第16話 003

 地底湖を後にした僕達は、分岐点まで戻り別の道に進む。ユイと僕を先頭を歩き、アルトはその後ろで腹をさすりながら歩いた。何度か分かれ道を進み、梯子を下り、木の橋をわたる。休憩を挟み、また歩き出す。冒険者とも何度かすれ違った。

 

 僕たちはその冒険の目的地である絶壁に辿り着いていた。絶壁というのは言いえて妙だ。洞窟の道が急に途切れており、そこから先には床すらない虚空があるのだ。そして向こう側も暗くて確認できない。


「落ちたらもう上がって来れないと聞きましたよ」


 絶壁の淵に立つ僕に向けてユイが言った。僕は、ライト付きの石を虚空へ投げた・・・光は小さくなって行き見えなくなったがいくら待ても底とぶつかる音は無い。


「石が落ちる音がしないほど底が深いみたいですね。」

「おっリョウタが冒険者みたいだな」


 ふん。気分だけは冒険者のつもりだ。


「この先に碑石があったとしても一緒に崩れたのじゃもう探せないかもな?」

「ここ降りた人はいるのですか?」

「当然いたけどな、ほとんどのやつはロープが足りなくなって戻ってきたみたいだな。」

「ほとんど?」

「そりゃ危険なことすればなぁ?」


 ここでロープが切れて真っ逆さまとか恐ろしすぎる。ダンジョンじゃないと思っているアルトは落ちたら危険な危ない場所くらいにしか思っていないのかあまり近づいてこない。ユイも同じ感じだ。


「見事にこの先から何もない無いですね」

「そろそろ帰るか?危ないしな・・・落ちたらシャレにならないぞ」

「でもアルト?何かあるとしたらここだと思いませんか?」

「でもなー。」

「私は空を飛ぶ魔法がほしいのです。やる気がないなら帰っていただいてもよろしいですよ。リョウタもいますし、地図ならこちらにも。」


 ユイは自分の持っていた古びた地図を出して見せた。ユイは本当に空を飛べるスキルがあると思っているのかわからない、だがちょっとした調査くらいはしてもいいのじゃないかと思う。


「うーん。んじゃあ帰ろうかな?」

「え?アルトは帰るのですか?」

「あぁ。後はリョウタに任す。よく考えたらお前らも冒険者だよな。明日の昼間までには宿に戻ってこい。遅れたら死んだとみなして、次の町に行くからな。」

「そうですか!!お兄様、私が空を飛んでいても泣かないでくださいね。」

「あいよ。」


 アルトは俺の冒険はこんな所じゃできないと言いながら入口へと引き返していった。結構薄情な奴だと思ったが、よく考えたら自分の冒険のために妹を置き去りにするそういう奴だったのだ。


「薄情ですね。」

「お兄様は、学園の旅行などで来た事があるのかもしれませんね。そうでなかったらあそこまで否定的にはならないですから・・・。」


 そして2人になった僕達の絶壁攻略が開始された。といっても道具も何もないし知識もそんなにあるわけではない・・・。


「地図を見てもかなり奥の方ですし、他が行き止まりなのを考えたらこんな怪しい場所はほかにはない・・・と思います。」

「そうでしょう?でもどのようにすればいいのでしょうね?」


 まずは漫画や映画であるような透明な橋があるかもしれないので小石や砂を集めて散布してみた。だが1つ残らず落ちっていき消えた。次は「ひらけーごま、あぶらかたぶら」といろいろな呪文を唱えてみたが何も起きないし隣にいるユイの視線が痛いのでやめた。結局いろいろやってみたが何一つ正解はなかったようで。


「ダメでした。」

「そ、そうですね。下じゃなくて上も調べてみませんか?」

「どうやってですか?僕は飛べませんよ。」


 僕は落ちないように床に転がり、頭をだして確認する。絶壁の上は高いが天井が見えている。ついで左右と下を確認したが、横穴などは見つからなかった。でも分かったことは1つあった絶壁の断面は何かで切り取られたように不自然なほど断面が綺麗なのだ。


「横穴などはないようですね。」

「そうですか。この程度で先へ進めれば長い歴史の中で未踏破ってことはないでしょうね。」

「確かにそうですね。でもおかしいです。こんなキレイな断面は人工物としか考えられませんし、絶対に何かあると思いますよ。」

「ふふ、ならばいっそ2人で飛んでみましょうか?」


 ユイも寝転がり絶壁の断面を確認し始めた。僕はダンジョンよりも隣で寝っ転がるユイに気を取られてしまっていた。


「私旅ができて良かったです。家の中じゃこんな場所絶対にないですからね。ずっと神に旅のできる体をくださいと祈っていたのですよ。さいわい私は魔法の適性が高かったようで少しは動くことができるようになりました。これはきっと神の奇跡ですね。」


「神の奇跡ですか?。」


 僕は、あの怪しい神様に祈りなんて捧げようとは、なかなか思えないだろう。でもあの神様がしないかったら僕はここにいないって考えると少しの感謝くらいはしてもいい気がしてきた。


 『ピコン』と僕の腕がなり、久方ぶりに神様からの通知のようなものが届いた。

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異世界がゾンビで溢れかえった 犬小屋 @wanko777

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