第8話「判明!ダイレイジョーの始まり!」
千年前、人類と魔王軍の数百年に渡る戦争が行われていた時代。
圧倒的な力を持つ魔王、それを支える強力な魔王軍。
数も力も劣る人類は、後数年で絶滅する窮地であったという。
そこで、当時の有力な魔法使い達はとある賭けに出る。
それは何十という魔法使いの命と引き換えに『異世界から最強の援軍を召喚する』という魔法を使うこと。
その魔法は成功し、マイクという異世界人をこの世界に召喚した。
勇者マイクはこの人類とは一線を画した力を持ち、『最後の四騎士』と呼ばれる騎士達と共に、魔王を討ち滅ぼした。
かくして、この世界に再び平穏が訪れたのだった。
「え、えぇもちろん存じておりますわ。勇者マイクも最後の四騎士も、国中に像がありますし、何なら休日も存在しますもの」
「しかし、世間一般に伝わるこの勇者マイク伝説は、一部が改変されて伝わったものなのです。改変された部分、本来はこのようなものでした」
勇者マイクはこの人類とは一線を画した力を持ち、『最後の四騎士』と呼ばれる騎士達と共に魔王軍に立ち向かった。
しかし、魔王との戦いによってマイクは致命傷を負ってしまう。
自らの死期を悟ったマイクは、死後も続く戦争のためにあるものを遺す。
最後の四騎士それぞれに、勇者の力全てを込めた武器を遺したのだ。
勇者マイクの死後、最後の四騎士はその武器を使って魔王軍と戦い、そして魔王を撃ち滅ぼした。
かくして、この世界に再び平穏が訪れたのだった。
「伝承が伝え広がる際に、どこかで不要と判断されたのか。はたまた誰かが故意に消したのか。真実は確かではありませんが、これが本来の勇者マイク伝説なのです」
「ではもしかして、その『勇者の力を込めた武器』というのが……」
「ええ。ダイレイジョーです」
やはり、ダイレイジョーは古代の遺産であった。
そして、勇者マイクが四騎士に遺した武器。
「では、『die rage ore』と表示されるのは…… 」
「……千年前の戦いは、幾つもの国が滅び、何千もの村が焼かれ、何百万という人間が死んだ、人類史最悪の戦争です。異世界から来た勇者マイクも、この世界で何人もの戦友を失ったことでしょう。そんな彼が、自分が死んだ後も戦争に勝利するために全ての力を込めた武器。」
パラりとページをめくった婆や。
そこには勇ましい顔で魔王へ挑む、勇者マイクが描かれていた。
「『I will die, but I leave my rage in this ore.』『死して尚、我が怒りをこの鉱石に刻む。』そういう意味ではないかと、婆やは勝手に想像しております」
中庭に、少し強い風が吹き込む。
揺れる花々が奏でる音が、少し悲しげに聞こえた。
「いや、お待ちになって婆や……。今、最後の四騎士それぞれに遺された武器がダイレイジョーと仰いましたよね?」
「はい」
「つまり、ダイレイジョーは全部で四機存在する、ということですの……?」
その問いに、婆やはしっかりと頷く。
「左様。今回のお暇の間、婆やは王都で『発掘した古代兵器で魔物と戦っている』という組織とコンタクトを取ろうとしておりました。八割がた都市伝説か詐欺の類だと考えておりましたが……」
「私より先に、ダイレイジョーで戦っている方がいるかもしれない……」
そう私が呟くと、「ふむ」と少し悩んだ婆やが少し寂しげに言った。
「ここらが、良いタイミングなのかもしれませんね……」
「え……?」
「明日、婆やは王都へ戻らせていただきます。お嬢様の、これからの話をせねばなりませぬ故」
わたくしが、王都の学院に入学するという話が出るのは、ここから一ヶ月先の話であった。
かくして私はしばしルビー領から離れることになるのだが、その一ヶ月で、わたくしはある壮絶な戦いをすることとなる。
▽
「ゼドに続いてガルマまでやられた。もう、私が出るしかないな」
暗い部屋の中、女は静かに呟いた。
高い窓から差し込む月光が、彼女の首と胸元を細く照らす。
黒いローブに黒い服。
首元に黒いチョーカーを巻いた彼女は、ぎゅっと拳を握り込んで静かに吠える。
「全ては、あの子のために……」
チョーカーが、ドス黒い輝きを放った。
▽
ジェムリア王国の貴族は、その苗字が宝石の名になっている。
その血を継ぐものは代々、名の宝石を操る固有魔法を持って生まれる。
また、家の象徴としてその宝石の色を家色とし、服や小物、各々がその家色の物を纏う。
ただし、法事の際は別である。
死者を弔う時、その時だけは皆一様に黒に染まる。
重い雲が空を覆う中、目元を隠した質素なドレスで、私たちは墓の前に立つ。
今日は私の姉、ルビー・オルトローズの命日である。
十年前の今日、お姉様は不慮の事故で亡くなった。
お姉様が乗った馬車が土砂崩れに巻き込まれたのが原因だった。
まだ私が病に臥していた時のことで、その時の我が家のひどく暗い雰囲気を昨日のように思い出すことができる。
昼間、父は公務をこなし、母はそんな父をいつも通り助け、夜は二人で付きっきりで私の看病をしてくれる。
何も変わらぬように見えて、二人が見えぬところでずっと泣いていることは知っていた。
わたくしも、何日も何日も泣いた。
文武両道、優しく聡明なお姉様は、何よりピアノがお好きだった。
わたくしの体調が比較的良い日はお姉様の隣に座り、
「アン、貴女はうまく弾こうとするあまりペースが落ちてしまう癖があるわ。難しいことを考えず、楽しんでひけばいいの」
そう笑ったお姉様は土砂と共に流され、埋まった馬車はもうどこにあるかさえ分からない。遺体も回収できていない。
故にこの墓の下には誰もいない。誰もいない墓の前で祈りを捧げる。
「お姉様、わたくしあの時より随分ピアノが上手くなりましたのよ」
──だから、またお姉様と
叶わぬ祈りを心に留め、静かに法事は進行していく。
ぽつりぽつりと、雨が降り始めた。
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鉱機令嬢ダイレイジョーG 遠藤ぽてと @donot
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