第40話 エピローグ
『二つの大都会に挟まれた桜間市の闇に迫る。警察の隠蔽?海外の犯罪組織関与か?』
『警察の秘密部隊?元警察OBが語る真実!』
早朝、電車に揺られながら中吊り広告に書かれた見出しが目についた。
……桜間市か物騒な話だ、ってここじゃねぇか!
危ない危ない、夜勤明けで眠すぎる脳みそがバグり散らかして今どこに居るのか忘れるところだった。
――ボクの名前は『
確か主犯の名前は……馬原。……嫌なことを思い出した。
その後、中学卒業まで引きこもったボクは母親の彼氏(ちゃんと紹介されてないのでよく分からない)に家を無理矢理追い出され、別れた父と暮らす歳の離れた、優秀な兄の紹介で今の勤務先である警備会社へと就職。寮付きのおかげで悠々自適な一人暮らしだ。
そして今もその警備会社で警備員として働いている。
面接の時、社長の言った『ずっと自宅警備員だったなら天職だな』という言葉は三年経った今でも覚えている。
「……あの時はちょっとムカついたけど実際、間違ってなかったな」
「んだアイツ?一人言かよ……」
「キッツ!」
「やめとけって、失礼だろ」
どこかの高校の野球部なのだろうか?ここ桜間市には就職後に来たので詳しくないので分からない。
向こうの席に座ってる坊主頭の学生たちがコチラをみて笑ってる。こんな時間の電車に乗ってるのなんてボクらくらいなんだし、優しくしてくれよ。
「……うわっなんかコッチみてんぜ?」
「キッツ……」
「お前らが聞こえる様に言うからだろ。失礼だしやめとけよ」
――電車が停まり、ボクと野球部?以外の……第三者が入ってきて――。
場の空気が変わる。
「あがっ?!」
吊り革の根本、金属の部分に頭をぶつけたらしい。相当な大男だ。
よく見ると制服を着ている。まさかこの大男も学生なのか?!
電車内は静寂に包まれる。さっきまで騒がしかった高校生たちは皆、無言で姿勢を正し、下を見ていた。
「なぁメガネくん、お前どこまで乗るんだ?」
大男は礼儀だとか遠慮だとかそんなもの聞いたこともないとでも言いそうな、不遜な態度でボクに話しかけてきた。
「つ、次の駅で……降りま……す」
恐らく、制服姿なので年下であろう、その大男の圧に完敗したボクは自然と敬語で返し……目線を逸らす。
「んだよ、じゃあダメか……」
大男のお眼鏡に叶わなかったらしくボクは安堵する。
「?!オメーらウチの高校の制服だな?!ちょうどいい!俺ァこれから寝るから駅着いたら起こ……ZZzz」
喋りながら寝た?!
そんなバカな?!普通あり得ない!
「ちょっ、ちょっと、大丈夫ですか?」
病気が怪我を疑ったボクは十人くらい座れる座席の半分以上を占拠して寝てる大男に焦って声をかける。
「……あの、やめた方がいいですよ!」
さっきボクを揶揄ってきた二人を止めようとしていた、真面目そうな高校生に止められる。
「……え、え?でも……ほら、病気とか、なんかほらこんな急に寝るなんて……怪我とか……かも」
「大丈夫だと思いますよ!その人、冗談抜きに本当にマジでガチでヤバいんで……関わらないほうがいいっスよ!……あとさっきはアイツらが失礼なこと言ってスンませんした!」
真正面から謝られて頭が真っ白になる。
「あ、と……う、うん、あはい」
明らかな年下の高校生に緊張し、しどろもどろになってしまった……。恥ずかしい。同級生はもう大学生になるというのに、ボクは……高校生相手に緊張しちゃうなんて……。
借りてる寮のある駅に着き、電車を降りると同時に頭を抱える。っ!いつもこうだ!
あとになって後悔する。
恥ずかしい……消えてしまいたい。
いっそのこと異世界にでも!!
……なんて考えても何も起きるはずもなく。
ただ早朝の街を歩き、寮へ向かう。
春になり、日の出が早くなったとはいえ午前五時に出歩いてる人は全くいない……。
酔い潰れたサラリーマンや水商売っぽい人を片手で数えるくらい見かけただけだ。……でもこの時間に歩くのは嫌いじゃない。というか人が多いのは苦手だ。
静かで、ゆっくりと太陽が昇り、だんだん明るくなる……毎日のように見る景色。
……だから
彼らと言ったが先に見かけたのは中学生くらいの女の子だった。腕に巻いた包帯とイヌ?か何かのお面。服装で女の子と断定したが、俗にいう厨二っぽいその格好にボクは胸が苦しくなった。
ものすごい速さで駆け抜けた厨二系少女の後をこれまたキツネ?の仮面をつけた大男(電車で見た大男よりは流石に少し小さいか?)が追走すしていく。
最初は女の子を追いかけてる変質者かと思ったが、二人とも似たような仮面をつけてるし、『ミナカミっ!お前マジで脚速すぎっ!意味わからん!』『先輩が遅いんですよ!!早くしないと逃げちゃいますよ!』なんて話してる声が聞こえたし、事件ではなさそうだ。
『マジで待てって!お前は一人で闘えねぇだろ!』
『ナメないでください!
『すまん!やめてくれ!頼むからソレを大声で言わないでくれ!恥ずかしいんだ』
『っ?!むぅー……、いいからさっさと追いますよ!』
厨二ごっこかな?
何か……一般人には《見えない敵》を追っかけてる設定とか?
「いいなぁ。……ボクもあんな《青春》したかったなぁ」
春雨が頬を伝った。
……泣いてなんかないやい。
あの背の高いヤンキーっぽい服装の仮面男はボクと違って順風満帆で何の苦労もなく、嫌なことがある度、暴力で解決したりしてきたのだろう。
電車の大男だってきっとそうだ。
ボクはそんな奴らを……たくさん見てきた。
……まぁ三人くらいだけど。
青春街道真っ盛りな二人組を見た後、少し寂しい気持ちになりながら歩いていると、
「サイっテー!!」
バチンッ!
と、大きな声と音がしてふりかえる。
水商売風の女性と顔だけ横を向いた若そうな男が少し離れたところで立っていた。
……今の音、女性がビンタでもしたのかな?
「浮気じゃん!」
「浮気なんてしてないよ!男、関太郎!浮気なんて女性を傷付けるような事しません!」
……痴話喧嘩か。
「えっ?!じゃあ本当に私の勘違い――」
「――全員本気なので浮気ではありません」
ボゴンッ!
今度はきちんと見れた。
初めて女の人がビンタ……いやグーパンチをしてるところを見てボクは新しい性癖に目覚めかける。
「何見てんだよ?!キモオタ!」
ボクに気づいた女性に怒鳴られる。
「あ、いやボクは、オタクじゃなくて……」
「ちょっと!……俺のことだけ見てよ?」
「関太郎……」
トゥンク!!じゃねぇーよ!
ビンタされてた若そうな男に助けてもらった。……と言うか変なイチャイチャのダシに使われた……。
すごく嫌な気持ちになったので足早に家路を急ぐことにする。
「朝から変な人ばっかだな……」
いつもはもう少し静かな時間帯なんだけど今日はやけに騒がしい。
そんなことを考えながら信号が変わるのを待っていると背後から声をかけられた。
『お兄さん!今から時間あります?』
朝の五時前に聞くセリフじゃない。
訝しみながら後ろを振り返るとそこには……。
「い、いや、ボクは急いでて……ってメイド?!!」
「違いますよー!アイドルです!今はまだ地下ですけど……」
地下……アイドル……?
言われてみればそんな感じだが、一瞬メイドさんかと思った。
そのあまりの異質さにボクはようやく念願叶って『異世界へ行けた』と思ったのに。
「今日このあとすぐ、ちょっと行ったところでライブがあるんですよ!良かったらきてください!」
そう言って手渡されたビラには《午後七時開演》と書かれていた。
そんなバカな……と思いつつも女性と会話できるチャンスを逃したくなくてボクは話しかける。
「も、もしかして……、午前と午後わからない人ですか?ふふっそんなわけ無い、そんなわけ無いか」
………………。
しまった!!すごく嫌な……嫌味な言い方をしてしまった。でもボクはすぐに気づけるんだ!気づかず嫌味を言ってるわけじゃないんだ!
ボクが自らの失言に気づき、顔面蒼白になってる間、目の前の地下アイドルがはポカンとした表情を浮かべていた。
「い、い、い、言い方……ごめんなさい」
「イイカタ?よくわかんないけど……あれ?今ってもしかして朝ですか?」
「……ちょっ!そんな、確かに最近陽が長いけど、けど、どんな間違え方、ふふっ、ふふっ、」
ボクは思わず笑ってしまう。
『お前、オモシレー女』このセリフを言うなら今しかない。
「オ、お、ぉ――」
「――あちゃー!もしかして半日、間違えちった?やっちゃったなー。……じゃあ逆にこれから帰ればたくさん寝れるのでは?!…………したらば、ゆいすんは帰って寝まーす!おやすみすん!!」
「モシ――って行っちゃった……」
『ゆいすん』か……。変わった名前。
名前までオモシレー女だな。
ボクは貰ったビラをギュッと握りしめて彼女の走って行った方をじっと見つめる。
『ライブ来てくれるよねぇー?!』
すごく遠くからゆいすんがコチラに向かって手を振っているのが見えて、ボクは生まれて初めて、何かに……いや、誰かに夢中になれるかもしれない。
そう思った。
『うおっ?!なんだあれ?メイド?!……いやっ《悪魔》か?!』
『え?何言ってるんですか先輩、あれは人間ですよ?あと多分アイドルです』
『あ?マジかよ?……なんでアイドルがこんな時間に走ってんだ?』
『さぁ?知らないですよ。仮に先輩の言う通りメイドだとしてもおかしいのですけど』
『お前、結構言うようになったよな』
『というかそんな事より私、疑問なんですけど』
『なんだよ、その言い方。けどけどウルセェな』
『
『………………』
『なんて呼べば良いですかね?』
『ねぇ、答えてくださいよ?天城くん』
『……………………はぁ』
――終わり。
助けられなかった少年と助けられなかった魔法少女の怪異譚 うめつきおちゃ @umetsuki_ocya
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