第22話:触れられたくないこと
「結局大したことは仕掛けてこなかったな」
「そうだねー」
香里菜が花恋を連れてきた昼があった放課後、俺たち二人は俺の家に集まっていた。結局のところ、香里菜の話は少なくとも花恋には関係のないことだった。
「しかし、香里菜ちゃんと進君ってほんとに昔からの知り合いなんだねえ」
「まあ、親同士の付き合いがあったからな。というか信じてなかったのか?」
「んー、現実味がない?」
「そんなにか?」
「そんなに」
そう言いながらも花恋はノートにペンを走らせている。昨日約束した通りに勉強を一緒にしているからだ。
「色々と進君のことについて知れたからよかったけどね」
「俺にとっては割と異議申し立てしたいことも多かったけどな」
そう、昼放課の時間にされた話というのはお察しの通り俺と香里菜の過去の話だった。
「その話についてさ、その場では聞けなかったことがあるんだけど聞いてもいい?」
「内容次第」
「聞いてはくれるってことね。んじゃ早速。進君って香里菜ちゃんの話によると小学校くらいまではかなりコミュニケーション取ったりする感じだったのに今は逆に距離を取ろうとしてるの?」
「ただめんどくさくなっただけだぞ?」
「何かあったの?」
俺はその質問に対して黙秘権を行使した。その先にあるものには触れて欲しくない。今は振り切ったと思うことだけど、できれば思い出したくはない。
「答えてはくれないってことは隠していたいことかあ」
「…そうだな」
「うん、ちょっと怖い顔してる」
視界の端に俺の顔を覗き込んでいる茶色の瞳が映る。ちなみに今俺たちは隣り合って勉強している。俺が向かい合って勉強する前提で真ん中に座ったら花恋が割と無理くり隣に来たから諦めた。結果としてスペースが想定よりも狭いんだが、まあ何故か花恋が満足そうだからいいとしよう。
「まあ、これについてはとりあえずはいいや」
「これについて、ってことは当然」
「うん、まだあるよ」
「だと思った」
「それじゃもう一つね。これについては確認なんだけど、香里菜ちゃんの話、何か違和感を感じなかった?」
その質問の答えについて俺は明確に答えを持っている。
「んー、俺は特に感じなかったな」
「そっかー」
だけど、俺は嘘をついた。黙秘よりも質の悪いことをした気がする。けれど、その違和感に気づいてほしくはない。さっきの質問の答えにもつながることだから知られたくない。
「じゃあ気のせいだったのかな」
「そうじゃないか?」
「うーん、まあいいか」
どうにも腑に落ちていないらしい花恋だが、割とあっさりと引いていった。少しホッとすると同時に罪悪感も少々浮かび上がってきた。それは、何に対するものなのかははっきりとしなかった。目の前の少女に対するものなのか、それともこの場にはいない誰かに対するものなのか、もしくはその両方なのか。
「それじゃ、勉強を続けようか」
「…そうだな」
そうして俺は目の前のノートへと目を向けたが、どうにも香里菜がなんであんな話をしたのか、そして、そのことで思い出してしまったことのせいで集中できる気がしなかった。
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