第2話 蓮水家からの手紙
蓮水家とは、平安時代から続くとされる、退魔師の一族。
その昔、日ノ本には、物の怪の中でも厄介な強さを持つ鬼が蔓延っており、人間が喰われる事件が多発していた。
数多の退魔師たちが戦うも、邪気を吸うことで無限に蘇る鬼には、歯が立たなかった。
そんな中、唯一、完璧に鬼を退治できる異能を持ち、退魔師としてその名を轟かせたのが、蓮水家だ。
その力は今でも健在で、帝から『鬼斬り』と呼ばれる、華族同等の地位を与えられている、由緒正しき名家なのである。
そんな蓮水家の家紋が押された手紙が届き、なずなの家は、朝から大騒ぎだった。
開けるのが怖い。
なにか目を付けられるようなことを、してしまっただろうか。と、義母は良くない知らせと思い込み、怯えていた。
「……姉さん、開けてみてよ」
こんな時だけ「お願い」と、ひよりは上目遣いで頼ってくる。
確かに、ド田舎の平民の家に、蓮水家がなんの用かと気になる。なずなは、言われた通り手紙を受け取って、目を通してみたのだが。
「これって……」
さすがのなずなも、そこに書かれていた内容には、驚かされ目を丸くしてしまった。
「なに、なに? なんて書かれているの?」
「勿体付けないで、早く教えなさい!」
二人に催促され、なずなは手紙の内容を要約して伝えた。
「蓮水家の、次期ご当主であられる左京様という方が……麒麟様の愛し子と噂のひよりと、お会いしたいって。そして、本物の愛し子だったならば、花嫁に迎えたいそうよ」
しんっと、しばらく部屋を沈黙が支配した。
本来なら、あり得ないことだ。名家の跡取りの花嫁候補に、こんな片田舎の村娘が、選ばれるなんてことは……。
「ゃ……やったー!!」
興奮で身体を震わせながら、ひよりが両手を挙げて叫んだ。
「やった、やったわ! すごい玉の輿だわ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、大はしゃぎだ。
「こんなに素晴らしいことがあるかしら」
義母も、瞳を輝かせている。まさか自分の娘が、名家に嫁ぐことになるなんてと。
(大丈夫かしら。本当に、ひよりは麒麟様の愛し子なの?)
場を白けさせないために、声には出さなかったけれど、喜ぶには気が早いのではと、なずなだけは内心慎重に考えていた。
ひよりには、本当に不思議な力があるのかもしれない。けれど、麒麟の愛し子かどうかは分からない。
事の発端は、ただ、村人たちが愛し子に違いないと、言い出しただけに過ぎないのだ。
麒麟の愛し子だったなら、花嫁に迎えたい。そう手紙には書かれている。ならば、証明できるようななにかが必要なのでは、と思うのだが。
(でも、おめでたい話だし。今は難しいことなんて、考えなくてもいいかしら)
ひよりは、もう花嫁になる気満々のようだし、そこに水を差すのはかわいそうに思う。
「よかったわね、ひより」
なずなが、おめでとうと言い終わる前に、ひよりは、なずなから手紙をむしり取るようにして奪った。
結婚の話で間違いはないか、手紙の内容をじっくりと読み、噛み締めているようだ。
そうして、間違いないのだと納得すると。
「ごめんなさい、姉さん。あたしだけに、幸せが訪れたみたいで。僻まないでね。こういう運命だったのよ」
そう言って、鼻に掛けるように彼女は笑っていた。
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