はどこいったんだと浦田はぼやいてるが、興味がない物はとことん興味がない。関わるだけ無駄だし、次の糧にする程度だろう。いつまでも引きずるわけにはいかないし。
と思ったらお客さんがきた。関わり合いたくのない、嫌いな小林だ。
「よう西野」
「なに?要なら後にして」
「今ここでできるからしてやるよ。お前の好きな大山、俺と付き合ったから」
「へー。お幸せに」
「・・・あ?もっとなんか反応しろよ」
「これ以上になんの反応が?」
「好きな奴を奪われた気持ちをだせって事だよ」
「負け惜しみが聞きたいのね、っわーくやしー」
棒読み過ぎるぞお前と浦田は小声で伝えてきてるが、僕としては大山先輩への思いはこんな状態なんだから仕方ない。
それはそれとして煽れる時に煽りたい。元から嫌いな奴を煽れるチャンスなんて早々ない。今ここで暴力を振るってきたら、負けるのは小林だし。
一方で僕の反応に対して小林はイライラした様子をしている。
何?まさか呆然と、狼狽するとでも思ったの?もし、今ここで知ったとしても同じ反応をするだけだ。趣味悪ってね。もっとも呟きはしないだろうけど。
それにしても、嫌われることを平気でするコイツが心底嫌いだ。そこだけは今も変わらずある。
恋仲になった二人が別れるまでそう遅くはなかった。だからなんだと思うが。
用があって3年の廊下を通ってる途中、大山先輩と友達が会話していた
「ねえ大山、今なら西野君と付き合えるんじゃない?好きな人いないんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「というか彼の何がダメなの?趣味やご飯の好みを合わせようとしてくれたじゃん」
「うーん・・・また向こうから告白したら、次は付き合うかな」
「前と変わってない仲の良さだし、いけるって!」
大山先輩の友達は無責任だなーって思う。鞍替え云々より、興味がない相手に好きになる事って早々にないと思うよ。
それはそうと大山先輩。冷静になってみると、意思が無い人のように思える。恋は盲目とはこの事か。
それからも僕と大山先輩は仲の良い先輩後輩をしていた。もっとも二人っきりを狙う事はしないし、ペアを組む時も他の人とも組むようになったが。
そして卒業式になるも、だからと言って何かをする訳でもなく、ただ部活の後輩として大山先輩の卒業を見送った。
その後、僕は部長になったり進学やらテストの点数やらで色々負われ、あっという間に月日が流れた。その間に大山先輩を思い出す事は一度も無かった。
そして2年後、僕の姉からある事を聞かれた。
「大山って知ってる?」
「えー・・・っと・・・あーなんか部活の先輩にいたなー」
「その人、子供産んだらしいよ」
「へー。幸せならそれでいいじゃない?」
先輩の幸せ報告だ、素直に祝おう
【短編】燃え上がる恋心が冷める時 のんびりした緑 @okirakuyomu
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