Scene 7
「ソウジー? 準備できてる?」
ぼんやりギターのボディを磨いているところに声を掛けられる。
今日は大学祭、軽音楽サークル合同ライブの日だ。そして、恋人となったミナトとの初めてのステージでもある。
だからと言って、今までと何か違いがあるワケじゃない。
俺とミナトが付き合い出だしたことは、まだサークル内の誰にも言っていないし。まぁミナトが言うには、急に距離が近くなったことで、女子たちには感づかれているみたいだけど。
「バッチリだよ」
「そろそろ出番だから、こっち来といてね」
ミナトに手招きされ、講堂ステージの裾に立つ。
ステージは、前のバンドが演奏を始めただしたところだ。
すでに暖まりきっている会場の熱がこちらにまで伝わってくる。
「アレ、本当にやるつもり?」
「もちろん! そのための新曲なんだから!」
音が入ってしまわないよう、小声で耳打ちし合う。
俺たち二人が演奏するのは全部で三曲。既存の二曲を演奏した後にМCがあり、最後に新曲を披露する予定だ。
そのМCで、ミナトは俺たちの交際宣言を行うのだそう。
正直に言わせてもらえば、勘弁してほしい。もしそれで会場が凍り付いてしまえば、たぶん、立ち直れなくなってしまう。
なにより、男子達からどんな目を向けられることか。想像するだけで怖くなる。
「緊張してる? 震えてるよ」
「いや、これは緊張とは違う……」
けれど、このことに関してミナトは頑なだった。何度無難なМCにしようと提案しても、決して首を縦に振ってはくれなかった。
曰く、「私たちの関係を、ほかの誰にも邪魔させないための衝撃を与える」ということらしい。
そうこうしているうちに、前のバンドが反対側の袖へ掃けていく。
「さぁ出番だよ。いこう、ソウジ!」
ニカッと笑うミナトの手が差し出される。俺は覚悟を決めてその手を取る。
割れるような歓声の中で浴びるステージのライトが、俺たち二人を祝福しているようだった。
二人の音色、二人だけの言葉 鷹九壱羽 @ichiha_takaku
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