口づけは

近づく凱殿下の唇に、そっと許王妃は親指でゆっくりと唇の端から端に触れる。

厚くも薄くもなく、綿飴のような柔らかさと、甘い香りを放っていた。


「今日の唇は、一段と血色が良いですわ」

凱殿下も許王妃と同じように唇に触れ、頬に耳に首に鎖骨にと触れていく。

「朝の出来事を忘れたのか」


「熱かったですわ。そして今も」

凱殿下に触れられるたびに、身体の温度が上昇していくのを感じながら瞼をそっと閉じた。


ふいに突風が吹き、庭園の草花が二人を包み込むように舞った。

多種多様な香りが二人の鼻腔をくすぐり、一枚の花弁が凱殿下の唇に張り付いた。


「今度は、私が妬けてしまいますわ。庭園も凱殿下をお好きなようで」

凱殿下の唇に張り付いた、花弁をとりながらクスクスと笑う。

「それは違うぞ許王妃。庭園が私に嫉妬したのだ」

笑う唇を、もう一度塞ぐように近づく凱殿下。

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