人気ダンジョンは観光地?

第14話 001

「起きてください。訓練の時間ですよ。」


ユイによって僕の体はゆすられ目が覚めた。この世界にきて起こされてばかりの僕は床から起き上がり、窓をあける。そこに広がるのはまぶしい3の太陽が沈みかけた頃だった、僕は、また「兄妹なのだなぁ」っと思いつつ重たい瞼を持ち上げるようにこすった。


「それにしても、寝相が悪いですね。布団から出て床で寝ているなんて・・・」


 はっ、あのまま寝落ちしたのか・・・。筋肉痛で少し違和感はあるが、寝違えたりしてはいないようだ。きっとステータスが上がって体が頑丈になったおかげだろう。


「おはよう」

「おはようございます」


・・・


「ひぃーー。いたたたた・・・無理です。勘弁してください。」

「まだです。これからですよ」


 ユイが力任せに引っ張たり押したりするのだ。一般的な柔軟体操ではない、関節を壊し軟体動物にでもするかのような本格的な柔軟体操だ。

それが終わると、ユイは外を指した。


「全力で走って来てください。」

「僕だけ?」

「そうですよ。帰りにギルドでパンを買ってくださいね。」


これはあれだ、パシリはである。だが実力のない弟子が師匠に逆らうことほど恐ろしいことは無いだろう。金銭を受けそれはそれはもう全力で走った。宿からギルドまでそれほど遠くなく、再度外を指で刺されても困るので、碑石の公園で少し小休止だ。その後、ギルド2階で水を飲み。パンを買いまた宿まで走った。そこからは、全力疾走でだ。


・・・


 宿に戻るとアルトが戻ってきていたようで、偉そうに椅子に座っていた。やつは僕の手からパンの入った袋を取り上げるとちぎって口に入れた。おい!お前のために買ってきていないぞ。


「相変わらずかてぇパンだな」

「ちゃんと走ってきたみたいですね」


 ユイの言葉にほっとした僕も椅子に腰かけて休憩だ。


「朝練かぁー。がんばってるみたいだな」

「お兄様、今日の草原のダンジョンは楽しみですね」


 今回はダンジョン攻略には反対しそうなユイが一番楽しそうなのだ。逆にアルトは微妙な感じでユイに返答した。


「そうだなー。だけどあまり期待するなよ。」

「わかっていますよ。お兄様だって私を連れてじゃ難しいですよね」


 草原のダンジョンには何か特殊なことでもあるのだろうか?状況が呑み込めていない僕はパンをかじりながらいつも通り空気に徹する。

 パンを食べ終わったところでアルトが「んじゃあいくか!」と声を上げた。アルトは荷物を持とうとする僕にパンの袋と松明だけを渡した。今回、アルトとユイの荷物はロビーで預けた。どうやら軽装で草原のダンジョンに向かうようだ。ちなみにこの時やっと1の太陽が顔をだしたくらいである。


・・・


 アブル村の門を抜けて壁沿いに少し歩くとそこには冒険者たちの塊があった。冒険者たちは綺麗に列になっていて20人くらいはいるだろう。

 そしてこれから僕たちもこの集団に仲間入りするのだろう。因にこの列はダンジョンまでの馬車待ちということである。

 しばらくすると何台もの馬車がとまり、僕たちを含めた冒険者はその馬車に吸い込まれていった。


・・・


「これで、ダンジョンまでいくのですか?」

「そうですよ。今日は人が少ないようですね」


 答えたのはユイだ。


「俺の予定には無かったけどな。草原の怪鳥ダンジョンって呼ばれていて、その最奥の碑石には自由に空を飛べる魔法が刻まれているそうだ。」


さっきからアルトはあまり興味がなさそうなのだ。


「あまり乗り気じゃないのですね?」

「あぁここはユイの希望だからな、振り切ったらそのまま次の町に向かう予定だった。」


 空を自由に飛べるってものすごく便利そうだし戦闘でも役に立ちそうなものだけど何がダメなのだろうか?女性限定とか?でも周りの冒険者は全て女性というわけではない。


「ここはですね。攻略手順が見つかっていないものありますが、魔物がいないので魔石による収益も見込めない微妙なダンジョンなんですよ。」


 今日の解説役はユイのようで少女の夢を叶えるようなこのダンジョンは10万年攻略方法が見つかっていない幻のダンジョンへと入るようだ。


・・・


 止まった馬車から飛び降りて僕は驚いた、トラック2台が余裕で入れくらいの大きな洞窟が口を開いていたのである。僕の想像では草原に濃い霧が、かかり天然の迷宮になっているダンジョンだったのだ。


「思っていたのと全然違った。」

「何想像してたんだ?」

「草原だと思っていましたよ。普通のダンジョンっぽいですね」

「まぁそうだな。」

「お二方、準備はよろしいですか?進みましょう!」


 横でユイがビシッと洞窟の入口を指さした。早速3人で大きく口を開ける洞窟の入口へと向う、途中には様々な看板を持った付与師が立っていてその内容も様々だ、明るくなる魔法はきっとライトだろう。ほかにも足が速くなる魔法、荷物が軽くなる魔法、おなかがすかなくなる魔法などいろいろあったが、ここでは魔物が出ないためなのだろうか攻撃力や防御力を高める魔法師が居ないみたいだ。


「補助魔法買ってみるか?」

「お兄様、ライトはリョウタさんが使えるので、十分ではありませんか?進みましょう。」

「そうだな。進もうぜ」


 あまりに大きな入口だったためか、気が付かなかったが、入口に差し掛かったところにロープが張ってあり、兵士のような人が僕たちの行く手を阻んだ。


「3人か?」


 兵士は僕たちを見て、何やらメモを取っている。リーダーであるアルトが一歩前に出て返答を開始した。


「ああ3人だ」

「300ポイントだ。」


 ここも有料のダンジョンという事だ結構屈強そうな兵士が管理しているところを見ると国なのだろう。

 差し込む光が、見えなくなったところでメンバーにライトを使うと3重のライトが広い洞窟を明るく照らす。そのライトの光でアルトは先ほど渡された紙を見ながらうなる。


「んでどっち行くんだよ・・・」

「見せてもらってもいいですか?」


 アルトから紙を渡されたその紙は地図のようで、穴が上下左右に無数に入り組んでいるようで単純に階段を降りればいいとうものではないことがわかるが不思議なことがあった。


「この地図を見る限りだと全部の通路が行き止まりですね?」

「あぁそうなんだよ。俺がここを避けた理由はそこだよ。俺はここがダンジョンじゃないと思っている。」

「碑石が見つからないのじゃなくて碑石が無いってことですか?」

「多分な?ダンジョンなのに魔物が出ない所も怪しいな。」

「はぁ夢がないですね。お二方とも今日くらいは信じて探していただけませんか?」

「僕は信じていますよ」

「おい!リョウタうらぎるのか?」


・・・


 雑談しながら歩くと直ぐに洞窟に入ってから一番初めの分かれ道だ。何とそこには、他の冒険者のパーティーが待ち構えていたのだ。

冒険者同士が出会ったらバトルが始まったりするのかとドキドキしたが、観光地でたまたま出会った旅行者のような会話が繰り広げられた。


「私たちは、地底湖からいったんこちらに戻り絶壁を目指そうかと思っておりますよ。」


 ユイが出会った冒険者の女性に行き先を伝えているのだ。これは情報漏洩と言ってもいいだろう。


「わかる。やっぱりここに来たら鉄板だよね。地底湖にある鍾乳石が最高のいい雰囲気なのよ。私達は3度目目だから。螺旋階段と大洞窟行く予定よ。」

「螺旋階段も捨てがたいですね。そちらも考えたのですがはやり定番からと思いまして。」


 なんだこれは!完全に目的が観光だ・・・これはアルトが避けるのもうなずけた。ここはダンジョンではないただの観光地だった。

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