第23話:きっと同じ

side 篠原ささはら花恋かれん


「それじゃ帰るねー」

「ああ、また明日な」


 今日から始まった勉強会は何回かの休憩を挟みつつも恙なく終わった。かなり密度の濃い勉強が出来た気がする。まあ、私は勉強もそうだけどその合間の休憩のお菓子を目的としていたところがあるからかもしれないんだけどね。


 進君の住んでいるマンションから出たところで進君の住んでいる階を見てみると、もうすでに進君の部屋の扉は閉まっていた。見送りとかは特にないんだ、ふーん。って私は何を期待してるんだ。最近寒くなってきたし、そんな義理もないのに。


 進君の家を出て家へと帰るために一人で歩き出すと思い出すのは昼間のこと。やっぱり昼間の香里菜ちゃんの話が気になっちゃうんだよなあ。そう思って昼のことを思い出す。


『これは私達が小学校の三年生のときの話なんですけど』


 確かこんな感じで話し始めていたと思う。


『早速ですけど、そこの三人は私のこの姿を見てどう思いました?』


 香里菜ちゃんは私と田原君、それに麻耶ちゃんを指差してそう言った。まあそれぞれ香里菜ちゃんの容姿について触れていったけど、まあ共通していたのは綺麗でどこか神秘的という点だった。まあ、私は心の中で黙っていれば、ってつけたんだけど。


『そうですか、その感じは別にお世辞ってわけでもなさそうですね』


 私達三人の感想を一通り聞いた香里菜ちゃんはどこか安心した様子だったかな。今思うと質問してきたときはどこか怯えていたように思う。  


『今でこそ言われることはほぼなくなりましたが、私はそのころはこの容姿について色々と陰口を言われていたんですよ。いや、もっと正確に言うといじめられていた、と言った方がいいかもしれないですね』


 香里菜ちゃんは割とあっさりといじめられていたことがあるというどう考えても重い過去を明かしてきたんだよね。そのときのことを知らない三人はどう反応すればわからないといった反応をしてしまっていたと思う。


『でも、そんなときにはいつも進君が助けてくれたんですよ』

『そうだな』


 香里菜ちゃんが視線を進君に向けると、進君は香里菜ちゃんの話を肯定していた。どうやらそれは事実だったらしい。


『まあ、今となっては皆さんも知っての通り環境の変化もあってそんなことはありませんですけどね』

『それは香里菜が可愛く、いやなんでもない』


 どうやら香里菜ちゃんは成長に伴ってその容姿に対する評価が変わっていったらしい。まあ、そりゃ白髪赤眼なんて目を引くし、さらに今のような容姿が完成してしまえば評価は逆転するだろうなあ。

 

『まあ、私は進君に助けられていたんですよ』


 と、香里菜ちゃんは軽く過去の話を一回終わらせた。


『香里菜ちゃんって色々と大変だったんだねー』

『まあ、私は進君のおかげもあって無事にここにいるんでいいんですよ』

『そうなんだねー』

『進君はクラスが違っていても出来るだけ様子を見に来て目を光らせていたんですよ。本当に過保護だったと思いますよ。多分、今も変わっていないと思いますがね』

『おい』

『否定できますか?』

『…少なくともその時に関しては無理な気がするわ』

『今はどうなんですか?』

『少なくとも香里菜は放置でいいと思ってる』

『まあ、否定は無理ですね。だって、今の私は手札が多いですから。守られるだけの人ではないです』

『うわあ、名家の人間っぽいこと言ってんな…』

『守、見えないかもしれないが実際にこいつは名家の人間なんだ』

『お、おう』


 幼馴染とカップルの混じった四人の会話。この中にどうしても私が引っかかる内容があったんだよね。


 でも、他の人は気づいていない感じがしたんだ。言った本人も多分気づいていない。私が違和感に気づいたのも進君の様子が少しおかしかったのがたまたま見えたからだし。


 その言葉を聞いた進君は少し目を見開いたかと思うと、視線を逸らしていた。どこか顔にも影が入っているのが見えたような気がした。


 その違和感を確認しようとしたら進君は違和感なんてなかったと答えた。だけど、これは多分嘘。黙秘するのではなく、わざわざ嘘をついたんだと思う。あのときの表情を見るとそう思う。


「とはいえ、ある意味私も似たようなものですよね」


 いつの間にか私の思考はいつもの仮面をつけたものに戻っていました。きっと、進君と別れてしばらく経ったからでしょう。


 私の違和感とその違和感の原因の推察が正しければ、彼は私と同じようなものなんだと思います。ただ、そのあとのアプローチが違うだけ。


 私は私自身を彼女の偶像にしてそのどうしようもない絶望を覆い隠した。そして、進君は多分、すべてを諦めている。共通点は、互いにその現実を直視していないことでしょうか。


 いい加減受け入れなければいけないんでしょう。けれど、


「でも、私には無理ですよ」

 

 あの無力感、そして喪失感は今も私を蝕んでいるんですから。


―――――――――


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