第15話 002

 遭遇した冒険者と別れた僕達は、ダンジョン最大の名所であるらしい地底湖に向かっていた。先頭はユイと僕でアルトは、つまらなそうに僕たちの後を追っている。入ってきた時は気にならなかったが足元はまっ平で歩きやすく、壁からはみ出した岩は綺麗に削り取られダンジョンと思えないくらい綺麗で歩きやすいのだ。ここはやっぱり観光地なのだと再認識しながら歩いていた。


・・・


 そのまましばらく進むと、狭いが部屋のような場所に辿り着いた。きっと休憩所だろう。この部屋の中央には燭台があり、その下に短めのろうそく何本も置かれていた。その燭台を中心に部屋の壁には椅子が並べられていた。ユイは燭台の下からろうそくをとりだし燭台にくっつけるとろうそくに灯をともす。


「ここを抜ければ、直ぐですよ。楽しみですね。」

「はい、僕もちょっとわくわくしてます。地底湖ってちょっと響きがいいですね。」

「ふふ、ここはルーン王国の観光十選にも選べれるほどの名所なんですよ。」


 そう既にユイだけでなく僕も観光モードなのだ。ユイと僕はさらに奥へ進む。僕はわくわくからどきどきに変わっていた。蚊帳の外のアルトは無言で僕たちの後を追い部屋を後にした。

 部屋さきは広がりこの先がかなり大きな部屋となることを窺わせた、それと同時に「一応な。ちょっと待ってろ」とアルトが前に出る。

 アルトは、ユイと僕を待たせ部屋の中を先行して確認しているようだ。アルトは戻ってくると僕から松明とパンの袋を取り上げ、壁に寄りかかった。


「行ってこい。俺は興味がないからここで待ってる」

「では行きましょう」


 2人で洞窟の奥へと進む。地底湖の部屋はかなり広く、城でも作れそうなくらい広さだ。天井には所々鍾乳石が生えていて、その下の鍾乳石は天に向かっている。びっしりと生えた鍾乳石の中に一筋の線が緩やかな曲線を描いていた。

 僕とユイはその曲線に沿ってさらに奥へと進む、そして道が広くなってきた所で僕たちは揃って地底湖を声を上げた。目の前には透き通った湖が広がっている、そして数本の柱の様な鍾乳石が天井から地面までつながっていた。丁度左右対象に並ぶ大きな鍾乳石、そして奥の岩の形がまるでここが神殿のように思わせるのだ。


「すごい。まるで、神殿ですね」

「ふふ、そうですね」

「本当に神秘的ですね。僕ちょっと拝みたくなってきました。」

「私もここまで美しいとは思っていませんでしたよ。やはり本と実物では違いますね。来てよかったです」


 僕たちは水を触ったり奥のほうがどうなっているのか覗いたりした後に地底湖の中央まで戻ってきた来た。


「こちらに座っていただけますか」


 地底湖を前にユイは僕を座らせた。そしてどこからか拾ってきた小石を僕に渡した。


「こちらにライトを」


 小石にライトをかけると、ユイは自分に付いているライトを指す。やっと何がしたいのか察した僕は、頭上のライトを消した。僕たちのライトが消えるとユイの持つ小石だけがこの空間を照らしている。そしてその光る小石が地底湖へと投げ込まれるたびに地底湖の輝きがます。

 そしてライトアップされた鍾乳洞にから作られる影と光が織り交ざり神々しく光り輝いた。あまりの神々しさと神聖さで鍾乳洞ではなく本当に神殿と思わせるくらいだ。


「ふふ、私はこれが見たくてお兄様の旅についてきたのですよ。これを見れたらもう死んでも構いませんよ。」


 確かに、これはすごい。元の世界ではジジババ臭いとと思っていたものにこんなに心を奪られるなんて、いやでも僕の心を奪ったのは・・・。


「実はですね。ここは恋人同士が将来を誓いあうと必ず幸せになると言われています。本当は、ちゃんとした恋人が出来てから来たかったのですが、今回はリョウタで我慢します。」


  ・・・ですよね。ひどい、がっかりだ。純情をもてあそばれた気がする。


「ですが病弱なのは本当の事ですのでもうここへ来れる機会はないのでしょう。」

「・・・本気になりそうです。僕じゃだめですか?」

「本気で最強の剣士を目指すのですよね。わかっていますよ。私が一流の剣士にして差し上げますから!!」


 既に恋人ごっこは終わったようで、いつもの脳筋剣士様に戻っていた。


「ではそろそろ戻りましょう。ここは人気なので制限時間があるのですよ。」


そういってユイは手に持った燭台に付いた短くなった蝋燭を見せて立ち上がった。


・・・


 僕たちが休憩所まで戻るとアルトが椅子に座っていた。僕たちの帰りを確認したアルトは椅子から立ち上がり言った。


「ん?はやかったな。」


 僕にはなんといったのか聞こえなかったがアルトがユイに耳打ちをすると、ユイは剣の柄でアルトの腹を打った。その動きは病弱ではなく達人そのものだった。

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