光火石 ④

 階段を下るとそこには…


 キラキラと輝く剣や槍、大抵の攻撃は弾き返してしまいそうな立派な盾、傷一つ付けられなさそうな防具。RPGゲームをプレイした事がある者なら誰もが憧れるであろう各種装備品がずらりと並んでいた。


「凄い!凄すぎます!! この剣とか盾とかもうなんて言うかなんて言ったら良いのか…」


「はっはっはっ。だろうだろう俺が作った武器は凄いだろ!!!」


「ほら坊主この剣持ってみるか?」


 デンデンさんは丁寧に並べられていた武器の一つを僕に持たせた。


 剣身は自分の顔が反射する程輝き、剣先は寒気がするほど鋭く、つかは精密な装飾が彫られていた。一瞬落としてしまいそうな程重く感じたが次の瞬間には驚くほど軽くなった。


「あれ? 軽くて凄い持ちやすい」


「それはな坊主。持ち手の一番持ちやすい重さに自動でなるように俺が作ってるからだぜ」


「そんな事ができるんですか? さすが爺ちゃんと同じ五雄です!!!」


「ふん。こんな物作ったって使う者がおらんかったら意味ないわい」


 爺ちゃんは僕がデンデンさんの作った剣に目を輝かせている事に嫉妬したようでデンデンさんに噛みつく。


「これだから魔法にしか興味ないジジイは何も分かってないな。飾ってあるだけでも芸術品の価値があるんだ!!」


「何が芸術品じゃ! 芸術のげの字も分かっておらんくせに!この武器制作にしか興味が無い脳筋野郎が」


「やんのかこらー」


「望むところじゃ!!」


 爺ちゃんとデンデンさんは取っ組み合いの喧嘩になり止めるのに苦労した。


「ははは。相変わらずじゃなデンデンよ」


「くくく。お前もなルシウス」


 二人は喧嘩をしたかと思えば急に二人で声を出して笑い合っていた。仲が良いのか悪いのか分からないが、爺ちゃんが誰かとこんなに親しそうに話しているのを初めて目にする。


 デンデンさんの作った武器に見惚れていて気づくのが遅れたが、デンデンさんの工房は上の生活スペースよりかなり広く造られていて、一体どうやったら一人でこんな空間を作り出す事ができるのだろうか…。エルダードワーフの技術力の凄さに驚愕した。


 剣や防具が陳列されている場所の更に奥に進むとそこには大きな釜に火が焚べられていて、中央には金床が置かれた、まさに思い描いていたドワーフの工房そのものがある。


 これだよこれまさにドワーフって言ったらこんな感じの場所で仕事をしてるイメージだよ。イメージ通りの場所に僕はとても歓喜した。


「坊主はあの爺さんとは違って随分興味があるみたいだな。坊主がいた世界でも俺みたいな物作りがいたのか?」


「そうですね…昔はそういう人も結構居たみたいですけど、僕が生きていた時代は武器とか防具が必要なかったですから…だから少し憧れがあるというか。それに物を作るのにも機械っていう物が自動で作ってくれたり、物作り自体が少なくなっていて…」


「そうなのか…。製作者の顔がわからないってのは何だか少し寂しいな…。自分の作った物が誰かの助けになったり役に立ってりした時にこの人に作ってもらって良かったっと思ってもらう事が物作りの喜びなんだけどな! まぁ今では俺もその喜びを随分と味わってないけどよ」


 デンデンさんはそう言って気さくに笑う。


 こんなに凄い技術を持っていて、武器や防具を持った事のない僕でも一目でわかるくらい性能の良い物を作る事が出来るデンデンさんがどうして罪人が送られるデッドアイランドに居るのか不思議でならない。


「その…デンデンさんはどうしてこの島に来たんですか?」


 僕はたまらずデンデンさんに聞いてしまった。


「その話をすると少し話が長くなるからな…。夕飯の席にでも話してやろう」


 デンデンさんの工房を一通り見て回った後、僕達はデンデンさんの居住スペースに戻り荷を下ろした。


「今日は随分と歩いたの〜ケイトよ。足腰にこたえるわい。予定外の外泊になってしまったがたまにはこうゆうのも悪くはないの〜」


「爺ちゃん浮遊魔法でほとんど地に足をつけてなかったじゃん!! まったく、あの時はびっくりして力が抜けちゃったよ」


「そうは言っても魔法だって使うと疲れるんじゃよ? 儂の場合三日三晩使い続けたらの話じゃがの〜。それより今晩はデンデンの隠し持ってる酒でいっぱいやるとするかの〜」


 『それってほとんど疲れてないって事じゃん』とツッコミたくなったが爺ちゃんは気分が良さそうにしているので止めた。それにしても爺ちゃんはともかくここまで来るのに相当歩いたり走ったりしたにも関わらず、そこまで疲労していない事に、前世の僕だったら立ち上がる事すら出来なくなっていたのなとこの若い体に驚いた。


 実際僕が何歳なのかは分かっていないが爺ちゃんと出会ったのが3歳から5歳くらいだとしてそこから10年が経っているので13歳から15歳だろう。一般的なその年齢の子供より明らかに体力があるのは僕が普段から走り回ったり、海で泳いだりしているからだろうか? それともこの世界のこの年齢の子供はこれが普通なのか周りに同い年の子がいないからわからない。


「友達か…」


 遊び相手は人ではなくリヴァイアサンくらいだしこの島には若者がいないよな…少しだけ寂しい気持ちになる。


 まぁいないもんは仕方ないし考えたって無駄か、僕は考えるのを止めた。


 しばらくぼーとしていたり物思いにふけって時間を潰し、夕飯の支度をする時間になった。


「ケイトやー悪いが今日も晩御飯を作ってはくれないかの? デンデンにお主の料理の腕を知ってもらいたくてのー。登山で疲れておるかもしれないが頼めるかの?」


「言うほど僕も疲れてないし作るのは全然いいんだけど、食材を持って来てないから作るって言っても…」


「忘れたのかケイトよ今日狩ったばかりの新鮮な肉があるじゃろ!! イノシシ料理であの堅物をうならせる一品を作るのじゃ!!!」


「そっかそういえばそうだったね。分かったよ! あの死ぬ程怖かったイノシシを使って僕がデンデンさんの仏頂面を崩してやるぞ!!!」


「その意気じゃその意気じゃ。あのイノシシの解体はデンデンに頼んでおるから好きな部位を好きなだけ使って良いからの。ちょうど解体をしているところじゃからあ奴の所に行くとよい」


「分かったよ! 爺ちゃんも楽しみにしててね!! それとマジックポーチに調味料とか色々入ってるから借りてくよー」


 調理場には入らない程の大きなイノシシだったのでデンデンさんはアジトのすぐそばでそれを解体していた。


「デンデンさんー解体の方は順調ですかー」


 デンデンさんより遥か大きなイノシシを彼はなんでも無いようにその身を剥ぎ取っていた。


「おう坊主か話はルシウスから聞いてるぞ」


 そう言って僕の方を振り向いたデンデンさんは殺人でもしたように身体中が血まみれだった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 最初に出会った時のデンデンさんの様に僕は驚き叫び声をあげた。僕のその叫び声は悲しいくらいにこのドーム状の空間に響き渡る。


「ははは。驚かせたみたいだなー。魔獣の解体は返り血が多くて大変だぜ」


「ごめんなさい急に叫んだりして。魔獣が解体されている所初めて見たもので…。なんというか…グロいですね…」


「そうだなー、初めて見るならそりゃ刺激的だよな…。苦手だったら離れた所に居ていいからな。俺がうまそうな部位を適当に見繕ってやる」


「そんなそんなデンデンだけにやらせる訳にはいきません!是非僕も手伝わせてください」


「そうかじゃあ坊主も一緒にやるか!」


 デンデンさんは全長五メートルはあるこの島イノシシの解体の仕方を丁寧に教えてくれた。血抜きと皮剥は終わっていたので僕は内臓の処理を行った。


 大岩のようなこのイノシシは内臓も有り得ない程大きく捌くのにとても苦労する。しかしデンデンさんから借りた解体包丁はそれは切れ味が良く、硬い骨の部分も簡単に切る事が出来た。


「坊主見てみろここが─────」


 デンデンさんはイノシシの各部位を一つ一つ解体しながら説明してくれた。それのおかげで使いたい部位を一通り揃える事が出来た。


「坊主後は俺に任せて夕飯の仕度をして来てくれ! ついでにあの爺さんにこっちに来て手伝うように伝えておいてくれ」


「わかりました。色々教えて下さりありがとうございました」


「おう。こっちも解体手伝ってくれてありがとな! 坊主の飯楽しみにしてるぞ」


 僕は解体して獲れた素材をマジックポーチに入れてアジトの中へ戻った。




「爺ちゃんーーーーーデンデンさんが解体手伝って欲しいって」


 爺ちゃんは暖炉の前で杖の調整をしていた。


「おーケイトや戻って来たのか……。いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 どこかでしたやり取りに、この祖父にこの孫ありと感じる。


「そうかそうか解体は上手くいった様じゃな。よーし儂も奴を手伝ってやるかのー

それと…ほいっ」

 

 爺ちゃんが魔法を唱えると僕に付いていた汚れがさっぱりなくなった。何度見ても魔法はつくづく便利である。


「ありがとう! それじゃ僕は夕飯の準備をしてくるね」


 僕は調理場へ向かった。


 僕は調理場に着くとすぐ、試しに島イノシシのロースの部分をシンプルに焼いて食べてみた。


 最初はイノシシ肉と想像すると臭みがあってとてもそのまま食べれる物ではないと思っていたがその認識は間違っていた。しっかりと解体した獲れたてのその肉は驚くほど臭みがなく、豚と牛の良い所を合わせた様な味だった。


 なんだこれ美味すぎる…。もはや調理せずにそのまま焼いて出した方が良いんじゃないかと思えるほどだ。


 しばらく考え込み。「決めた!!」



(さぁ毎度お馴染みケイトアウレリウスによるお料理番組の始まりでーす)


 脳内で前世の料理番組風に唱えた。



 本日の食材はこちらデットアイランド産の『島イノシシ』で〜す。


 なんとこのイノシシ全長が中型トラック程あり、その辺の人間なら一瞬で粉々になってしまう危険な魔獣なのですが…今日はこの凶悪な魔獣をふんだんに使った料理を作っていきたいと思いま〜す。


 使う食材はこちら!!


島イノシシのロース

島イノシシのハツ

島イノシシの腸

島イノシシのモモ

アイランキャベツ

ニンニク

小麦粉

香辛料

各種調味料


 となっておりま〜す。


一品目

 まずは鍋に油を肉が浸るくらい入れ、油から白い煙が出始めるくらいまで熱する。適度な大きさに切り分けたロースを小麦粉、卵、パン粉の順で付けたらそのまま鍋に投入する。狐色になるまで揚げたら、取り出し少し置く、鍋にロースをもう一度入れ数秒揚げたら完成だ。後は皿に出来上がったそれと千切りに切ったアイランキャベツ

を添えたら……

 

 島イノシシの『ロースとんかつ』の完成で〜す。


二品目

 島イノシシの心臓を一口サイズに切り分ける、フライパンに油を薄く引き、スライスされたニンニクを入れ香ばしい香りがするまで熱する。島イノシシのハツを投入しミディアムに焼いていく。塩を軽くふり、柑橘類を一切れ添えたら完成だ。


 島イノシシの『ハツのニンニク焼』の完成で〜す。


三品目

 島イノシシの腸を千切れないように丁寧に中を洗う、汚れが取れたら更にぬめりが取れるまで塩水に浸しておく。モモ肉に香辛料をたっぷり入れてミンチにする。ぬめりの取れた腸にミンチにしたモモを詰めていく。腸を十五センチ間隔で区切り糸で結んで行く。一時間乾燥させ、乾燥させたそれを八十度の湯で十五分程茹でる。最後にフライパンで焦げ目が付くくらいに焼いたら完成だ。


 島イノシシの『ソーセージ』の完成で〜す。



 調理を開始してから二時間以上掛かってしまった…。しかし我ながら自慢の一品達を作れた気がする。丁度爺ちゃん達も解体作業を終えた所の様だ。


 出来上がった料理達をテーブルに運んで二人が来るのを待つ。



 そして爺ちゃんが先にやって来た。

「ふ〜解体も一苦労じゃわい。慣れないことはするもんじゃないの〜。おーこれはこれはまた初めて見る物ばかりじゃ!! 待ちきれんの〜少しだけ…」


 パンッ!


「ダメだよ爺ちゃん!!! 食べるのはデンデンさんが来てからだよ!!!!」


「いてて、ケイトは厳しいの〜。少しくらい良いではないか」


「僕の居た世界では食事は皆が揃ってからってのが善とされていたんだ。だからもう少し我慢して!」


「そうかそうか。なら仕方ないの〜。悪かったわい」


 僕と爺ちゃんはデンデンさんが来るのを静かに待った。


「このテーブルに俺以外の誰かが居るって新鮮だな〜」


 デンデンさんが片付けを終えてのしのしとこちらに来た。


「おっおおおおおおおおおおおお!! これはなんて美味そうな料理なんだ! それに嗅いだ事ない匂い。食欲が唆られるぜー」


「デンデンさんのおかげで島イノシシの色んな部位を使った料理ができました! お口に合うと良いんですが…」


「デンデンよ早く座らんか! 儂はもう我慢の限界じゃよ」


「へへ、そうだな早速食うとするかー」


「はい! それではどうぞ食べてください」


 爺ちゃんとデンデンさんは恐る恐る作った料理達を口に運んで行き、しばらく無言になっていた。

 

 遂にデンデンさんが口を開いた。

「こ…これ…これはなんだーーーー! これが本当にあのイノシシなのか? 食べた事はあったがここまでではなかったぞ。それにこのカリッとした食感に香辛料のスパーシーな味が癖になる。なぁ坊主これはなんて料理だ?」


「これはですね『ソーセージ』と言って、島イノシシの腸に細かく刻んだモモ肉を詰めた焼いた料理です」


「ソーセージ…これはこれは」


 そう言ってデンデンさんはどこかに飛び出して行った。口に合わなかったのかな?不安に思ったのも束の間、デンデンさんは両手に大きな酒樽を担いで戻ってきた。


「坊主これは飛び上がるほど美味いぞ!! 酒に合うに違いねぇ!! 思わず飛び出しちまったぜ」


 デンデンさんはそう言うと、持ってきた酒をソーセージと一緒に豪快に飲み始めた。


「デンデンよずるいぞ儂にもその酒分けてくれ! それにこれもおすすめだぞ儂も今日初めて食べたんじゃが、フライという食べ物でこのサクサクの食感がたまらんぞ」


「仕方ねぇな特別だぞ」


 爺ちゃんはデンデンさんからお酒を分けてもらい、二人共夢中になって僕が作った料理を食している。


 二人の食べっぷりは作った甲斐があったと思わせるには充分であった。


「爺ちゃんこれはフライじゃなくて『とんかつ』…(ってイノシシだから)『いのかつ』って言うんだよ! 作り方は殆ど同じだけどね」


「ほぉフライではなくいのかつ…気に入ったぞ! 儂はこのいのかつを食べる為に生まれて来たんじゃー」


 気に入ってくれた様でなによりだ。僕も作った料理達をお腹が悲鳴を上げるまで食らった。苦労して作った島イノシシ料理は今まで食べた肉料理で一番美味しかった。


 僕達は色々な話を料理を食べながら楽しみ、話題は坑道で聞いたデンデンさんの過去の話になる。


「そう言えば坊主には俺がこの島に来る事になった話をしてやるって言ったなー。よし、少し長くなるがソーセージでも食いながら聞いてくれ」



 デンデンさんはそう言い語り出す。


 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る