Scene 6
一週間後、待ちに待ったミナトからの連絡が来た。もちろん、新曲の歌詞が完成したから見せたいとの呼び出しだ。
期待と緊張を胸に抱きながら、約束の時間の三十分前に部室へ行くと、ミナトもすでに来ていた。
お盆休みだということもあって、ほかには誰もいない。
「もう来てたんだ。早いね」
「うん。あんまり眠れなくって」
そう言って笑うミナトの顔には、心なしか緊張が見て取れる。
たぶん、俺も似たような顔をしていることだろう。
「さっそく、ギターお願いしてもいい?」
「オッケー、任せて」
快諾し、アンプとエフェクターをセッティングする。
普段よりもたっぷりと時間を掛けて、丁寧に音作りを済ませる。
軽く弾いて指を馴染ませる。顔を上げると、ミナトと目が合った。二っと白い歯を見せられて心臓がトクンと跳ねる。
俺も負けじと、口角を上げて笑顔を作ってみせた。
「いつでもいけるよ」
「ありがと。それじゃ、始めよっか!」
歌詞の書かれた紙を持ったミナトの合図で演奏を開始する。
この前の初披露の時とは、まるで違った。重力から解放されたように軽い俺の指は、思い通りに動かせる。
イントロが終わるところでミナトがスゥッと空気を吸う。
「――――!!」
ギターの音色に鈴のような歌声が重ねられる。漏れそうになった感嘆をグッと堪えた。
演奏に集中しているハズなのに、ミナトが歌う歌詞の一語一句が、鮮明に脳に書き起こされる。
これは、去年バントを組んだ頃のことを歌っているのかな。
初めての二人のライブの時、君はそんな風に思っていたんだ。
言葉の羅列に、勝手な想像を膨らませる。
やがて、曲が終わる。歪んだギターの余韻が部屋中に響いていた。
惜しかった。もっと弾いていたい、もっとミナトの歌を聞いていたい。それだけの感情に、俺の心は満たされていた。
「ソウジ」
名前を呼ばれてハッとする。
いつの間にか、目の前にミナトがいた。
「学園祭でソウジのバンドを見た時、とっても素敵な曲だなって思いました。友達からソウジが作った曲だと教えてもらって、練習している教室の外から、いっぱい聞きました」
手紙でも読んでいるかのような口調だ。でも、その瞳には、俺だけが映っている。
「少しでも近づきたいと、大学では、思い切って軽音楽サークルに入りました。そこで一緒にバンドを組んで、もっともっと惹かれていきました」
気がつけば、お互いの手が固く握られていた。
「さっきの詩に、私の気持ちの全部を込めました。ずっと……大好きです……!」
最後の最後で堪え切れずにグシャグシャになったミナトの顔が、ギターを挟んで、俺の胸に埋められる。
ミナトの体温をこんなに間近に感じるのなんて初めてで、それがとても心地よかった。
さらさらとした髪を撫でる。柑橘系の香りに全身が包まれる。
俺ももう、自分を抑えられなくなっていた。
「ミナトにそう言ってもらえて、嬉しい。だからもう一度言わせてほしい。俺も、ミナトが好きです」
俺たち二人は、顔を見合わせる。
ミナトがゆっくりと目を閉じた。
身体を少し屈める。そして、ミナトの唇に俺の唇を重ねた。
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