昼餉

グゥーキュルルルと、数メートル先から盛大な音がした。

「はしたないぞ。陶将軍」

そこには許王妃に負けず劣らずの端正な顔立ちをした、女人が立っていた。

「わ、私ではないぞ。陸将軍」

陶将軍と呼ばれた女人の側には、また凱殿下に負けず劣らずの端正な顔立ちの男が立っていた。


「陸将軍、陶将軍、昼餉に致しましょう」

許王妃が一言目を発した瞬間には、走り出す陸将軍の姿があり、許王妃と凱殿下の間に割って入る。


「今日の昼餉は、許王妃様が改良に成功しました桃を使った饅頭と、東国より届きました魚の…」

陸将軍は、許王妃の腕に自分の腕を絡めてグイグイと近くの東屋へと引っ張って行く。


「何故に陸将軍を止めぬ」

陸将軍に割って入られ、3歩後ろを歩く陶将軍に恨めしく声をかけた。

「凱殿下。私が陸将軍を止めれるとでも」

今にも泣き出しそうな表情と、か細い声を出す。

凱殿下より背は高く、肩幅も広い武人の姿はどこえやらだった。


「武術の腕前は陶将軍が上と聞いているが」

早く早くと手招きする許王妃を愛おしそうに見つめ、隣にいる凱殿下を睨む陸将軍はあえて見えないフリをした。

「そんな事は御座いません。陸将軍の刀捌きは国一で御座います」

陸将軍に聞こえるよう、さきほどとは変わって腹から声を出すのだった。



手招きしていた許王妃の手首を優しく掴み、慣れきった様子で凱殿下の太ももの間に座らせる。

「凱殿下。何をなさっているので?」

さらに険しい目つきの陸将軍。今にでも剣を抜きそうな勢いがあった。

「睦み合っている」

桃の饅頭をちぎりながら、許王妃の口へ運ぶ。許王妃も、凱殿下が持っている桃の饅頭をちぎり凱殿下の口へ運ぶ。

その動作が何度か続くと、陸将軍はナツメの魚煮を許王妃の口に運びながら、さらに殺気を凱殿下に飛ばした。


「許王妃の本日の一日は、献上品、虹色の衣、東国訪問の荷物の最終確認。桃園、医館、米畑の視察に寺院への道中の安全を祈願するお参りまであるのですよ!」


「ふぅー」

とろりと煮込まれた香りたつ汁物に息をかけ、一口飲み温度を確かめた。そして、許王妃の口元へゆっくり運び飲ませる。

「詰め込んだな。愛しき許王妃よ」

許王妃は、蓮の葉で包まれていた鶏肉をちぎり、凱殿下の口元へ運ぶ。

「民あっての皇族。当たり前の務めですわ」

満面の笑顔の許王妃に、凱殿下は愛しさが募る。

鶏肉を食べ終わり、そのまま許王妃が鶏肉を持っていた指に舌を這わせ、指の感触と、蓮の香りを楽しんだ。

舌を這わせたまま、許王妃の黄水晶色の瞳を見つめる。

「午後は許王妃に会えそうにないと思うと、千秋の思いぞ」

そして、軽く指を噛んだ。


この時間が一生終わりそうにないと感じた陸将軍は、凱殿下の間に座っていた許王妃を抱き抱えてしまう。

「当たり前では御座いません。いつもの三倍お忙しいというのに、お昼までに終わったのは献上品の確認のみ」

凱殿下が奪い返す前に、颯爽とその場を立ち去る。

「夜までお待ち下さい。愛しておりますわ凱殿下」

抱き抱えられたまま、凱殿下に手を振った。

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