愛に満ち溢れた日々

「私の愛しい許(シュー)王妃よ」

後ろから、精巧なガラス細工に触れるように抱きしめられ、耳元で囁かれる。


「凱(カイ)殿下」

振り向くと、お互いの鼻がふんわりと当たり、見つめ合う。


「美しい藍玉色の瞳に私が映ってますわ。私の大好きな瞳」

凱殿下の頬に、唇に、睫毛に、愛しさをこめて触れる。


「大好きなのは瞳だけかい?」

目を細め意地悪な笑顔で、許王妃の手の平に凱殿下の手の平が重なる。


「まぁ。何を言わせたいのです」

先ほどのお返しとばかりに、今度は許王妃が凱殿下の耳元ギリギリに唇を寄せ囁く。


「私の全てを愛していると。そして私と昼餉をとりたいと」

ゆっくりと許王妃の肌の感触を確かめるように、手の間に指を絡める。


「もう、そんな時間でしたのね。愛してる凱殿下の相手もしてあげなくてわいけないのだけど…」

絡められた手は離さずに、後を振り向き庭園を眺める。


そこには、色とりどりの花や草が咲き誇っていた。

「また、違う種類が増えてるのは気のせいかい?」

許王妃の首に、凱殿下は頬を密着させなが庭園を眺めた。


「さすがですわ。愛しの凱殿下。明日訪問します東(とう)国への献上品が出来上がりましたの」

凱殿下の頬の温もりを幸せに感じ、凱殿下の頭に許王妃は頭をもたれかける。


「東国は海に面し漁業が盛んな国。その変わり潮風の影響で中々、植物が育たないと隆(りゅう)国王が嘆いていらっしゃったでしょ」

許王妃の高くも低くも無いその声と、ゆったりとした口調を、いつまでも聞いていたいと

凱殿下は静かに瞼を閉じ声に集中した。


「潮風に強い植物がやっと出来ましたの。これで東国の方々も、我が央(おう)国のように緑豊かな大地が手に入りますわ」

許王妃も瞼を閉じ、緑豊かになる東国を思った。


その思いを勘違いした凱殿下が、パチンと目をあけ許王妃の両頬を手で包みこむ。

「東国と隆国王に妬けてしまうな」

許王妃は大きく目を見開き、凱殿下を見つめた。


「愛する許王妃の貴重な時間を奪われ、その植物を作る時に劉国王の事を考えていたという事になる」

許王妃はクスクスと小鳥のさえずりの様に笑う。

「笑い事ではないぞ」

凱殿下は、許王妃のおでこに優しくコツンと自分のおでこをくっつけた。

その愛らしい態度に、また笑ってしまう許王妃。

「まだ笑うなら、その口を閉じてしまおうか」




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