光火石 ③
坑道の中は薄暗く、爺ちゃんが光の魔法で辺りを照らさないと前がよく見えない。
「確かこの辺りじゃの」
爺ちゃんはそう言って何もない壁に向かって杖をコンコンコンと叩き付けた。
しばらくすると何もなかった壁がゴゴゴと動き出し、新たな道が生まれた。新たに現れた道は坑道にも関わらず何故か明るく爺ちゃんは光の魔法を解除する。
「ここに来るのは何年振りかのー。あやつ相変わらずこんな所に篭りおって埃臭くてかなわんわい」
「ねぇ爺ちゃんここに入る前看板にドワーフって書いてあったけど。ここに住んでるのって…」
「ケイトよドワーフを知っておるのか? そうじゃ奴はこの世界唯一のエルダードワーフ。ドワーフは物作りしか頭になくての、珍しい鉱石が採れるここに住み着いとるんじゃよ」
「エルダードワーフって爺ちゃんの書斎にあった本に記されていた伝説の存在なんじゃないの? そんなすごい人がこんな所に住んでるなんて信じられないよ」
「あーそうじゃなー確かそんな感じで呼ばれておった事もある様な…。まぁ何はともあれ奴に聞いたら
そう言って僕たちは更に奥へ進んで行った。
カン カン カン カン カン カン
坑道を進んでいくと何かをリズム良く叩いてる音が聞こえてきた。その音は進むにつれて次第に大きくなっていく。音の正体がすぐそこまでの所で、明かりが一層強い場所があった。爺ちゃんはそこに向かって行き、僕もそこに着いて行く。
ガン ガン ガン ガン ガン ガン
背は僕より少し小さいだろうか?背の小ささに合わない太い腕をしたモジャモジャの物体がピッケルで硬い岩肌を力強く叩いていた。
「おーいデンデンー。儂じゃよルシウスじゃー。会うのは何年ぶりかのー」
爺ちゃんはそのモジャモジャに大きな声で話しかけた。
「おーいデンデンやー」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
その小さい体のどこからそんな大きい声が出るのかと思うくらい大きな声で驚いたドワーフはびっくりした拍子に持っていたピッケルを放り投げた。
「ルシウスではないか! 急に話しかけられて心臓が飛び出るかと思ったぞ!! お前なんでここに居るんだ? もしかしてアイツらの内の誰かが死んだか?」
アイツらって一体誰のことなんだろ…。
「違うわい違うわい今日はお主に頼みがあって来たんじゃよ。それとほれ見てみぃこれが我が愛しき可愛い可愛い孫じゃ!!」
そうして爺ちゃんは僕をドワーフの前に立たせて見せた。
「あの…僕はじい…ルシウスお爺ちゃんの孫の《ケイト・アウレリウス》です。よろしくお願いします…」
ドワーフは何も言わず僕の顔をじっと見つめる。
「ルシウスお前そもそも子供が居なかったじゃないかそれなのに孫ってどうゆう事なんだよ」
「まぁそれには深い事情があるんじゃよ」
そう言うと爺ちゃんとそのドワーフはそのまましばらく立ちながら話し込み。僕は一人で二人の会話を静かに聞いていた。
爺ちゃんは僕が転生者である事、異世界の記憶がある事などを細かく説明した。爺ちゃんには僕が転生者である事を本当に信用出来る人になら話して良いと言っていたので、このドワーフは相当爺ちゃんに信用されていると見える。
そうして二人の会話が終わるとそのドワーフが僕の方へ寄って来た。
「悪いな坊主急に話し込んで。事情はわかった。俺はこの世界唯一のエルダードワーフにして『五雄』の内の一人の《デンデン》だ。まぁゆっくりしていってくれ」
「あ…はい。よろしくお願いします」
爺ちゃんが今朝言っていた通り少し気難しい感じの人だな。爺ちゃんとは普通に話してるのに僕には少しよそよそしい感じだ。
「それでルシウス。お前が言っていた頼みってのは一体何だ? 前から言ってる通り俺は集落には住む気は無いからな」
「分かっておるよ。お主は人付き合いが苦手だからの〜。そのせいで何度儂が喧嘩の仲裁をしたか…。今日お主の元に訪れたのは光火石が採れる場所に案内して貰う為に来たんじゃよ」
「そりゃ悪かったなー。俺は鍛治仕事が出来てりゃ人付き合いなんて必要なんでね!それにしたって光火石か…」
「何じゃ?光火石がどうかしたのか?」
「それがよ…この坑道にあった色んな鉱物が採れるポイントの殆どを掘り尽くしてしまってな…。今、丁度新しい鉱脈を探している所なんだよ」
「何じゃそれなら昔のよしみでお主が今持っている光火石を何個か譲ってくれんかのー。勿論タダとは言わぬ」
「まぁ別に俺とお前の仲だしタダでやってもいいんだが…」
「何じゃお主さっきから歯切れが悪いぞ」
「な…ないんだよ…」
「ん?何じゃ?よく聞こえんもっと大きい声で言ってくれんかの」
「だから光火石がもう一つも残って無いんだよーよーよーよーよーよーよー」
デンデンさんの大きな声が坑道中に
「どうゆう事じゃデンデンよ!昔はここに腐るほど光火石があったではないか!!」
「ここに来るまでにに沢山あっただろ」
ようやくここでこんなにも坑道の奥深くにも関わらず、この坑道が何でこんなに明るいのかが判明した。どうやら光火石には光を蓄える性質だけではなく火を蓄える性質もあるらしく、一度だけだが火の魔法を込めると一年間は石が赤く光り続けるそうだ。ここまでの道のりが明るかったのは全部この性質のおかげであり、デンデンさんはここの坑道のほぼ全ての道に光火石を使い明かり代わりにしていたそうだ。
仮に爺ちゃんと同じくらい生きていたとそたら何千年と光火石を消費して来た事になり、そりゃあ光火石が採れる採掘ポイントもなくなってしまうなと納得する。
爺ちゃんはデンデンさんの説明を聞いて呆れていた。
「流石地上にいる時間よりも土の中にいる時間の方が長いだけあるわい!まさかここまで阿呆だとは思わんかったわい」
「し…仕方ないだろ!別にここの鉱山だって誰の物って決まってる訳じゃないし、光火石なんて誰も必要としてなかったんだからよ、まさかお前さんが欲しがるなんて思わなかったぞ」
「それはそうじゃが掘り尽くしてしまっては、あと少しでこの坑道は真っ暗闇に包まれて採掘どころか生活すらできなくなってしまうではないか」
「だから今急いで新たな鉱脈を探してんだろ!!」
デンデンさんは逆ギレをして短い足を地面に叩きつける。
「爺ちゃんあのさ…あの光ってるのが光火石なんでしょ?あれを使う事は出来ないの?」
「一度魔法が掛けられてしまったこの石は他の性質を蓄える事が出来ないんじゃよ。それに火の魔法を光火石に蓄積させると魔法の効果が切れたらただの石になってしまうんじゃ」
「そもそもお前達はどうして光火石を採りに来たんだ?」
「それはのぅーーー」
爺ちゃんはどうして光火石を必要としているか、何を作ろうとしているかを丁寧にデンデンさんに説明していった。デンデンさんは爺ちゃんの話がよっぽど面白かったのか食い入る様に聞き入っていた。まるで新しいおもちゃを欲しがる子供の様に見えて少し可愛く思えた。(見た目はめちゃめちゃおっさんだけど)爺ちゃんは『更に詳しい説明は儂の孫から』と言い僕に話を振ってきた。
僕より背の低い毛むくじゃらの男が僕に擦り寄ってきて両肩を掴み目をキラキラさせながら聞いてきた。
「なー坊主!!電池とはどうゆう仕組みだ?それに電気とは何だ?それにそれに坊主がいた世界にはそんな凄い物が沢山あったのか?」
「え…ちょ近い…」
「おっ。すまんすまんつい興奮してしまった。それで…」
デンデンさんは僕から少し離れ今度は生徒の様に僕の話を真剣に聞いていた。
「ーーーーーーーーーーという感じで電池があれば電気を簡単に使う事が出来て電気が使えたら人々の生活をより豊かにすることが可能なのです」
デンデンさんが凄い真剣に聞いている所為か、何とかスクールの講師みたいな話かたになってしまった。
「まぁそんな感じで儂達が光火石を求めている理由が分かったかの?それにもし電池を使って電球を作る事ができればここの坑道の明かりの件も解決する事ができるなんじゃないかの?」
「確かにそうだな…だがしかし…問題はこの鉱山に光火石がどれほど残っているかなんだが」
「デンデンよ、お主新たな鉱脈を探し始めてどのくらい何じゃ?」
「正確な日数はわからんが、大体半年くらいだな」
「半年か…」
半年間も探して出てこないとなると、この鉱山にはもう光火石がないのかもな…。ここに居る全員がそう思っただろう。
「どっちみち俺とお前達には光火石が必要って事だ!!焦らず今日は俺のアジトに来てゆっくりすると良い」
「そうじゃの儂達も特段急いでる訳ではないからの。今日はお主の所で世話になるかの〜。良いか?ケイトよ」
「僕は全然大丈夫だよ! 洞窟の中で過ごすのって何だかワクワクするし」
「坊主分かってるじゃないか! 今日は俺の暮らしているアジトに招待してやるぞ」
こうして僕たちはデンデンさんの暮らしているアジトへと向かった。
坑道を更に奥に進み、途中で下に続く階段のような所を降りると、その場所だけポッカリとドーム状に空いた空間に到着した。
ドームの中央には石で造られた四角い建物があり、大きさはコンビニエンスストアくらい。ドームの天井には光火石が散りばめられていて、鉱山の奥深くにも関わらず、星がある様に見えた。
「うわ〜凄い星みたいだ」
「へへ気に入ったか坊主! この天井は実際の星の位置を元に配置してあるから本物の星みたいだろ?」
デンデンんさんは自分が作った物を褒められ嬉しそうだった。
「坊主があれだったらよ…これまで俺が作った武器とか防具とか見てくか?」
「え!?いいんですか? 見たいです見たいです!!」
「よっしゃ着いて来い」
最初はよそよそしく気難しい人(ドワーフ)と感じたけど、自分の興味がある事となるとよく喋ってくれるな。まるでオタクみたいだ。悪い人ではないんだな。そう思うとデンデンさんが可愛く思えてくる。
デンデンさんは石造のアジトの中へ僕達を連れて行った。
「俺のアジト兼工房へようこそ」
中は至って普通の石作りの家って感じでテーブルとかキッチン、ソファーなどが置いてありここで生活している事が伺えた。しかし肝心の工房が見当たらない。
「デンデンさん。あの…工房はどこに?」
「ふふ 慌てるなって」
デンデンさんは地面にあった隠し階段の蓋を開けた。
「ここを降りたら俺の自慢の工房だ! さぁ行くぞ」
なんと男心をくすぐる仕組みなんだと感動した。爺ちゃんは知ってましとでも言いたげな表情をしていた。僕はそんな爺ちゃんを無視してデンデンさんの後を急いで追った。
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