満月の夜
満月の夜だった
廃墟に1人の男が座っていた
月明かりに照らされて黒髪が艶やかに輝いていた
肌は透き通るほどに白く、生気を感じさせないものだった
瞳は鮮やかな青色で、男の目の前にある古びたTVのみをうつしていた
「You win!」
唐突に声が響いた
男は格闘ゲームをしていた
勝ったというのにその表情には感情が少しも現れない
むしろ世界全てを諦観するような瞳をしていた
廃墟には未だゲームの音だけが響いている
「っ…」
かすかな息づかいがきこえた
男が振り向いた
目線の先には一人の女が眠っていた
女は男によく似た黒い髪をもっていた
赤子を宿しているのだろう
お腹はふっくらとしていた
女は奇妙な寝台に眠っていた
ベッドというには低く
敷布団というには高く
例えるならば相撲の土俵のような寝台だった
寝台の周りには口を裂かれた大型犬が女を取り囲むように並んでいた
男は寝台に座り女を見つめた
「やっと起きたと思ったのに」
女の頬に触れようとして寸前でその手を止めた
「君の顔を汚すわけにはいかないな」
男は寂しげに微笑み、再びTVの前に座った
史鬼ー『上』を制するモノー 紅櫻 @puchipumi
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