LOSTーK.K.&C.C.の章

ギョほほほっゲボ

第1話プロローグ-silk cut& Nocturne in E-flat Major, op. 9, No. 2

夕焼けが空から流れて来るように、街を暖かいオレンジ色の塗装に変え始め、やがてケーブルカーのガラス窓に入り込んだ。その明るいベルの音とともに、夕焼けは遠くへと運ばれていった。そんな光の中から、一羽の白鳩がこっちに向かって、勢いよく飛んできた。

「バタン!」

「おっと」

急いで窓を開け、彼を入らせた。

この時、K.K.−クレルス・マイクコールは夕食の最中であった。

「(着信音)〜!」

「またLOST?はぁ、最近やけに多くない〜」とため息を吐きながら、クレルスは返信した。「2分後に到着」クレルスはギターバックを肩から下げて、ガスマスクをつけ始めた。只食いしてきたハトは翼を満足げにパタパタさせながら、ドアが閉まる音に乗って、窓の隙間から飛び出た。

「こちらスナイパー、予定地点に到着」 

「yoo~スナイパー、夕食済んだ?緊急のないドクって羨ましいな〜俺らはまだ残業があっ」

「フクロウ、集中」

「へいへい」

「一般人の撤退が終わって、今LOSTの『本体』を探してる所よ。今回の『Last Order』、中々手強いね。隠蔽型、あるいは、それと領域型との複合型のどちらかでしょう。」

「了解」

「手掛かりみっけ!窓から最上階に行ったぞ、グリップレディ、外壁に僅かだが高濃度のLOST粒子が残ってる、かなり素早い、それと足が4…いや6本もある。そりゃ速いか」

「今向かうわ、連絡ありがとう、フクロウさん。」

「見えた!でも一瞬で姿を消した、領域の形成が観測されていない、おそらく速度に長けた隠蔽型だろう」

「いけない、屋上から離れようとしてる!フクロウ、レディ、足止めを!」

「言うまでもないぜ!」「えぇ、分かったわ」

発症者が現れた瞬間を狙い、フクロウは矢の如く接近し、前に回って鋭い爪で彼を捕まえ、レディはその動きが止まった隙に彼女の糸で絡み、6本の足を互いに縛り付けたとほぼ同時に、高濃度のLOST粒子を纏った弾丸は発症者を貫き、その力場を打ち消した。

「はあ〜終わった終わった、でも残業が〜まだ残っとる…てか、やっぱ足まで元通りにならないか、これから大変かもな〜名前も分からない何某さん」

「それより、先に下に運んでくれ、『救急車』が来てる、明らかな外傷はないが、内出血か何らかがあったらまずい」

「はい〜さすがは謹慎なドク!」

とフクロウは昏睡している男を肩に乗せ、翼を羽ばたいて、ビルを飛び降りた。「救急員」たちは男を担架に移し、丁寧に拘束を施し、『病院』に着くまでは目覚めることのないように麻酔を打った。

「これ、見る度に嫌な思いになるな、まるでモンスターを扱ってるみてぇ。」

「そうね」

「例え、彼自身も被害者であっても、LOSTが発症すると……」

「本当、感情が激しいって発症するなんかマジ意味分かんねし、ただ誰かのために喜んでいただけでそうなるなんか…納得いかねぇって」

防護服を着た「救急員」たちは車に入り、ガスマスクと思わしき物をつけた二人に軽く会釈をして、ビルを去った。

「この件はわたくしが伝えておきましょう、彼の家族に。不憫だわ。父親になるであろう日に、こんなことが起こるなんて。」

「ありがとう、グリップレディ。」 

「悪いな…」

「いいえ、フクロウさんはきっと、明日の朝まで残業があるでしょうから。」

「それもそっか〜道は一歩一歩進んで、LOSTの解明も少しずつ」

「私はオフするよ、今日はお疲れ。」

と一言を残して、スナイパーa.k.aクレルスは狙撃ポイントのビルを離れた。

「わたくしたちもそろそろ引き上げるとしましょう。また今度ね、フクロウさん。」

「何か最近暗くないか?スナイパーのやつ、オペでも失っ、あぁ、お疲れさん、また今度!今週の土曜は空いてる?ゴッドフロワの向かいに新しいイタリアレストランが開いたけど、一緒に食べに行かない?」

「残念ね、土曜は予定があるの。また今度にしましょう。」

薄らとしたシフォンのような声を残して、グリップレディは街灯の陰に溶け込み、姿を消した。

「はぁ、俺も戻るとすっか、しっかしどうしたんだ。みんながみんな、最近忙しそうで…って俺もそうだな」

と、フクロウモチーフ・ガスマスクの防音性を信頼しているためか、ブツブツと話しながらフクロウは空へ飛び上がり、高層ビルの間を通り抜けて、近づく夜の暗がりに混ざり込んだ。


「ただいま」 

家に戻った時には、すでに月が顔を覗かせた。開けたままの窓を閉め、冷め切った夕食をとる気にはどうもなれず、クレルスはsilk cutのパックを取り出しながら、ギターバックを下ろし、ソファに立て掛けた。その左のレコードスタンドからお気に入りの一枚を選び、すぐ上のレコードプレイヤーにセットして、咥えているタバコに火をつけた。立ち昇る煙の中、ショパンの夜想曲が響いた。

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