第24話:今からでも入れる保険はありますか?

「明日からテストだけどそっちの進捗はどう?」

「課題は一通り終わらせた。それに勉強自体も今までで一番出来たかもな」


 花恋と毎日勉強するようになってから二週間ほどしてテスト前日になった。俺にとって誰かに見られながら勉強するというのは思いのほか効果があったらしく、今までは提出前日まで残りがちだった課題もテスト開始前にすべて終わらせることができた。それに、内容もいつも以上に頭に入ってきたような、気がする。


「聞いてきた花恋の方はどうなんだ?」

「んー、いつも通り?でもいつもよりかは集中できたかも」


 どうやら花恋の方も調子はよかったらしい。


 すると、花恋は俺の方へと体を寄せてきた。花恋は香里菜に連れられて俺の家に来て以来、二人きりの場面ではこうしてくっついてくるようになった。今は俺の肩に頭をすりすりしている。


「こうすればいいのか?」

「んー」


 俺が頭を撫でてやると花恋が目を細めたのが見えた。あれだ、猫みたいだな。


「そういえばさ」

「なんだ?」

「進君っていつもどんな感じで勉強してるの?」

「いつもと言われても普通に教科書とか読んで課題とかしてるだけだが?」

「つまり私の前でやってるのと大差ないってこと?」

「まあ、そうだな。花恋はどうなんだ?」

「んー、私も似たようなものかな。でも一人でするよりは集中できたかも」

「それは俺もだな」


 どうやら二人で勉強した方が勉強が捗ったのは花恋も同じだったらしい。そういえば、花恋は家で普段どうしているんだ?何かと俺といることが多いけども、家のことは大丈夫なのか?


「こうして話したせいで集中切れちゃったな。少し休憩しようか」

「うん、そうしよー!」

「それじゃあ飲み物とか用意してくる」

「ん、お願いー」


 俺は席を立ってキッチンへと向かい、紅茶の用意をする。その用意が終わったらその紅茶と今日もまた花恋が持ってきたお菓子とを持ってリビングへと戻る。しかしまあ、花恋って毎日俺と会うようなときにはお菓子を持ってきているけれど一体どこから湧いて出てきているんだろうか。どれも市販のものだから買ってきているんだろうけど、毎回そこそこの量を買ってきているから結構お金が掛かっているはず。一応うちの学校バイト禁止だからお小遣いの範疇なんだろうけど、それでも多くないか?家がよっぽど余裕あるのだろうか?ちなみに今日はチョコパイだった。


「ほい、用意出来たぞ」

「ん、ありがとねー」

「今日のお菓子はチョコの甘いやつだったから少し砂糖少な目で調整してあるぞ」

「どれどれ?うん、ばっちりだね」


 花恋は俺の淹れた紅茶とチョコパイをそれぞれ味わって満足そうに頷いた。どうやらお気に召してくれたらしい。


 ちなみに、花恋が来るたびに紅茶やらの飲み物を用意していたら花恋の味の好みを大体把握してしまっていたりする。現にさっきだって特に何も聞くことなく花恋好みの紅茶を用意出来てしまった。なんなら今日のお菓子に合うようにアレンジまで加えて。正直、ほぼ完璧に彼女好みの料理を作れるような気がしないでもないが、することはあるのだろうか。


「しかし、花恋ってお菓子好きだよな」

「うん、大好きだよ」


 そう言って花恋はもう一つチョコパイを口に運んだ。そんな花恋について少しだけ気になることがあったりする。


 食べたお菓子、どこに消えてるんだろうか。


 気になりはすることだが、うん、余計な詮索はやめておこう。


「どうしたの?」

「なんもないぞ」


 なにやら怪しまれてしまった。少し視線を逸らしながらも誤魔化すと花恋はふーん、とだけ言ってまたチョコパイを口に運んだ。


 前に抱き着かれたときに知ったことなのだが、花恋はかなり着痩せするタイプだと思われる。いや、実際に見たことはないからわからないのだが。それでいて見える範囲では理想的なプロポーションなのだ。裏で何かしてるのかもしれないけど、そこを詮索するのはなおさら野暮だろう。


「ねえ、進君」

「なんだ?」

「どうせならテストの点勝負しようよ」

「それ、前日に言うことか?」

「思い付きだからね」

「…一応確認するが中間の点数は?」

「九割はあったかな。学年では一桁だったかな」

「俺八割くらいだったんだが?今から頑張ってもその差を埋められるか微妙じゃないか?」

「んー、まあどうにかなるでしょ」

「おい」


 なお、結局思い付きで発案されたテストの点での勝負はすることになった。というか断り切れなかった。…これ負けたらペナルティとかないよな?大丈夫だよな?今からでも入れる保険、ないかなあ。


―――――――――


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お姫様は俺の前でだけ様子がおかしい @YukiiroKotoha

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