伝説のパーティー『六光旅団』

 「そうあれは……………………」



☆☆☆


「なぁ知ってるかー最近この近くにとんでもなく腕の良い鍛治職人が居るって。なんでもそいつの作る武器は駆け出しの冒険者でもCランクの魔物がスパッて切断出来るくらい強力で、そこらの魔獣が相手にならなくなるんだとよ」


「何言ってんだよw。武器一つでそんな強くなる訳無いだろ!Cランクって言ったらDランクの冒険者が十人がかりでやっと倒せるレベルだぞ?どっかの酔っぱらいが酒の場でついた嘘に決まってんだろ」


「まぁそうだよなーそんな武器があったら俺でも冒険者になって名声を上げることができるもんな。はぁぁぁぁ〜俺も冒険者になって綺麗な姉ちゃん達にちやほやされたかったな〜」


「はは。お前さんは俺達とこうやって仕事終わりにくだらねぇ話を語り合うのが似合ってるよ」


「何を〜言ったな〜わははははは〜」



 ここは強力な魔獣や魔人が蔓延はびこる混沌とした世界。人々は日々魔獣や魔人に怯えて過ごしていた。そんな中現れたのが産まれながらに強力なスキルや魔法を持った存在。彼らはその生まれ持ったスキルや魔法を使って魔獣や魔人に対抗し、人々は彼らを冒険者と呼んだ。


 時が経ち冒険者と言う存在が珍しくなくなった頃、冒険者によって存在を脅かされていた魔人の中に一人の災厄が誕生する。


 名を《ディオセルべルク・デストロイ・リリス》デストロイの名でその名が世界中に轟き人々は更なる恐怖に晒された。


 それを危惧した各国の王が国が誇る最高の冒険者を招集し、敵の名を『魔王』と呼ぶ事として冒険者同士協力して討伐する事となった。


 しかし、魔王の力は強大で各国の精鋭達でも太刀打ちする事が出来なかった。このままでは世界が魔王によって滅ぼされてしまう…。 


 こうして集められたのが後に『伝説の六英雄』と呼ばれる事になるパーティー。

 



パーティー名を。『六光ろっこう旅団』


魔導の魔道王朝アーケイン代表『ルシウス・アウレリウス』

 大地を穿ち海をも動かす、彼は世界の理そのものであり、使えない攻撃魔法は存在しない。人々は彼を大賢者と呼ぶ。


ドワーフのアイアンホールド帝国代表『デンデン・ヴァルカーン』

 彼の作る武器、防具には使い手の意志が宿ると言い、使い手の力を最大限発揮させる事が出来る。彼に作れない物は無い。人々は彼を神の義手と呼ぶ。


エルフのルナフェリアン森林国代表『––––––––––・–––––––––––』

 彼女は精霊の母、彼女が使う精霊法は魔法とは別の力で、魔法にも負けず劣らずの威力でその力を際限なく使う。人々は彼女を精霊王と呼ぶ


聖者のアルカディア聖王国代表『––––––––––・–––––––––––』

 彼女の祈りは神の慈悲であり、千切れた腕や足、病気や猛毒、人々を蝕む痛みから全てを解放する。人々は彼女を大聖女と呼ぶ。


獣人のビーストウルガント連邦国代表『––––––––––・–––––––––––』

 彼が通った道には嵐が起こる。誰も彼に追いつく事はできない。驚異的な身体能力と鋭敏な感覚を持つ神獣の末裔。人々は彼を荒野の守護者と呼ぶ。


人族のカナロス商国代表『––––––––––・–––––––––––』

 彼は未来、彼は希望、彼は勇気。誰も彼の道を遮る事は出来ない。彼が成す事は人々の願いなのだから。人々は彼を勇者と呼ぶ。


 

 以上の六名で構成された世界最強のパーティーである。



 彼らは各国の精鋭達が太刀打ち出来なかった魔王の幹部達を破竹の勢いで撃退していき。人々は彼らの活躍を聞き、六光旅団を最後の希望として魔王軍の恐怖の檻から解放されていた。


 

「聞いたかーまた六光旅団がまた魔王軍の幹部を倒したらしいぞー。あの方々のお陰で我らがこうやって日々を過ごせている事に感謝しなきゃなー」


「その話本当かー?俺はあのパーティーの大ファンなんだよ!!もっと詳しく聞かせてくれよ」


 彼らの噂は魔道、ドワーフ、エルフ、聖者、獣人、人族の全ての国に広まり。


「なぁ六光旅団の中だったら誰が一番だ?俺は勿論、勇者様!彼ほど勇ましく人類のために尽くしてくれるお方はいない。特に勇者様だけが扱えると言う聖剣エクスカリバーは魔人に対して無敵の性能をしていて、唯一魔王にダメージを与えられるそうだぞ」


「あんた何言ってるの!一番は精霊王様に決まってるわ!あの方はその特異な精霊の力に加えてあの美貌を兼ね備えている才色兼備なお方なのよ!私は断然あの方が一番だと思うわ」


「ふふ、お前達は分かってないな…。大聖女様こそ至高。あの方の祈りはまさに天女の愛撫。一度彼女の声を聞けば天に召されても良いと思える程だ。聖女様を一目拝もうと暴動が起こる程であるぞ。そう彼女が至高、もう一度言う彼女が至高だ!!!」


「お前らは揃いも揃ってアホか…。俺は一度だけ荒野の守護者様を見かけた事があるが、あの方と目が合っただけで鳥肌が立ち、その場から動けなくなってしまった。あの方は別格だ…」


 一度六光旅団の話を始めると、やれ誰が一番活躍している、やれ誰が一番強いかなど人々の注目の的になっていた。


 


 そんな人々の注目など全く気にも留めない六人組のパーティーが魔王領の荒野で言い争いをしていた。


「ねぇ聞いてちょうだい、デンデンたら私の大切にとっておいたデザート勝手に食べたのよ!本当に信じられない!ドワーフってみんなこうなのかしらこの野蛮人」


「ふん。たかがデザート如きでそんなに怒るんじゃねーよ。そんなんだから嫁の貰い手がいないんだよこの若作りエルフが!!」


ムキー! ワーキャーワーキャー。


「ほっほっほっ、あ奴ら今日も喧嘩しておるわい仲が良いの〜」


「あれの何処を見たら仲が良いって言えるんだルシウス。そろそろ止めに入らないと––––––––––が拗ねて今日一日中、口を聞かないとか言い出してしまうよ」


「ふふふ。エルフとドワーフ本気で戦ったらどうなるのか気になる。な〜に少しの怪我くらいなら私が治してあげるからこのまま続けさせよう!」


「––––––––––はいつも物騒なことばかり…。聖女なんだからもっと聖女らしくしてほしいものだね。そろそろ僕は彼らを止めに入るよ––––––––––も手伝ってくれないか?」


「––––––––––の言う事なら仕方ねぇ。我がチャチャっと止めてやる」


 勇者をリーダーとするこのパーティー。パーティー名を六光旅団。彼らは国の代表として集められた急拵えのパーティーであるが各々が強力な力を保持している人々の最後の希望である。彼らは共に旅をするに連れてデコボコではあるが、お互いを信頼していった。

 

 特にリーダーである勇者には英雄の加護が与えられ、魔王を倒せる唯一の存在として、パーティーのメンバーも彼を認めていた。


「それじゃそろそろ出発しようか。ここからは僕達でもいつ死んでもおかしくない領域だ身を引き締めていこう!ルシウス、デンデン、–––––––、––––––––、––––––––」


「『『『『おう』』』』」


 

 一度そこに足を踏み入れると一般人なら恐怖で足がすくんで動けなくなってしまう程瘴気が溢れているここは魔王軍の本拠地、魔王城のある《ディスピアンカオスバルザード》。この地は禍々しいオーラが漂い、木々は枯れ、水源は干からびている。


 瘴気が一番濃くなっているディスピアンカオスバルザードの中心に位置している魔王城、そこの最上階に世界の厄災である魔王が居るとされ、勇者達一行はそこへ向かっていた。



 道中数々の魔獣や魔族に阻まれるも、勇者達はそれらを物ともせず、難なく魔王城の最上階へ足を進めていった。


 「やっと着いたな…この先に居るのが魔王…。ここからでも凄まじいオーラが感じられる。皆準備はいいかい?」


「ふぉふぉふぉ。ここまで来るのに苦労したわい。やっとこの災厄の世界を終わらせる事が出来るのぉ」


「ルシウスってば気が早いわよ。魔王を倒してからそう言うセルフを言ってちょうだい!私の精霊ちゃん達もそう言ってるわ」


「皆の者、武器や装備はしっかり揃ってるだろうな?なんかあったら今すぐ俺に言ってくれよ!この俺がすぐに調節してやる」


「私も一つ言いたい事がある。傷を受けたらすぐに私の元に来てちょうだい!すぐに治してあげるから。その代わり私が攻撃されそうになったら全力で守ってね」


「へへ。魔王なんて俺の爪で息の根を止めてやるぜ!俺の速さには誰も敵わねぇよ」


「皆いつも通りで安心したよ!さぁこの世界を救いに行くよ!!!!」



 趣味の悪い大きな扉を開けると、奥には大きな角に蝙蝠のような羽を生やした女が足を交差して座っていた。


「よくぞここまで辿り着いたな!矮小な人間どもよ!妾はこの城の主人でありこの世界の災厄、魔王ディオセルべルク・デストロイ・リリスである。妾の力に怯え、絶望を感じながら惨めに死ぬが良い」


 勇者一向はこれまで作戦通り、勇者とデンデンを前衛、荒野の守護者が中衛としてサポートをし、ルシウスと精霊王が長距離から攻撃、負傷をしたら大聖女が回復をする。隙の無い戦術で魔王討伐に挑んだが、魔王の力は彼らが思っていたより強大で一気に戦線が崩壊してしまう。


「こんなものか?お主達は勇者パーティーなんじゃろ?これまで妾の配下を何人も倒してきたそうじゃが大したことないようじゃな〜。久しぶりに本気で楽しめると思ったんじゃがの〜期待外れじゃ」



「くうッ…。グホッ…これ程とはね。今までの敵とは強さが段違いだ。大丈夫かいルシウス早々に魔王の攻撃喰らってたみたいだけど」


「何言っとるんじゃ–––––––よ儂ならまだまだ戦えるわい。」


「ルシウス聞いてくれ…このままじゃジリ貧で全滅してしまう。僕が合図したら–––––––ってくれ」


「何!?ダメじゃそんな事誰も望んでいない…それになぜ儂なんじゃ…」


「ごめん…君にしか頼めそうにないんだ…。この数年間君達と冒険する事が出来て良かったよ!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ魔王ーーー」


「まっ待つのじゃレグルスーーーーー」


「なんじゃ勇者よ遂におかしくなりおったか?そんな捨て身の攻撃では妾を倒す事なんて出来ないぞ」


グサッッッッッッッッツ!!勇者の胴体に魔王の腕が貫通する。


「はははははははは自爆しおった!愚かな勇者よ主は仲間が必死になって守っていたその身を自ら捧げおったのか」


「ふっ。体に穴が空いたくらいでこの僕は死んだりしない!!来いエクスカリバーーーーーーーーーーー!!!!!!」


ズガッッッッッッッッッ!!勇者が聖剣で魔王の体を貫く。


「ぐっほっ。図ったな勇者よ…だが妾も主と同様このくらいの傷では死にはしない」


「ルシウス頼むッ!!今しかないんだ!!!!!!やってくれ」


「くそっ!!どうして儂がこんな貧乏くじを……。恨むぞ勇者よ」


 賢者は彼が持ちうる最大の魔法を最大の威力で解き放った。


「カオスインティグレーション!!!!!!!」


 一瞬の光の後大きな爆音が魔王城に響く。

 

 その魔法は魔王と勇者が互いに傷を与え合い離れられなくなっている所に勇者諸共攻撃が放たれた。


「妾に魔法など通用せんわ!どうやら死ぬのは主だけのようじゃな勇者よ」


「本当にそうかな?」


 勇者だけに扱える聖剣が刺さっている魔王の体は本来魔法を無効にする魔王の能力を打ち消していた。


 徐々に崩れていく魔王の体、同時に勇者の体も散っていく。


「おのれーおのれ勇者よ許さん!!この借りはいずれ!いずれ必ず……」


 魔王の体は塵となって消えていった。


「レグルス!レグルスやったぞ!倒したんじゃ!あの厄災を儂達の力で。お主のお陰じゃ!だからだから…待つのじゃ!今–––––––を起こして回復してもらうからのー」


「ル…ルシ…ルシウス。あ・り・が・と–––––––。。。。。」


「ダメじゃダメじゃレグルスーーーーーーーーーーーーーーーー」


 勇者レグルスの体が静かに散っていく。


 賢者ルシウスは魔王を討伐し静かになった最上階の部屋を見渡す。辺りは瓦礫が散乱していて他の仲間達は魔王の猛攻を食らっていたが、辛うじて息はある様であった。最後の力を振り絞り瓦礫の下敷きになっていた聖女を起こし、順番に皆を回復させていった。


「ルシウス魔王は…魔王はどこに行ったんだ?」


 回復が終わったばかりのデンデンがルシウスに問いただす。


「終わったんじゃ…。勇者と儂でなんとかあの厄災を滅ぼす事ができたわい…」


「それは本当か?」


「遂にやったのね!?やったわね二人共!!あんなに強いなんて反則よ!!私の精霊魔法が片手で弾かれるなんて」


「我も一矢報いろうと全力の一撃をぶつけたが、小指で止められてしまった…面目ない」


「さぁ最後はレグルスの回復かな?ルシウス、レグルスはどこに行ったの?」


「レグルスはもう……」


 ルシウスは起きた事をありのまま話していった。途中までは皆静かに聞いていたものの、誰かが泣き出したのをきっかけに大人たちが大きな声で泣き出した。勇者の存在はパーティーメンバーの彼らにとっても大黒柱であったのである。



 こうして世界の危機を救った彼ら六光旅団は、魔王を討ち取った伝説のパーティーとして世界中の人々に迎え入れられた。


 国の命により、彼らは魔王を討伐した事を各国に触れて回る事になり、六光旅団は解散せずしばらく各国を旅する事になる。



 都では日夜魔王討伐の宴が開かれ、毎日がお祭り騒ぎであった。凱旋パレードや感謝祭など様々な式典が彼らの為に開かれたが、メンバーの中にそれを喜ぶ者はいなかった。


 彼らの人気は止まる事を知らず、一部の民衆達は彼らを国の王とするべき、またはそれに近い存在にするべきだという意見を持つ者が現れ出す。


 魔王の脅威が無くなって以降それまで協力関係であった各国の仲は次第に悪化していき、中には戦争を始めようとする国まで現れた。これを止めようと立ち上がったのは互いに協力する事で力をより高める事ができると知っていた、六光旅団のメンバー達である。


 彼らは各国の団結を目指し、一つの大きな国を作ろうと民衆達に呼びかけ、民もその考えに賛同して付き従う者が多くいた。


 これを良しと思わなかった各国の王、または王族達によって彼らはそれぞれの国で在らぬ罪によって罪人の汚名を被らされる事となる。


 更に勇者を殺した者達として、人族の国、カナロス商国の近くにあるとされている無人の島に島流しの刑にする事を各国の王が同意し、彼ら六光旅団をこの世界から隔離された離島へと送る事が決定された。


 カナロス商国は何故?と思うかも知れないが各国の最高戦力である彼らを一度に罪人として島流しにする事は都合が良かった様だ。


 六光旅団の面々は理不尽な国の決定に抗おうとはしたが、勇者を殺してしまったのは確かに自分達の責任であると、その決定を受け入れる事にした。


 


 かくして彼らは無人島に流され、後に「始まりの五雄」と呼ばれる事になるのである。



☆☆☆


「ママー!地図のここにある僕が住んでる国から少し離れた場所にあるこの小さい土地はな〜に?」


「坊やここはね大昔に悪い事をした人がここに流されたと言われている離島『デッドアイランド』って呼ばれている場所よ。だから坊やもママの言う事聞かないと国の偉い人にここに送られちゃうかもしれないわよ〜」


「やだよ〜怖いよ〜。僕絶対いい子でいる!!」


「ふふ。でもねこの話には続きがあってね、本当はこの世界を救った英雄達が送られたって逸話もあるのよ」


☆☆☆


「まぁこれが俺達がこの島に来る事になった全てだな〜」


 デンデンさんはこの話をまるで昨日の事の様に楽しそうに、また悲しそうに語った。


「ふぉふぉふぉー。随分と懐かしい話を聞いたのー。まだ儂の腰痛がなかった頃じゃ。あの頃に戻りたいわい。」


「さっきの話によるとデンデンさんと爺ちゃんの他にあと三人この島には六光旅団のメンバーがこの島に居たんでしょ?その人達はどうなったの?」


「言っとらんかったかの?ケイトも会った事ある人じゃよ?皆この島に馴染んでしまっておるからの〜なかなか気づかないものじゃな〜」


「えー!?!?誰だろ?話にあったエルフとか獣人が居たらすぐに分かると思うんだけどなー。そんな人この島に居たっけ?」


「普段は人の姿で生活しておるから分からなくても無理はないのー。まぁその話はおいおいしてやるぞい」


「どうだ坊主、俺の話には満足したか?」


「はい!お爺ちゃんの過去の話とかデンデンさんの活躍を聞けて凄い楽しかったです。ありがとうございました」


「そうかそうか!なら良かったぜ。あんな真剣に聞いて貰えてアイツも少しは浮かばれるってもんだぜ」


「さぁ明日から俺が鉱石の掘り方とか色々教えてやるからよ!今日はぐっすり寝ろよな」


 僕の光火石採集の1日目はこうして爺ちゃん達の武勇伝によって締め括られた。










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離島転生 異世界で『離島ブーム』が起こって観光客が止まりません 稲葉 かいと @orz09yukatu

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